第94話 天敵登場
ネロ達が帰国してから一週間が過ぎた。
「ネロ様、食事の準備ができました」
「ああ」
「ネロ様、 湯浴の準備ができました」
「ああ」
「ネロ様、今日はいいお天気ですよ」
「ああ……」
「ネロ様、珍しい鳥が飛んでいましたよ。」
「……」
「ネロ様、今日は……」
ネロ様、ネロ様、ネロ様、ネロ様
「だぁー!もううるせぇぇぇぇー!なんなんだよ、どいつもこいつもしょうもない事で呼び付けやがって、新手の嫌がらせか!」
ここ数日の度重なるメイド達の些細な呼びかけに遂にネロが爆発する。
家に帰って来てからと言うものネロが呼びかけに反応すると言うことを知ってから、メイド達は事あるごとにネロに話しかけていた。
「フフッ、皆、ネロ様と話が出来てうれしいのですよ。」
内心ではわかっている事をカトレアにハッキリ口に出されると、こっ恥ずかしいくなったネロは、フンッと鼻を鳴らし、ソッポ向いてバルコニーから海を見渡した。
「それにしても暇だな……」
ネロはこの一週間、暇を持て余していた。
ネロが帰国して三日後、一度カーミナル伯爵家で今後の予定に関して話合いを行なった。
しかし、リングから告げられたのは暫くの待機命令だった。
理由はネロの帰国に伴い、ミディールの王都、テトラから国からの使者が来ることになっていたからだ。
現在ミディールではアドラーとの間にある一つの問題が発生しており、それに関して帝国を旅していたネロ達にアドラーの情景を確認したいとのこと。
まさにピエトロの予想通りだった。
しかし、待機命令といえどネロにはやることがない。
島内なら出歩くのも問題ないが、ネロはガガ島を幼いころからレベル上げのため、あちこちを探索しつくしているので今更どこかへ行こうとも思わない。
ピエトロと暇を潰そうにもの、なぜかエレナの方に泊まっているので家にはおらず、こちらからエレナの家に行くのもシャクなので、ネロは市場への食べ歩きと部屋でダラダラすると言うぐうたらな日々を過ごしていた。
「ネロ様が帰国したという報告をしてから一週間、距離的にそろそろこちらに着く頃だと思いますよ。」
カトレアがそう言ったそばから、部屋にノックが響くとエーコが入ってくる。
「ネロ様、ネロ様、ネロ様、国からの使者と言われる方が訪ねて来ましたよ?」
「……お前、減給な。」
「何故に⁉︎」
――連呼故に
――
待ちに待った使者の到着に、ネロはすぐに家の客室へと向かう。
国からの使者という事もあり、ネロは一度身だしなみを整え、真面目モードに切り替えると客室の扉を開けた。
しかし国の使者として来た男を見た瞬間、ネロは苦虫を噛んだような表情を露わにした。
待っていたのは護衛と思われる兵士二人と、黒いマントを羽織り、上から下までを紫色の服装という趣味の悪いヒーローのような格好をした黒髪の褐色肌の青年だった。
「やあ、久しぶりだなぁ、我が愛しの弟よぉ!」
そして男はネロを見ると椅子から立ち上がり、自分の胸に飛び込んでこいと言わんばかりに両手を広げ待ち構える。
そんな男を見て、ネロはしばらく硬直した。
「な、なんでてめぇが……」
「もちろん、国からの使者としてきたのさ。話は通ってるはずだろ?」
「だから、なんでお前が使者として来てるんだよ……」
「愛しき弟の顔を見に来たのさ。」
男の言葉を一つ一つ聞く事にネロの眉間のシワがどんどん険しくなっていく。
そんな様子を後ろからエーコとカトレアが見ていた。
「誰ですかこの人、ネロ様にお兄様なんていましたっけ?」
「そういえば、あなたは見たことなかったわね、この方はカラク・ダブリス様。ミディール国の国王であるお方よ」
「へえ……って国王陛下ぁ⁉しかも弟ってもしかして……」
エーコが凄い勢いでカトレアの方を見る、そして答えを求めるエーコに対しカトレアは小さく首を振った。
「いえ、陛下とネロ様の間に血縁はありません。ネロ様の父、バッカス様がかつて陛下の剣術指南を務めていたこともあり、幼い頃から交流のある方なんで、陛下がネロ様の事を弟のように可愛がっているのです。……まあ、少々行きすぎてネロ様は一線引こうとしているのですがね。」
そう言って二人はネロ達のやり取りを静かに見守る。
「馬鹿だろ、お前?」
「フハハハハ、馬鹿で結構、俺は自由の国家の国王、カラクだ!その俺が自由に動いて何が悪い。」
王に対してもいつものように憎まれ口を叩くが、カラクは難なく受け流す。そして護衛の兵士たちもネロと王の関係性については知っているので、この言葉遣いに対しても何も言ってこなかった。
「で、何の用だよ?使者としてきたって事は用があんだろ?」
「あぁ、お前も話くらいは聞いていると思うが、ちょっとアドラーとの間で問題が起っていてな、それに関してお前たちの話が聞きたくてな、旅の仲間全員で一度、城に来て話をしてもらいたい。」
「……わざわざ城まで行かなくてもここで話せばいいだろ?」
「馬鹿野郎!そんな事したら俺がわざわざ出向いた事になるだろ!王の立場を理解しろ。」
――いや、なら使者としてくるなよ。
「とにかく、一度皆で城に来い。なんだったら観光ついでという事でもいいぞ?」
「……」
カラクの言葉にネロは頷かない。
別に話すことなんかは大したことではないし、アドラーの問題が深刻な事は本当らしいのでいく事は何も問題ない、ただ単純にこの男の言うことをすんなりと聞くのが嫌だった。
「……断ると言ったら?」
「ミディールの誇る全兵力を率いてお前の家に遊びに行く!」
――なんて、嫌がらせだ!
「ま、そう言うことだ、では、城の仕事も残っているので俺達はこれで。」
カラクは椅子から立ち上がり、近くに待機させていた兵士と共に客室から出て行くそして、それと入れ替わる形でエレナ達がやって来た。
「あ、カラクお兄様!」
「やあ、我が愛しき妹エレナよ、相変わらず今日も可愛いね。」
「有難うございます、お兄様もカッコいいですよ。」
「おお!なかなか口が上手くなったではないか!やはりこれも旅での成長かな? ではまた、会おう。」
それだけ言うとカラクは外へと出て行った。
「へ、へへ……」
ネロが少し不気味な笑みで笑う、そして……
「……ダァァァァァ、なんなんだよあいつはぁ!」
突如大声で発狂すると今度は床に向かってガンガンと頭を叩きつける。
「ネロ様、それ以上なさいますと床が壊れてしまいます。」
「くっ……」
カトレアに窘められるとネロは少し落ち着きを取り戻す。
「やっぱり、呼び出したのはカラクお兄様だったんだね。」
「エレナ、今の人は?」
エレナがエーテルとピエトロに対し、カラクについて説明する。
「へえ、じゃあ、あの人がミディールの国王なんだ。」
「思っていたより軽い感じの人だったねぇ。」
「まあ、性格は軽いけど、王としては凄い人だよ、あの若さで王を継いでから、いろんな政策が実行されて国もだいぶ発展してるし。」
「だろうね、ミディールのここ数年の発展は、目に見えるほどだしね。」
「……で、なんでネロはこうなってるの?」
そう言って床に三人は床にガックリと膝をつきうなだれているネロを見る。
「うん、実はあの人が前に言ってたネロの天敵。あの自由奔放な性格の前にはネロの毒舌も効かないし、ペースが崩されるみたいだからネロはスッゴイ苦手みたい。」
「なるほど……つまりエレナみたいなものね」
エーテルがポツリと呟いた。
「で?お前達は何しに来たんだよ。」
いつの間にか立ち直ったネロが、三人の元へと歩み寄る。
「ああ、そう言えば忘れていたね、実はネロにも話しておこうと思ってね」
「話?」
「ああ、多分、さっきの王様の話にも関係してくることだと思うからだから。」
そう聞くとネロも真面目な表情に変わる。
「あのオルグスのホーセントドラゴンの話についてね……」
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