第104話 各ブロックの英傑たち
闘技場のリングを一撃で破壊したネロの拳は、会場いた観客たちの記憶に大きく刻まれ瞬く間にネロの名前は知れ渡った。
だが、ネロが名を轟かせていたその裏で、各ブロックに分けられた英傑達もその実力を発揮し、世界に知らしめていた。
――Bブロック
闘技場の中心であるリングの上に立つのは、ミディールギルドに所属するAランクパーティー『碧き刃』で剣士を務める青年ムックと、紅蓮の帝王の異名を持つ男、レクアルド。
ミスリルで出来た鎧を身につけ 右手に剣を左に盾を装備した基本的な剣士スタイルのムックに対し、レクアルドは派手な赤色の紳士服を身にまとい、手に持つのは剣でも盾でもなく一輪の薔薇である。
……ただその薔薇の花びらは炎でできていた。
剣を構えるムックに対し、レクアルドは構えることなく手に持つ薔薇を見つめながらスカした態度で立ち振る舞う。
「テメェなめてんのか!さっさと構えやがれ!」
戦いのために設けられた場で無防備立ち振る舞うレクアルドにムックが怒鳴る。
するとレクアルドはフッと目を瞑り笑うと、やれやれと言った感じに首を振り薔薇をその場に放り投げる。
「華がない……」
「は?」
「これだけのギャラリーがいるというのに、この場には華と言うものない……そう思わないかい?」
「んなこと知るか!構えねえなら遠慮なく行かせてもらうぞ!」
一向に態度を変えないレクアルドに痺れを切らせたムックが飛びかかる。
その様子をみたレクアルドが嘲笑の笑みを浮かべて、金髪の髪をかき上げると、指をパチンと鳴らす。
するとその瞬間、リング内のあちこちから火の柱が吹き上がる。
「な⁉︎」
吹きあがった火柱はまるで生き物のようにあちこちに飛び跳ねリングの上で暴れまわる。
「どうだい、少しは華やかになっただろう?では……」
レクアルドがもう一度指を鳴らす。
すると飛び跳ねていた炎が一斉にムックへと襲い掛かる。
「グアァァァァ!」
身を焼かれたムックの断末魔が響き渡り、炎が消えると、そこには手に持っていた剣や盾が焼け焦げ全身火傷を負ったムックが横たわっていた。
「火加減はレアのつもりだったが少々焼きすぎたかな?早く治療しないと死んじゃうかもね?」
「しょ、勝者!レクアルド選手!ヒ、
実況が判定を行うとすぐに治癒術師たちがムックの治療に向かおうとする。しかし、レクアルドが降りた今でもリングには次々と炎が吹き上がり、治癒術師たちはリングの上で倒れているムックに近づけないでいた。
「すみません、炎を消してもらえませんか?これではリングに誰も近づけません」
「何を言ってるんだい?折角リングを華やかに模様替えしたんだから消しちゃ意味ないでしょ?」
そう言って治癒術師の言葉を無視してレクアルドがその場から立ち去る。
リングに近づけず、治癒術師たちが焦っていると、燃え上がるリングに一人の大剣を持った男が近づき、その大剣を一振りしてリングの炎を一瞬にして消し去った。
レクアルドがそれに気づくと足を止め、後ろを振り返り大剣を持つ男を睨みつける。
「……ダイヤモンドダストのブランか……やれやれ、この美徳がわからないとは、これだから老害は……」
「美や華を語るのは勝手だが、やるなら他所でやれ。興行の場を私物化してんじゃねぇぞ、クソ坊主。」
――Cブロック
AブロックやBブロックよりも王都から少し離れた場所に作られた闘技場では、一人の女性が自分の持つその力で観客を虜にしていた。
戦いの場には場違いな白いドレスを着て、まるで女神を彷彿させる笑みを浮かべる女性。
西の聖女と呼ばれるエルーダ・ロッサだ。
彼女に相対するのは他国で賢者の称号を持つ老人。
賢者はエラーダに対して魔法を唱えている。
「炎よ!全てを燃やし尽くせ!ボルケーノ!」
裏返った声で呪文を唱えると賢者がエルーダに向かって魔法を放つ。
長年の人生の半分を魔法の鍛錬に費やした賢者の魔力は他の魔術師とは比べ物にならなく、上級魔法のボルケーノは普通の魔術師が唱える炎よりも何倍も大きく、熱かった。
竜の形をした炎は、目を瞑り笑みを浮かべて立っているエルーダへと襲いかかる。
……しかし、魔法が彼女に近づいた瞬間、炎の龍は自ら軌道を変えてエルーダから逸れていった。
「バ、バカな……魔法の方が避けるなど、そんなことありえん⁉︎」
長年生きててきた中でも見たことない出来事に、驚きを隠せずにいる賢者に対しエルーダはニッコリと微笑みかける。
「そんなことはありませんよ……私に攻撃が当たらない理由……それは愛の力です!」
「は?愛じゃと?」
「そう!これは愛が起こした軌跡、愛こそが無敵!愛こそが最強!愛に満ち溢れている私を傷つけることなんて誰も不可能なのです。」
エルーダが説法のように語って見せるとと観客の席から聖女に黄色い声援が送られる。
「そ、そんな事、信じられるか!」
「……そうですか……軌跡を目の前にしても信じられないと……では残念ですが愛を信じられない貴方には愛による裁きを下しましょう。」
エルーダが一瞬腹黒い表情を見せかと思うと、すぐに悲しげな表情を浮かべて手に持つ杖を上へ掲げた。
すると晴れた上空に雲が現れ、雷が賢者へと落雷した。
「バカな……人間が……天気を操るなど……グフッ……」
「フフ、これぞ愛がなせる技、さぁ皆さん!私と共に愛を育みましょう!」
エルーダが観客に向かってそう語りかけると会場全体がエルーダコールに包まれる。
それは声援というには狂気じみていてリングの真ん中に立つエルーダの姿は聖女というより教祖のようだった。
――
「成る程、そういうことか」
エルーダコールが外から聞こえてくる控え室で次の試合に出るオルダのヴァルキリアこと、ミーファスがポツリと呟く。
「あのペテン師がどうしてこんな大会に出るのかと思っていたが信者集めが目的か。」
ミーファスが外から聞こえる耳障りなエルーダコールにつまらなそうな表情を浮かべる。
「少しは楽しめるかと思ったけどこの様子だと私と当たる前に奴は棄権するであろうな、つまらない……楽しみは本戦までお預けだな。」
女性ながら男口調でそう吐き捨てるとミーファスは、開かれた扉からリングへと向かう。
そして、試合開始の合図と共に相手を再起不能にするとそそくさとリングから出ていった。
――Dブロック
このブロックは他のブロックと比べると観客の入りが悪かった。
理由はこのブロックが王都から最も離れた位置にあるという事と、名の通った選手が赤の騎士しかいない事だった。
これといった 対抗馬となるものもおらず、完全な赤の騎士の出来レースとなるだろうと思われたこのブロックに興味を持つものは少なかった。
だが、そんなDブロックが今、今大会一番の騒ぎとなっていた。
今、この会場にいる全ての者がリングに立つ仮面を被った剣士に釘付けにされていた。
試合前に実況から紹介された男の名は剣士として凄く有名であった、しかし誰もがそれが本人だとは思わなかった。
何故ならその者は十年以上前に死んでいたからだ。
本物が大会に出るわけなどない、何処かの目立ちたがり屋が名を語った偽物だろう……誰もがそう考えていた。
だが、今の戦いを見ていた者達は、本物のではないかと疑い始める。
仮面の男と戦っていたのはこのブロックの大本命である赤の騎士。
しかしその赤の騎士は仮面の男の前に十秒ももたずにあっさりと敗れた。
赤の騎士が弱かったのか?いや、違う。この男が強すぎるのだ。
実は生きていた、地獄から蘇った。
色々な憶測が飛ぶ、 皆が未だに呆然とする中。
仮面の男は剣をしまうと、実況の方に向き言葉を待つ。
それに気づくと実況も我に返り、この試合の勝者の名前を告げた。
「ディ、Dブロック、第六試合、勝者……カイル・モールズ!」
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