第158話 援軍
「ブ、ブラン、どうして……ここに?確か、まだ王都で療養してたはずじゃ……」
「あまり喋るな、説明は後でしてやるからお前は少し休め。」
ブランが振り返り、ロールに肩を貸してそのまま地面に座らせる。そしてありったけの回復薬を渡した後、改めて山賊達と向き合う。
「……さて、誇り高きガゼルの戦士の次はこの俺だ、お前らもつくづく運がないな。」
「ふざけやがって!亜人の次はただの老いぼれじゃねえか!構わねえ、二人共々やっちまえ!」
相手が変わった事で怯んでいた山賊たちが持ち直し、ブランに向かって襲い掛かる。
ブランは
「来い、山賊ども!元ルイン王国将軍グランツ・ブライアン……そして、ダイヤモンドダストの剣士であるプラン様が相手だぁ!」
ロールに感化されたのか十年間隠し通してきた名前を堂々と名乗るブランが両手に持つ大剣を振り回す。
剣を縦に振れば地面が砕け、横に振れば風圧で敵が吹きとぶ。
そのデタラメ破壊力に敵もロールも驚きを隠せないでいた。
「凄い、これが将軍グランツ・ブライアン……そして、ブランの本気」
改めてみるブランの強さに、ロールは興奮と安心感を覚え、まるで観客のような感覚でブランの戦いを観戦する。
「ち、なんつうジジイだ、おい!さっきので行くぞ!」
バラバモンが部下に指示すると、ロールの時と同様に四人の山賊たちが鎖を使ってブランの両腕を拘束する。
「へへへ、よし、後は俺が――」
バラバモンが先程と同じ手はずで鉄球を振り回し始める。
しかし……
「邪魔すんじゃねぇ!」
ブランは拘束する鎖を諸ともせず強引に剣を振り、その鎖を持った山賊ごと引っ張り投げ飛ばす。
「な、なんなんだ、こいつ……デタラメ過ぎだろ。」
気が付けば、数百といた山賊達は壊滅、残るは頭領であるバラバモンだけとなっていた。
「さて、後はお前だけだな」
ブランが一歩一歩歩み寄ると、バラバモンも鉄球を投げ捨て、両手を挙げながら後ろに後退していく。
「ま、待て待て待て、俺なんて相手していていいのかよ?屋敷にはもう俺の部下が向かってるんだぜ?こうしている間にも屋敷が滅茶苦茶に――」
「ああ。それならさっき屋敷から連絡が来たよ、こっちは大丈夫だから安心してくれって。」
「へ?」
「それに、悪いがどうあがいても俺はお前を許す気はねえ……俺の大事な『娘』にこれだけの怪我させてタダで済むと思うなよ!」
ブランに娘と呼ばれると、ロールも少しこっ恥ずかしそうに笑う。
「待て待て待て待て、まず話を――」
「うるせえ!」
ブランの大剣がバラバモンを斬りつけると、バラバモンはそのままバタリと音を立てて倒れる。
意識がない事を確認すると、ブランが剣をしまってロールに歩み寄る。
「立てるか?」
「あ、うん。」
回復薬によりある程度動けるほどまで回復すると、ロールはブランから差し出された手を取りゆっくりと立ち上がる。
「ところで、どうしてブランがここに?」
「ああ、お前達が出発した後、ミディールの城から怪我が治り次第ガガ島に向かってくれと連絡が来てな、なんのことかわからないままここに来てみれば、お前が一人で戦ってるって連絡を受けて急いで駆けつけたってわけよ。」
「国が?どうして」
作戦開始当時はまだ、誰もテリアの動きを知りえてなかったはずで、無論この島が襲われるとは誰もが考えもしていなかった。
「さあな、俺にもわからん。とりあえず今は体を休めるのが先だ、とりあえず屋敷に向かおう。」
「あ、そう言えばさっき言ってたけど、屋敷が無事って……」
「そちらもよく分からん、ただここに来る前に屋敷にいるピエトロの坊主からそう連絡が来たんだ。ま、まずは行ってみることだな。」
そう言うと、二人は倒れた山賊達を避けながらネロの屋敷の方へと歩き出した。
――エルドラゴ伯爵邸
「喰らえ!ウインドブレード!」
「ぎゃあああ!」
メイドの一人が手に持つ剣を一振りすると、剣から風の斬撃が飛び出し山賊の襲う。
攻撃を受けた山賊が倒れると残っているのは下っ端らしき男一人となる。
「なんなんなんだ?このメイド達、とんでも無く強いじゃねぇか。こんなのきいてないぞ?」
屋敷の門前に横一列に並ぶ武器を持つメイドたち、そしてその真ん中には剣を持ったピエトロが立っている。
「クソ、ここは戦略的撤退!」
と言いながら男は一目散に後ろへ走り出す。
しかし
「よし、今だ!」
ピエトロが号令を出すと杖を持ったメイドが杖に魔力を込める。
するとちょうど逃げ出した男の足元に魔法の封じられた
「え?ちょっとま――アガガガガガ⁉」
地面から電撃魔法が飛び出すと、一瞬で男の体を駆け巡り、男は呆気なく倒れてしまう。
「……よし、この戦い、僕たちの勝利だー!」
「「「やったー」」」
ピエトロが剣を掲げ勝鬨をあげるとメイドたちも一斉に緊張をといて一斉に騒ぎ出す。
「凄いわ、この数の敵相手に勝っちゃったわよ?」
「しかも、無傷で」
「まあ、服は少し破けちゃったけどね。」
「これもピエトロ様の巧みな指示のおかげよね。」
そう言ってメイドたちは自分達を指揮していたピエトロを称える。
「僕は大したことはしてないよ、エーコの作った武器が、良かったんだ。」
「そうですよ、私にも感謝の言葉を下さーい」
エーコがふてくされた顔で言う。
実際戦闘経験のない数人のメイド達が百を越える山賊相手に勝利できたのはメイドたちの言う通りピエトロの指揮も大きいが同時にエーコの貢献も大きかった。
メイドたちが手に持つ武器はエーコが作り出した魔法が封印された武器で、使えば一度だけその魔法を発動できる。そして屋敷前の地面には魔法の罠が仕掛けられていた。
あとはピエトロが相手の動きを予測しそれぞれ指示を出し、罠を仕掛けた場所に誘導して発動させ見事撃退した。
「なんか尺だけど、まあ、エーコの武器も凄かったのは事実だしね。」
「なんですかそれー」
「それにしてもまさかエーコがドワーフのハーフってのは意外だったなあ、見た目じゃ身長と胸くらいしかそれっぽいところなかったしね。」
「ハーフじゃなくてクォーターですよ、お爺ちゃんがドワーフなだけでパパもママもおばあちゃんも皆、人間ですよ。だから背も胸もこれから伸びますかね!」
小さな身体の事を弄ってきた先輩メイドに対しエーコは胸を張って言い返す。
「ところでどうしてこんな強力な武器をこんなに作ってたの?」
「それはもちろんご主人様を倒――、ゴホンゴホン。ご主人様を守るために決まっていますよ。」
エーコが白々しい笑顔で言い直すが全員がエーコの真意を察していた。
「あ、そう。まあ、とにかくこれでこっちは大丈夫だけどカーミナル様の方は大丈夫かしら?」
「エレナ様たちはメイド長が看てくれていますし、私達も手伝いに行った方が良いですかね?武器ならまだまだ強力なの沢山ありますし。」
――こいつ、どんなけ自分のご主人を倒したかったのよ。
全員が心の中で突っ込みを入れた。
「あはは、凄い頼もしいけどやめておいた方が良いかな、いくら強力な武器があっても向こうはこっちよりも遥かに強いし数も多い、足手まといになるだけだよ。それに向こうにも援軍が向かってるみたいだしね。」
そう言ってピエトロは先ほどとある人物から連絡が来たボイスカードを見せびらかす。
――ガガ島東部 カーミナル領土カーミナル邸前
「リング様!駄目です、このままでは前線が持ちません!」
「怯むな!何としてでもここで押しとどめるんだ。」
押し寄せるモンスターの侵攻に、もはやカーミナルの持つ兵力は壊滅状態だが、それでもリングは声をあげて兵士たちを率先する。
「赤、こっちも青と白が倒れた!」
「残るは赤と銀と僕だけっさ」
「クソ、まだ半分くらいしか削れていないというのに……」
ナイツオブアーク達も幾度倒しても減る事のない敵の軍勢に実力者の揃うナイツオブアークの面々も倒れ始める、そしてその戦況を見てオーマ卿リーダーのヘルメスが動き出す。
「さて、もう一押しだお前ら、行くぞ」
「「「御意……」」」
ヘルメスが呪文を唱えながら手を掲げると、その上に小さな黒い球体が生まれる。
ヘルメスの声に静かに返事をした部下たちは、ヘルメスの作り出した球体に自分達の魔力を集結させるさせる。
「暗黒上級魔法ダーク・マター」
ヘルメスが魔法を解き放つと、その黒い球体はゆったりと宙を漂うように落ちていく。
あまりの遅さに兵士達は拍子抜けしたのかその球体をジッと見つめる。
しかし……
「いかん!この物体から離れるんだ!」
突如リングが大声で警告すると、兵士達も慌てて球体から距離を取る。
すると黒い球体は、近づいたもの全てを一瞬にして粉々に破壊していく。
「なんだこの魔法は!」
距離をとったのはいいが、球体は消える様子もなく辺りを周囲にいるモンスターごと破壊し続ける。
そして球体は徐々に肥大化し、破壊する範囲を拡大していく。
「この魔法は時間が経つにつれ、周りのマナを吸収し膨張していく、早くしなんとかしないとないとこの島なんて簡単に無くなってしまうぞ?」
ヘルメスがこの魔法の脅威を嘲笑いながら説明する。
対処しようにも近づくこともままならなず、離れた距離から魔法で攻撃するも、球体はその魔力を吸収しさらに肥大化していく。
「リング様、このままでは屋敷が壊れてしまいます。」
「屋敷など構わん、しかしこのままでは本当に島すら危うい、早くなんとかしないと。」
――ん?、この反応は、まさか!
何か手立てはないかとリングが思考を巡らすが見つからず、球体は急かせるように辺りを破壊していく。
「ククク、さあ、精々あがいて見せろ。」
ヘルメスがカタカタ骸の仮面を鳴らしながら自分の魔法に右往左往するリングたちを見物する。
……しかし、その直後、その音が鳴りやんだ。
「なっ⁉」
常に冷静を装っていたヘルメスだったか、たった今、目の前で起きた出来事には驚きを隠せずにいた。
マナを吸収し、近づくものを破壊する暗黒魔法、ダーク・マター……これを消滅させるには発動者であるヘルメスの意識を奪う以外ないはずであった。
だがしかし今、それは別の方法で消されてしまった。
ヘルメスは目を疑った、肥大化した球体が突如縦に真っ二つに割れたかと思うとそこから更に横にも線が入り、続いて目に見えぬ速度で切り刻まれると、一瞬にしてダークマターは塵ほどの大きさとなり分散する様に消えていった。
魔法を斬るという事自体が異常なのに近づいたものを破壊するダーク・マターを斬り刻むなどあり得ない。
ヘルメスはこの魔法を斬ったと思われる目の前の剣士を睨み付ける。
一体いつ、何処から現れたかもわからない謎の剣士、決して若いとは言えない男の剣士は剣をしまう動作からあらゆる動きに一切の無駄がなくそれだけで相当な実力者と言う事がわかる。
そしてその堂々とした立ち振る舞いと凛々しい顔つきは自信に満ち溢れているようだった。
「どうやら間に合ったようだな。」
男が剣を収めると、ナイツオブアークの面々を見る
「金は何とか大丈夫そうだな、銀は……無事、とは言えなさそうだな」
ナイツオブアークのメンバーの心配をする剣士にポール以外の二人は困惑を見せる。
「えーと……俺達の知り合いか?」
「さあ?僕は知らないっさ。」
「でも俺達の事知ってる感じだぞ?」
互いに顔に覚えがないという金と銀の騎士、しかし、困惑する二人に対し赤の騎士ポールは少し足を引きずりながら現れた剣士に近づく。
「まさか、本当に来てくれるとは、途中リンクが繋がった時は驚いたぞ?」
「まあ、色々あってな、しかしまだお前のスキルが有効でよかった。」
「当り前だ、俺はまだお前はナイツオブアークの一員だと仲間だと思ってるからな、マルス……いや、黒の騎士!」
その名で呼んだ瞬間、金と銀の騎士の目の前にいる剣士と、かつて共に戦っていた暗い雰囲気を漂わせていた仲間の剣士の姿が重なり合った。
「「え、えええええええ!」」
絶望を感じさせるほどの重い空気が滞っていた戦場に、場違いのような二人の声が響き渡った。
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