176話 妖精の国
公爵邸屋敷跡からトリンドルの森に戻ったネロは、自分のマナを辿って探しに来たエレナ達と合流すると、気持ちを切り替え改めて妖精界に通じている泉を目指す。
合流した三人はその道のりの間に、それぞれの先程あった事を話していた。
「へぇ、じゃあネロはお兄さんの方に出会ったんだね。」
「それで、なんで不機嫌になってたの?」
「……別に、ただ向こうの考え方に思うことがあってな……」
男の考えが前世の自分と酷似していた、などとは言えないのでネロはそれだけで言うと口を閉じる。
――しかし、兄妹ね……
ネロはエレナから男の妹の話を聞いた時、頭の中で前世で仲の良かった双子のベルモンド兄妹の事を思い出していた。
――いや、まさかな……
最後に出会ったのは前世の自分が死ぬ前日、あの頃からおよそ十五年が経ち、今は三十手前と立派な大人になっているだろう。
そしてあの男は外見も年齢的にも一致しているところが多い。
しかし今二人は国の将軍と参謀という国を担う立場におり、こんな王都から離れた何もないところに易々と来ることもないだろう。
そう考えるとネロは別人と判断しそれ以上は考えるのをやめ、今度ははぐれないようにと前を見ながら足を進めた。
ネロが入ってきた公爵邸方面からエレナ達が女性と出会った場所へ戻る道中、そのちょうど真ん中付近の距離辺りになると、エーテルがふと空中で立ち止まる。
「……この辺りね。」
「どうした?」
「どうしたの?」
二人が不審な動きを見せるエーテルに眉を顰める中、エーテルは神妙な顔つきであちこち飛び回りながら、何かを探すように何もない場所を手探りしていく。
「確かさっき来る途中に感じたのはこの辺りだったはずなんだけど……」
何をしているのか分からない二人は飛び回る彼女をただ突っ立って見ていた。
そしてしばらく飛び回っていたエーテルが、その何かを発見したのか、道なりから外れた場所に立つ一本の木の前で止まる。
「あった、ここね。」
そう呟くとエーテルはその場で古代語で呪文を唱え始める、すると木が立っていた場所付近の草木がだけが色を変え、まるでそこだけ別の森のような色鮮やかな、森に変わっていった。
「あ……これってもしかして幻術魔法?」
「確かラルターナの森でも似たようなことがあったな。」
「フフン、さっきネロを探してここを通った時に、この辺りのマナに違和感を感じてたのよねぇ。」
そう得意げに語ったエーテルは、そのまま上機嫌に奥に入って行き、ネロ達も後を追い色の違う草木が生えた森林を進んでいった。
「しかし、なんでこの森はわざわざ二重に魔法がかかってんだ?」
ラルターナの森では森全体に幻術魔法が掛かっていただけであったが、このトリンドルの森では森の周囲に弱い結界が張られ、更に一部に幻術がかかった仕様になっており、ネロがその事に疑問を感じる。
「さあ?私そもそもこの森のこと知らなかったし。」
――こいつはほんとに……
それでも王女か!とツッコミを入れたくなるが、そういったら先程の事をまたドヤ顔で語ってきそうなのでネロは何も言わない事にする。
「……こう言う時にピエトロがいてくれたらなあ。」
きっとピエトロなら答えを知らなくても、推測である程度納得のいく答えを出してくれていただろう。
これからはわからないことを自分達で調べなければならない、ネロはピエトロの存在の大きさを改めて実感していた。
色の変わった草木を辿ってしばらく歩くと、前方に少し開いた場所が見えそこに泉らしきものを発見する。
「見えた!あれがこの森の泉よ!」
泉を目にしたエーテルの表情がパッと花開きそのまま泉まで飛んでいくと、水面の上を踊るように飛び回る。
「今度はちゃんと機能してるんだろうな?」
「ちょっと待ってて……うん、しっかり動いているわ!」
以前の反省を踏まえてネロがあらかじめ確認を取る。
内心不安のあったエーテルだったが、泉が自分のマナに反応したのを確認してホッと一息つく。
ただネロにはその泉が、以前封印されて使えなかったと言うラルターナの森の泉と違いがあるようには見えなかった。
――やっぱり、あれは嘘だったのか?
以前の森ではエーテルの妹、フローラの話で妖精界に通ずる道を封印したと言っていたため確認することもなかったが、そもそもネロとピエトロはその封印したという言葉に疑問を感じていた、そしてこの泉を見て可能性が今回で一層濃くなる。
――もしそうなら、妖精界に行っていいのか?
妖精界の危機が訪れているなか、態々助っ人を遠ざけられたのだから、それなりの理由があったのだろうが、その理由がネロにはわからない。
ただ、以前のフローラの様子を見るに自分に理由があるとは考えている。
だが、ここまで来てしまっているので今更行かないとも言えない。
――まあ、来るなとは言われてないから何らかの時間稼ぎだった可能性だってあるしな。それに理由なら本人に会って直接問いただせばいい。
「じゃあ、さっさと妖精界に行こうぜ。またいつ行けなくなるかわからんしな。」
「それもそうね、じゃあ
エーテルが水面で再び古代の言葉で呪文を唱えると、泉が輝き出し水面に渦の様な異空間への入り口が出現した。
「さあ、ゲートが開いたわ。二人とも、泉の中に入って。」
「ここに入ったらもう妖精界なんだよね?なんだかドキドキするなあ。」
「というより、これ入っても濡れねえよなあ?」
二人が泉に現れた渦を見てそれぞれ感想を口にしながらそのまま渦へと飛び込んだ。
絵的には泉の中に飛び込んだように見えるが、水の中に入った感覚はなく、どちらかというと穴に飛び降りたような感覚だった。
「……って、おい!」
「きゃあぁぁ!」
実際ゲートが地面から離れた位置に繋がっており二人は自分達が空中に放り出されたことに気づくと、そのまま受け身をとる間もなくなく、地面へと落下した。
「……痛たた。」
「おい、空中に出るならそう言えよ。」
「あはは、ゴメン。私達は落下することってないから忘れてたわ。」
笑いながら軽く謝るエーテルにネロが抗議する。
幸いそこまで高くはなかったため、怪我もする事もなかったが、エレナは落下した際に受けた衝撃にお尻をさすりつつ自分達の降りた場所の周囲を見渡す。
「ここが妖精界……」
エレナは改めて自分たちが妖精界に来たことを実感する。周囲には先程森にもあった色鮮やかな草木の他に見たことない花も生えており、上空に見える空も青ではなく、雲一つない七色の空だ。
「どう?すごいでしょ。」
またもやエーテルが自慢げにしているが、ネロはその景色を見てある事に気が付く。
「ここ、妖精の住む世界にしてはなんだか大きくないか?」
妖精の大きさは成人でも手のひらに乗る人形程度の大きさだが、この世界にある物はどれもネロ達のいた人間界と変わらい大きさで妖精達には大き過ぎる。
妖精が作ったとされる妖精界の割には大きさが言葉通り身の丈にあってないと言える。
「んーそう言われればそうね、これが当たり前に思ってたから特に気づかなかったわ。私達の城や家もこの大きな木とかを使ってはいるから便利であっても不便なことはないしね。そんなことより早く城へ行きましょう、二人のことお母様やフローラにもちゃんと紹介したいし。」
ネロの疑問に特に興味を持つ事もなく、そう言うとエーテルは久々となる故郷を楽しそうに飛び回りながら二人を妖精の国へと案内していく。
……しかし、まだ三人は気づいていなかった
自分達の今いる場所がもうすでに戦場になっていることに……
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