第100話 トラブル
酒場を出ると、二人は別行動中のエレナ達との待ち合わせの場所である広場へと向かう。
お祭り状態である街並みには多数の出店が並び、普段とは比にならないくらいの人混みが出来ていた。
ネロはそんな視界を人で覆われた通りを険しい顔をしながら歩いて行く。
「それにしても、人が多いねぇ」
「
ネロが通り過ぎる人を見ながら呟く、見渡せばあちこちでガラの悪い者達が目に付く。
人が増えると言うことはその分治安も悪くなると言うこと。特に武術大会ということもあって、街に集まっているのは血の気の多い荒くれ者達が多い。
「最近は毎日トラブル続きでバルゴ将軍達も忙しいらしいね。」
揉め事も増えたことで街を巡回している兵士だけじゃ人手が足りず、大会の期間の間は城からも多く兵士が街の警備に駆り出されている。
そのため、城の警備の配置転換などでバルゴとゾシモスはは頭を悩ませていた。
「哀れだな……」
王のデタラメな思いつきで、あちこち動き回っている二人を思い浮かべながら、ネロはポツリと呟いた。
――
広場の近くまで来ると、出店も無くなり、目の前を覆いつくしていた人混みも落ち着きを見せ始める。
ただ、それとは別に辺りから小さなざわつきが聞こえ始める。
――なんだ?向こうで何かあったのか?
ネロ達が向かっている広場辺りに遠くからでもわかるほどの人だかりができている、ネロは何事かと、近くで話をしている男たちに尋ねてみる。
「なあ、広場でなんかあったのか?」
「ん?ああ、どうやら広場で少女が男達に絡まれてるみたいなんだ。」
――広場で少女……
男の言葉から出て来たワードにネロの眉間に皺が集まる。
「まさか、な……」
ネロ達は少し急ぎ気味で広場へと向かった。
――王都中央広場
「オイオイオイ、人にぶつかっておいて謝罪もなしかよ?」
大勢の人が注目する騒ぎの中心にいたのは、三人のガラの悪い男達と、それに詰め寄られている尖った耳を生やした獣人族の少女だった。
――良かった、エレナじゃない。
嫌な予感が外れてネロがホッと胸をなでおろす。
「あ……その、ごめんなさぃ」
獣耳の少女は大声で威圧する男達に怯み涙目になりながら謝罪する。しかし、その姿勢が男達を調子付かせる。
「ごめんなさいだぁ?それで済むと思ってんのかよ?」
「うぅ……肩がいてぇよ、これは確実に折れちまったかよぉ……」
「オイオイ、どうすんだよこれ?骨逝っちまってるぞ?俺たちはなぁ今回の武術大会の優勝候補である、山賊王ドン・チャゴスの一味なんだぞ?、そんな俺らに怪我を合わせておいてタダで済むと思ってんのかぁ⁉︎」
男達の見事なまでの決まり文句に少女はただひたすら怯えている。
周りもどうにかしようと考えているようだが、どうやら男達は名の知れた山賊の一味のため手が出せず、ただひたすら衛兵の到着を待っていた。
「どうする、ネロ?」
「……どうするもこうするもねぇよ、助ける理由が見当たらねぇ、どうせすぐ衛兵が来るだろうしさっさとエレナ達を探すぞ。」
こんな奴らをいちいち相手にしてたら後々面倒になるのは目に見えている。
ネロはすぐその場を離れようと背を向ける。しかし……
「……出来たみたいだよ、助ける理由。」
――……
ピエトロの一言に進もうとしていたネロの足がピタッと止まる。
そして、恐る恐る振り返ると、そこには男達から庇うように少女の前に立つよく見知った金髪の少女がいた。
――あんのバカは……
その光景を見てネロは頭を抱えた。
「あん、なんだ嬢ちゃん?そいつの友達か?」
男達の間に入って来たエレナを周囲の者達が心配そうに見つめている。
エレナはメンチを切る男たちに対し真っ直な目で見つめ返す。そして、そのまま深く頭下げた。
「あの、家のメイドが大変失礼しました。」
「へ?」
エレナの言葉に獣人族の少女が驚きを見せるが、庇ってもらっていることに気づくと、少女は無言のままエレナの服の袖をぎゅっと握った。
「なんだ、嬢ちゃん貴族か?亜人を雇うなんて随分物好きだなぁ。」
「はい、今回の不手際はこちらの指導不足が招いたものです、今後は厳しく指導いたしますので今回はどうか許してもらえないでしょうか?」
「はぁ?何ふざけたこと言ってんの?こっちは骨を折られてんだぞ?タダで済むと思ってんのか?慰謝料払えよ、い・しゃ・りょ・う!」
誰から見ても明らかに嘘とわかるわかる程の下手な演技、しかしそれでもエレナは穏便に済ませようと相手の話に合わせる。
「……おいくらですか?」
「そうだなぁ……こいつは骨さえ折れてなかったら今頃大会で優勝して五千万ギルが手に入ってたかもしれないからなぁ、ここは五十万で許してやろう。」
「五十万⁉、流石にそんな大金は……」
「はぁ⁉お前貴族だろ?無いなら親にでも頼んで見繕ってもらえや!?」
――相変わらず荒くれの扱い方が下手くそだなぁ……
男達相手に下出に出て見事に調子ずかせるエレナに呆れを見せる。今度脅し文句の一つでも教えてやろうと考えると、ネロは頭を掻きながら男達との間に入ってくる。
「もういいだろ、これくらいで勘弁してやれよ?」
「ネロ!」
「なんだ?今度は騎士様の登場ってか?」
待っていたわけではないのだろうが、エレナがネロが来るや、嬉しそうな笑みを見せる。そしてネロはそんなエレナに大きなため息を吐く。
「お前もさ、こんな弱いものいじめなんてしても楽しく無いだろう?」
「はぁ?弱い者いじめとかそういう問題じゃねえんだよ!こっちは怪我させられてんだから責任取らせるのは当然だろうが!」
ネロは少女とエレナで完全に調子に乗っているオラつく男達を鼻で笑う
そして
「ここら辺で勘弁してやれよ。な、エレナ?」
「え?」
ネロがエレナをなだめるようにエレナの肩をポンっと叩くとその場の空気が凍りつく。
そして数秒後、今までの言葉がエレナに対して向けられた言葉だと気づくと、男たちが顔を真っ赤にして逆上する。
「テ、テメェ!まさか弱い者ってのは俺らのことかよ!」
「そらそうだろ?こんなか弱い少女にぶつかっただけで骨が折れるんだぞ?そんな雑魚今まで見たことねえよ、転んだりしたら死ぬんじゃねぇの?」
ネロの挑発の言葉に周りからもクスクスと嘲笑の声が聞こえる。
「お前……俺たちが何者か知ってて言ってるんだろうな?俺たちは泣く子も黙る大山賊、ドン・チャゴスの一味だ――」
「へえー、そいつはすげぇや、それならいい子守になれそうだな?お前ら貧弱だしそっちの方が適任なんじゃねーの?」
「クソ、ガキが!なめてんじゃねぇぞ!」
度重なる挑発に怒り狂った男の一人が腰につけた剣を構えると周囲はたちまち大騒ぎなる。
「あんまり大きな声出すなよ。肋、折れるぞ?」
そう言って嘲笑うネロに男が勢いよく剣を振り上げながらネロに斬りかかる。
避けるほどでもないと考えると、ネロはそのまま構えずに立っている。
そして相手が剣を振り下ろし、ネロが切りつけられると誰もが思っていたその瞬間……大きな打撃音と共に男は真逆の方へと弾き飛ばされた。
「へ?」
それにはネロ自身も驚き、ふと後ろを振り返る。
するとそこにはネロの背丈の倍くらいある大きさの獣人族の男が立っていた。
「な、なんだこいつは?」
二メートルを超える背丈に金色の立髪と獣人族ならではの屈強な肉体の姿を前に強気だった男達も思わず怯む。
「い、いきなり出てきてなんだテメェは!」
「……我が名はバオス!我が従者が世話になったみたいだな、今度は我が相手をしよう。」
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