第44話 新装備?

 自宅に帰り、風呂につかり、一眠りしてから僕は再度ルノンを迎えにファッカスを訪れた。

 冒険者の装備なんて必要ないルノンが、いったいシルノに何の用だろう?


 ルノンと連れ立って歩くこと数分。僕達は、ロック爺の工房に到着した。

 いつもの様にシルノを呼んでもらい、そのまま彼女の作業場へと移動する。


「今日はどうしたっすか?」


 やる気になっているシルノに、まず防具を手渡し、水に浸かった事を説明した。

 武器はその後でもいいや。


「なるほどっす。じゃこっちでメンテナンスしとくっすよ。ただ、乾くのに1週間程かかっちゃうっす」


 なんと、そんなに時間がかかるものなのか。

 革製品は基本的に日陰干しする為時間がかかるのだという。それに形を整えたり、メンテナンスも含めると、それくらいかかってしまうというのだ。


「困ったなぁ。実は明日手合せをすることになっていてね」


 僕は、明日レイラと手合せをすることをシルノに伝えた。もし、あれなら生乾きで装備するしかないだろうなぁ。


「ふっふっふっ……やっぱりついて来て正解だったわ!」


 その時、いきなりルノンが大声を上げた。

 いったい何だっていうのだろうか?


「シルノ! 今こそ装備の出番よ!」


「? 装備っすか? ……! 解ったっす!」


 最初はシルノも解っていなかった様子だが、ルノンの装備と言うのがわかったようで、大急ぎで部屋を出て行ってしまった。


「ねぇルノン。装備って何?」


「それは、見てのお楽しみよ!」


 なんだろう、ルノンの笑顔を見ていると、ファッカスで感じた嫌なモノが蘇ってくる。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 僕の予感は的中した。

 シルノが持ってきた装備は、本当に装備なのかと疑いたくなるモノで、見た瞬間僕は言葉を無くした。


「お待たせしましたっす! これがイズミさん専用のバトルドレスっすよ!」


 うん、色々と言いたいことがてんこ盛りで、何から言っていいのかわからない。でもこれだけは言いたい……いや、言わせて欲しい。

 バトルドレスって何!?


 興奮冷めやまぬ2人に、無理矢理着せられた真っ赤なドレス。僕は、姿見に映った予想以上に似合ってしまっている自分の格好に、自然とため息が漏れた。

 上半身はビスチェと言われるタイプで胸元から上が露出している。

 下半身はやたらとヒラヒラしたスカートで、チュールスカートとか言っていた。


「さすがイズミ! 超絶に似合っているわ!」


「デザインはあのエディールさんがしてくれたっす」


 なんと、あのオカ……服屋のエディールさんまでもが絡んでいるそうだ。

 そして次々とオプション品を取り出してくるシルノ。

 それを僕に装着していくルノン。

 もはや等身大着せ替え人形だ。


 追加で渡された装備は、まずストール。次に、二の腕まである超ロンググローブ、サイハイソックスにパンプスの4点。いずれも黒色で統一されている。

 これで露出がガクッと減った。

 次に太ももに2つのホルスター。

 これをちょうどスカートで隠れる場所に装着する。

 いや、これ何処の不◯子ちゃん!? あと僕の武器はP90だから、ハンドガンのホルスターなんて要らないよ!!


「あとは腰にアイテムポーチを取り付けて……さすがエディールさんのデザインっす! ポーチが目立たないっすよ!」


「完璧……完璧よイズミ!!」


 あ~うん……もうどうでもいいや……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ところで、なんでこれがバトルドレスなの?」


 僕は、完全装備を終えたドレス姿で両手を広げてシルノに質問した。


「その質問には私が説明しよう!」


 勢いよくシルノの作業場に現れたのは、この町で一二を争う魔文字細工師の、


「シュティーアさん!?」


「いや~イズミちゃん、よく似合っているね!」


 ボーイッシュなお姉さんがサムズアップで立っていた。


 シュティーアさんの説明を聞いて、僕は頭が痛くなった。

 何故ならこのドレスには、信じられない数のスキルが付いていたからだ。

 基本的な防御力アップにはじまり、各種属性と状態異常の耐性アップに防刃まで備えられている。また、オプション品まで数えると目眩がしそうな程だ。

 なるほど、これだけスキルが付けば戦闘にも耐えられるだろう。


「それだけの数のスキルが、よく付きましたね」


 僕の感心と呆れの含まれた質問にも、シュティーアさんは怯むことなく答えてくれる。

 これ程までのスキルを付けることが出来たのは、シュティーアさんとシルノが共同開発した新技術が使われているのだ。

 それが、


染色によるスキルの付与


だ。


 詳しい方法は、企業秘密ということで教えてもらえなかったが、どうやらこの2人、1度に多くのスキルを装備に付与する方法を生み出した様だ。


「でも問題が起きたっす」


「そうなんだよ。スキルを付け過ぎて、普通の人じゃまともに発動しなくなったんだよ」


 普段、装備品に付与されているスキルは、装着者の魔力で発動する。

 普段、魔力は意識していなくても常に漏れている。その漏れている微弱な魔力で、装備品のスキルが発動する仕組みになっているのだが、このドレスに付けられたスキルの数が多過ぎて漏れ出す魔力では足りなくなったという事だ。


「そこで、人一倍魔力が多いイズミちゃんになら、扱えるのではないかと思ったわけさ」


 なるほどね、それで僕専用なのか。

 この1ヶ月で、シュティーアさんとシルノに調べ尽くされた結果。僕の魔力保有量は平均的な魔砲師から逸脱しているそうだ。

 これは、ナビちゃんにも確認してある。

 大神さんが僕のステータスを誤入力してしまい、この国の魔力保有量トップの人の約10倍強の魔力が僕にはある。要するに0を1個付け過ぎたのだ。


 まぁそんなこんなで、魔力が大量にある僕は漏れ出す魔力も普通より多くなり、スキルが多くても何ら問題なく起動するだろうという事だらしい。


「どうだい? 何か吸われる感覚とかあるかい?」


 シュティーアさんの質問に首を振り答える。

 むしろ動きやすく、体に馴染んでいる感覚すらある。


「それじゃイズミさん、この装備一式を貸し出すので、使い勝手の感想を下さいっす」


「そうだね。その報告を元に、新商品として売り出す装備に付与するスキルの数を決めようか」


 新商品のテスターと言ったところか。報酬はこの装備一式……。

 まぁお得だから良いか。


 僕は快く了承すると、本来の目的である明日使う武器の事を相談した。

 明日の試合では、非殺傷の魔砲のマガジンが必要なのだが、生憎と僕が持っているハミングバードのマガジン全てに改造が施され、非殺傷のマガジンが無いのだ。

 最悪、短剣2本で戦えば良いのだが、出来れば魔砲を使いたい。


「それじゃこの試作品を使って欲しいっす。今、王都で注目を浴びているモデルの改造版っす」


 そう言うと、シルノが2丁のハンドガンを取り出してきた。


 コルト・ガバメントM1911A1


 アメリカ軍で約70年もの間、正式採用されていた銃で、サル顔の3代目を追う刑事が持っている銃としても有名な物だ。


「王都の本部から流れてきたレプリカをウチなりに改良を加えたモデルっす。いつもイズミさんにお願いしている試作品より反動が強いので注意して下さいっす。後、これ練習用の非殺傷マガジンっす。予備に1個ずつで、全部で4個渡しとくっす。これもドレスと一緒に感想をお願いするっす。じゃあこれで武器はいいっすね?

 じゃあイズミさん続きっすよ! ドレスの改良を行うっす!!」


 普段のシルノからは、想像も出来ない程早口で捲し上げられ、武器の説明を終わらされてしまった。

 そして、目の色が変わってしまった女性3人による『リアル和泉ちゃん着せ替え人形遊び』は、夜遅くまで続いたのだった。

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