第148話 血筋

今から数百年前にアドラー帝国を建国した初代皇帝ヴィリッツ・アドラーは非常に優れた皇帝であった。

元は魔法大国テスでも名の通った魔導士であったが、それと同時に魔法の研究に没頭するあまり、自分のアトリエから滅多に出てこなかったため、周りから変わり者として扱われていた。


そんな彼が一目置かれたのはテスがバルオルグスに滅ぼされた後だった。

テスが滅ぼされ、周りが未だ混乱に陥ってる中、国の復興の声を真っ先に挙げたのがヴィリッツだった。


 ヴィリッツは自分の魔法論を交えて今回起きた悲劇の原因と国の落ち度を説明し国を強く批判した後、今後の復興の計画を演説した。


 元々魔法大国なだけあって魔法に長けたものが多いテスの民にとって、ヴィリッツの言葉は非常に魅力と説得力があり、現国の無能さとヴィリッツの有能さを諭された国民は気が付けば皆がヴィリッツの元に集まっていた。


 そして長い年月がかかったが、ヴィリッツの指導の元、国は見事に復興し、新しい国「アドラー王国」が誕生した。

 正式な国の王となったヴィリッツが初めに掲げた方針は意外にも脱・魔法国家だった。


 今回起きた悲劇は人間が魔法に深入りしすぎたのが原因、魔法は必要最低限でいいと人々を魔法から遠ざけた。

 そしてバルオルグスを封印した英雄から話を聞き、人々をバルオルグスから遠ざけるため、王都を封印場所に近いベルトナから、離れた地にあるヘクタスへと移した。

結果アドラー王国は魔法国家を脱し新しい国家としてその後も繁栄していった。

 こうした偉業からヴィリッツは民思いの偉大な王として、後世まで語られていった。


……しかしそれはあくまで表向きの話で内心のヴィリッツの考えは逆だった。


ヴィリッツが考えていたのは常に魔法の事だった。

国の復興に立ち上がったのは、国が復興しないと研究に弊害が生じるから。

脱魔法国家を唱えたのは、今回の様に無能な者達が魔法に深入りして自分の研究を邪魔しないように自分以外の人を魔法から遠ざけるため。

そしてヴィリッツは一人魔法の研究を続けていた。


魔法の研究のためだけに、態々国を作り直し偉大な王と呼ばれる様になったヴィリッツ・アドラーの魔法への執着心は尋常ではなく、それはその後の血筋にも表れた。


 アドラーの一族はヴィリッツと同様に優れた智恵と凄まじい執着心を持つものが多くいた。

剣技に執着するもの、料理に執着するものなど内容は様々で、中には国づくりに執着する者などもいてそれがアドラー王国を帝国へと変えていった。


そして時代は現在まで戻り、王家には三人の子供が生まれた。

一人は現皇帝であるベリアル、もう一人は本来の皇帝を継ぐはずであったベリアルの兄のレゴール。そして三人目は第一王女となった二人の妹のメイルだ。


そして三人も王家特有の智恵と執着心を持っていた。

最強の手駒を揃えることへの執着を持っていたベリアルと、最強の力のみを求めたレゴール。そしてお金への執着心を持っていたメイル。


普通に考えれば跡継ぎはレゴールであるが、二人の目的を進めるにあたって相互の一致により、ベリアルが皇帝を継ぎ、レゴールは公爵の爵位を持つブルーノ家に婿養子の形で王家から離れて、メイルは公爵であり大富豪でもあったゲルマへと嫁いで行った。


 その後、レゴールはレクサス、テリア、ピエトロという三人の子を持ち、メイルはメリルを産んだ直後に不幸により亡くなった。

そして子供達にもその血筋は受け継がれそれぞれが才能を持ち合わせながら執着心をもっていた。


――


「つまり、あのピエトロの予言並みの智恵もてめえらの研究に対する執着心も全部王家の血筋から来てるって事か。」

「そういうことだ。」


王家の歴史の話を聞いたネロがポツリと呟くと、レゴールが頷く。


「我々が秀でた知識と異常な執着心は王家の血筋の証でもあるのだ。そしてその中で最も優れた才能を持っているのがテリアだ。」

「あいつが……」


ネロは未だに納得できない様子を見せるが現状を考えれば認めざる追えない。

現にあの予言に近い予測をするピエトロが見事に出し抜かれているのだから。


「レクサス、テリア、ピエトロ、三人共我が才よりも優れたものを持っており、そしてそれぞれが一つの事に執着心を持っていた、レクサスは分野とわず研究することへ執着し、ピエトロはあらゆることへ予測することに執着している。そして、テリアは人が苦しむ様子を求めているのだ。」

「……イカレタ野郎だ。」

「ああ、だが奴は頭が切れる、ピエトロ以上にな。」

「封印場所はどこだ?」

「さあな、私にはわからん、知るのは古代文書の読めたピエトロと、そしてテリアだけだ。」

「クソッ!」


 動こうにも行き先がわからないネロはどうすることもできず、何度もピエトロに連絡を取る為にボイスカードを起動させた。



――

 一方その頃、ピエトロ達はリンスのテレポを使い、封印の地へと移動していた。

風景がが完全に移り変わると、四人は直ぐ様近くにあるバルオルグスが封印されている洞窟の中へと入り、大急ぎで奥へと進む。


すると、洞窟の進んだ先では、血まみれで倒れたゲルマの姿があり、更にその奥にはこちらを待っていたかのようにテリアが地面に突き刺さった錆びた剣の前に座り込んでいた。


「兄さん!」

「おお、来たか。思った以上に早かったではないか、我が愚弟とその御供たちよ。」


 息を切らしながら焦りの表情を見せる四人に対し、テリアはその表情を見て楽しげな笑みを見せている。


「白龍の卵を持ち出したのはあんただったのね!」

「そうだ。」

「じゃあ、さっき倒れていたゲルマをやったのも」

「俺だ。」

「今までの姿は演技だったって事?」

「そう言うことだな」


 ダイヤモンドダストの問いをテリアは全て肯定する。


「……全部、兄さんの計画通りだったの?」

「そうだ。」

「いつから⁉」

「もちろん初めからさ、お前がブルーノ家を潰そうと考えた五年前のあの時からな。」

「な⁉」


その言葉にピエトロは思わず目を見開く。

ピエトロがブルーノ家を潰そうと考えたのは確かに五年前、だがそれを口にしたことなどネロ達に会うまで今まで一度もなかった。

 それを何故テリアが知っているのか、その答えをテリアはまるでいつもピエトロがするように解説を混じえて説明する。


「お前が五年前に一人の被検体と仲良くし、そいつの死をきっかけに家族の実験に反発し始めたのは知っている。そして古代文書の内容と引き換えに親父達に捕らえた奴らを解放してた事もな、そしてある日、お前がその取引を急にピタりと止め、裏でなんらかの動きを見せていた事に気づいてな、お前が本格的にブルーノ家を潰しにかかってると読んでお前の動きをこっそり使用人に見張らせてたんだ。そしてそれから五年経ち、お前が後継ぎ争いでホワイトキャニオンに入る話を父上に持ち出したことで気づいたのさ、お前がホワイトキャニオンで兄上を殺そうとしてることをな。だから乗っかってやるついでに考えたんだよ、なら白龍の至宝を手に入れてバルオルグスを本当に復活させてやろうってな。」

「じゃあ、最初から……すべてわかっていたと」

「ああ、だが、少し予定外だったのがあのネロとか言うやつだ。お前から護衛のダイヤモンドダストを横取りしたことでお前が新しい代役を立てるのはわかっていたから、街中でそれらしき相手を見つけて、その実力を測るために接触してみれば、これが超級魔法を握りつぶすほどの規格外な奴だったからな。敵に回したらまず勝てないと思い、お前らの矛先を父上に向けさせてもらったんだよ。そしてその結果計画は物の見事に成功しここに至ってるって訳だ。」


テリアの話を聞いたピエトロはショックで唯々茫然とする。

テリアの演技に見事に騙され、更に長い時間をかけて練った自分の計画は読まれており、今までの行動は全て向こうの手にうちの中だった。

それは計算で動くピエトロにとって一番の屈辱であった。


「ハハハハ!どうだ、俺の完璧な計画は?愚兄と思っていた兄に出し抜かれた感想は?」


洞窟に響くほどの高笑いをしながら、睨むピエトロを見てテリアは更に上機嫌に笑う。


「ハハハハ!そうだよ、その顔が見たかったんだ!いつもニコニコと笑うお前のその表情かおがな!」

 

 テリアの笑い声にピエトロが下唇をギュッと噛み、悔しさを滲ませる。

そして一通り笑い終えるとテリアが地面に巨大な白龍の卵を置く。


「さて、そろそろ無駄なお喋りも終わりにしようか。ここには、今、バルオルグスの力が封印された剣がある。」

「その剣に触れちゃダメ!」


傍にいたリンスが声を荒げて呼び止めるもテリアは無視して刺された剣を抜く。


「そしてこの剣を白龍の至宝と呼ばれる卵に突き刺す!」


言葉の通りにテリアが剣を白龍の卵に突き刺すと紫色のオーラを放った剣から純白の色をした卵にバルオルグスの力が注ぎ込まれる。

 すると力がそのまま地面へと伝わり辺りを大きく揺らし始めると、それに合わせて卵に大きなひびがピキピキっと入り、そして殻が割れ、中から禍々しいオーラがあふれ出す。


「さあ、バルオルグスの復活だ……」

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