第116話 ブランの過去
「ルインの反乱軍……」
彼女から出た言葉にネロの心が大きく揺れる。
反乱軍は元々カイル・モールズの打倒を掲げて立ち上がった者達で作られた組織であったが、カイルの死をきっかけに今は国と対立している。
つまり、元は自分自身を倒すために作られた組織である。そして、そこに所属していると言うことは、ネロ自身は覚えていないが恐らく彼女も前世の自分の被害者だったのだろう。
「でも、どうして反乱軍の人がこんなところに?今は紛争も落ち着いてるとはいえ、反乱軍の人がこんなところにいる場合じゃないと思うんですけど……」
「あ、もしかしてカイル・モールズの話を聞きつけて?」
「いいえ、私はただ大規模な武闘の大会が開かれると聞いたので、きっと多くの人が傷つくだろうと思って、治療に行かせてもらえるように皆さんに無理を言って出てきたのです。」
ニッコリと笑って理由を述べたオゼットに聞いた五人は唖然とする。本人は何気なく言っているがそれだけのために態々危険を冒してまでここに来るなんて到底真似できる事ではない。
「本当にそれだけのために?」
「オゼットさん凄いです!」
「ふふ、ありがとうございます。」
「でも、それでもし襲われてたりしてたらどうするつもりだったの?」
絶賛するエレナとエーテルに対して、少しピエトロが釈然としない様子で尋ねる。
「そうですね、その可能性も十分ありました。ですがそれを恐れていては世界中の人々を助けたいという私の夢がは叶えられませんから」
「世界中の人々を助ける……」
彼女の言葉を思わず復唱する。
ピエトロはてっきり善意で助けに来ているのだと思っていた、しかしそれは違った。
彼女は自分にの夢のためにここまで足を運んだのだ。
流石のピエトロもそんな彼女の大きすぎる夢に驚きを隠せずにいる。。
「それにそのおかげで、こうして嬉しい出来事もありましたしね。」
そう言ってオゼットが眠っているブランに微笑みかける。
「その……やっぱり、ブランさんって……」
「ええ、この方は我が国の元将軍のグランツ・ブライアン様です。」
「やっぱり……その事はリンスたちは知ってたの?」
「うん、ダイヤモンドダストのメンバーは全員知ってる。」
「でも、確かブライアン将軍は国家反逆の罪に問われ処刑されたと聞いてるけど、どうしてそれが敵対国のアドラー帝国に?」
「その事については本人から聞いた方が良いかもしれませんね。」
そう言ってオゼットがブランの方に目を向けると、他の者達も目を向ける。
すると眠っていたブランが小さく唸りながらゆっくりと目を開けた。
「……ブラン!」
「「ブランさん!」」
意識を取り戻したブランに普段から表情を表に出さないリンスにも思わず笑みがこぼれる、そしてリンスを筆頭に全員が目を覚ましたブランの方へと集まる。
「リンスにお前たちまで……ここは?」
「医務室です、覚えていますか?」
「……ああ、確か俺は奴に斬られて……うっ⁉︎」
ブランが朦朧とした状態で起き上がろうとするが、その際に斬られた傷口が痛み、傷口を抑える。
「まだ、寝てなきゃ、駄目……」
「だな……」
ブランがリンスに支えてもらいながら再び仰向けになる。
「そうか、結局俺は、負けたのか……あんな惨めな思いをまたしてまで挑んだのに……しかもまた生き延びちまうんだからな……」
「生き延びたんじゃない……皆が、死なないように頑張ってくれた。」
「そうか……」
そう呟くとブランは仰向けになったままそれ以上何も言わなかった。
恐らく感謝をするべきか謝罪をするべきなのか、本人も分かっていないのだろう。
「ところで、そこのあんたは誰だ?初めて見る顔だが……」
ブランが仰向けのままオゼットの方に顔を向ける。
「ブランを治してくれた人……」
「初めましてブライアン様、いえ、今はブラン様ですね。私、ルイン王国反乱軍所属のオゼット・イクタスと申します。」
「⁉︎反乱軍だと⁉︎」
その言葉にブランは思わず再び勢いよく起き上がろうとするがやはり痛みに表情を歪ませる、しかし今度は痛みに苦しみながらも強引に体を起き上がらせた。
「む、無茶しちゃだめですよ!」
「ああ、わかってる。だが反乱軍てことは……」
「はい、あなたのご子息のレオン様にもよくお世話になっています。」
「レオン⁉」
オゼットの口から出た息子の名前にブランが興奮を隠せずにいる。
「あいつは……レオンは生きてるのか?」
「はい、今も反乱軍幹部として皆を引っ張ってくださっています。」
「そっか……あの威勢だけ俺に似たあいつが立派に戦ってるんだな……」
ブランが少し嬉しそうな顔を見せ、小さく良かった……声を漏らす、そしてブランの目にはうっすらと涙が浮かびあがる。
そんなブランを見たエレナ達も釣られて笑みを見せた。
「……あんた、グランツ将軍だったんだな。」
一応ネロも立場的にはさっき知ったことになるので、わざとらしく質問する。
そんなネロの言葉にブランが無言のまま皆の目を見る。
「……もう知られちまったんだな。」
ブランの言葉にリンスが無言で頷く。するとブランも観念する様に一つ息を吐くと、自分の過去について話を始めた。
「ああ。お前の言う通り、ブランと言うのは仮の名前で、俺の本当の名はグランツ・ブライアン。ルイン王国で将軍をやっていたものだ。」
その言葉に誰も驚かない、全員が知っていることを改めて確認すると、ブランは話を続ける。
「俺は今から十年前、国家反逆罪の罪に問われて国に処刑された……と、公ではそうなっていた。だが、実際は慕ってくれた部下に助けられ、こうやって敵国に逃げていたって訳さ。」
ブランがここまでの経緯を簡単に説明する。しかしネロは今の話にふと違和感を覚えた。
「あんた本当に反逆を起こしたのか?」
ネロの知っている記憶のグランツは、正義感が強く堅物で、国に深く忠誠を誓っていた。とても反逆なんて起こすようには思えない。
そしてネロの予想通りブランは首を横に振って否定した。
「いや、嵌められたんだよ。俺を貶めたがってた貴族の奴に、反乱軍に身内がいる事を理由に反乱軍と内通してるってな。」
その時の事を思い出したのかブランの顔が少し不機嫌になる。
真相を聞いたネロだが、しかしそれでもまだ納得できずにいた。
「でも、あんたは将軍だったんだろ?いくら敵に身内がいるからって、それだけで処刑までされるか?」
「将軍だったらな、だが当時の俺は将軍の位を降ろされた後だった。」
「え?」
「平民の俺が将軍でいられたのは国の中で常に最強でいたからだ、それが流石に二人にも一騎打ちで負けちゃあ最強は名乗れねえよ。」
「二人?」
ネロのがその言葉に首をかしげる。
ネロが覚えている記憶の中ではブランの実力は国の中でも飛びぬけていた。自分以外で勝てる相手など他にはいなかったはずだ。
――という事は他国から来た相手か?
しかしそれならば、例え負けても自国最強であることには変わりないので、最強を墜落することにはならない。
「ああ、一人はもうわかっていると思うがカイル・モールズだ。そしてもう一人は、そのモールズに忠誠を誓い、現在ルイン王国で歴代初の女性ながら将軍を努めているベルベット・ベルモンドという女だ。」
「……は、はぁぁぁ⁉」
「ど、どうしたの?」
「い、いや、別に。」
ブランの言葉から出た懐かしき名前にネロが思わず声をあげる。
ベルベットはネロと学園生活において常に行動を共にしてきた女性でカイルの右腕のような存在だった。
だがそれが自分が死んでからの数年でグランツを凌ぐほどの実力を身に付けているなんて思いもしなかった。
ブランは茫然とするネロに少し首をかしげながら話を進める。
「?まぁ、話は戻るが、それで二度も一騎打ちに負けた俺は将軍を降ろされた。そしてその後俺は、先の件で話した通り嵌められ国を追われたのさ。ま、今思えば俺を将軍職から降ろすのも奴ら計画だったんだろうがな、色々とタイミングが良すぎた。」
――
その一言から二人以上という事がわかる。そして今までの流れで人物が誰だかも大体予想がついてしまった
「その人物と言うのはっていうのはもしかして……」
何か心当たりがあったのか、今まで笑顔を絶やさなかったオゼットの表情は真剣な顔つきへと変わる。
「ああ、俺を嵌めて国から追い出した貴族……それは現在のルインを作り出した元凶でもある、ベルベットの双子の弟のオズワルト・ベルモンドだ。」
――やっぱりか……
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