第40話 やったね
「……妖精だね」
「……妖精だな」
互いが倒れている妖精の姿を見て呟いた。
――なんと言うベタな展開……。
二人は初めてみる妖精をマジマジと観察する。
耳が少し尖ってはいるが、見た目は人間とさほど変わらない。肩が隠れるほどの長さの金髪の髪に、人形のようなその小さな体。
そして着ているのは、袖が短く、スカートの丈も太ももが少し見えるくらいに短い、少し露出が高めの可愛らしいピンクの色の服だ。
エレナが倒れている妖精を両手で水を掬うように拾い上げる。
顔に少し近づけて見てみると、その握れば潰れそうなか弱い体には少し傷が付いていた。
「この子、怪我してるわ。」
エレナが心配そうに見つめる。
ネロもお目当ての妖精を見つけられたのはいいが、どうすればいいか困っている。
ここからどうやって妖精の女王のところまで案内してもらおうかは考えていなかった。
妖精に出会えばそこから妖精界へ行くヒントが見つかると想定していた、なのでこのケースはあまり考えていなかった。
ネロはとりあえずサーチをかけてみる。
――やはりステータスは低いな。
ネロはサーチをかけながら妖精の姿を見ている。
大きさこそ小さいが、姿は人間なら自分達より少し年上に見える美少女だ。
やはり人種が違うとはいえ、人の括りにされているだけあって外見が人間によく似ているので、できれば助けて、妖精界への行き方を教えてもらえるようにしたいが、果たしてうまくいくだろうか?
そして続けて解析していく。
…………所持スキル 『毒無効化』『幻惑無効化』
――……
「ネロ、この子どうしよう?」
「殺す。」
ビクッ!
――ん?今動かなかったか?。
ネロは一度瞬きをして、妖精を見なおすが、相変わらず気絶したままだ。
「え、この子、殺しちゃうの?」
「ああ、こいつ、毒耐性のスキルを持ってる……」
「ネロ……」
エレナとネロが眼を合わせる。
「やったね!」
「いや、『やったね!』じゃないわよ!そこは普通止めなさいよ!」
どこからともなく聞こえたツッコミに、二人は思わず声の方に目を向ける。
聞こえてきたのは自分たちのすぐそばで、少し視線を落とすと、そこには先程まで傷だらけで倒れていた妖精が仁王立ちをしながらこちらを睨んでいた。
「あ、良かった!無事だったんだね!」
「無事じゃないわよ!満身創痍よ!あんたらが私を殺すとか言うから意地で起き上がったのよ!」
先程の気絶が嘘のように妖精は騒ぎ立てる。
いや、実際嘘だったのだろう。
「と言うよりあなた女の子でしょ!メルヘンでかわいい妖精が殺されかけてるのよ!ここは『殺すのはかわいそうよ、家に連れて帰って手当してあげましょ?』って言うのがセオリーってもんでしょ!可愛い顔して『やったね!』じゃないわよ!そこはもうちょっと女の子らしく食い下がってよ!」
さっきの一言でエレナが妖精に説教をくらっている。
まあ確かにさっきの反応はネロも少し驚いていた。
エレナがもともと理解してくれているのは知ってるとはいえ、祝福されるとは流石に思ってもみなかった。
「あ、ごめんなさい、でもネロは、あなたを探すために旅しているようなものだったからつい思わず……」
「あ、そりゃわざわざどうも……ってそれ殺すためでしょ!そんなの嬉しくとも何ともないわ!」
キレのあるノリツッコミと言いなかなかテンションの高い妖精ハッキリ言ってこういう輩はやりにくい、
ネロは躊躇いが出ないうちに殺すことを決める。
「とりあえず殺るか」
そう呟くと、聞いた妖精は当然のように慌て始める。
「ちょ、ちょちょっと待って!もうちょっと聞きたいこととかないの?ほら、どこから来たの?とか、名前は?とか、この傷のこととかさ。」
「ない。」
ネロは即答すると、妖精を鷲掴みにする。
そう言うのを聞いてしまうと、殺すときに情がわいてしまう。
「ちょちょっちょっと、ちょっと待って!ほら、私妖精だよ?人種で可愛い、素敵、神秘的な種族の三冠の妖精だよ?生かして傍に置いていたら周りに自慢とか出来るわよ?。ほら、お友達とかさ」
「ネロは友達はいないよ」
そう聞いた妖精は、あ……と失言に口をふさぐ。
――いや、お前より、エレナの一言の方がきつかったぞ。
「でもあなたは友達じゃないの?」
「私は友達じゃなくて、その……え……と……」
――始まったか、ていうかこの妖精、さっきから結構厚かましいな。
いつも通りのエレナを放っておくと、ネロは妖精を捕まえていないもう一つの方の手で拳を作り、構える。
「悪いがそろそろ――」
「ま、待って!交渉!交渉しましょう!私のできることなら何でもするから!」
――……
ネロはそのまま停止する。
「そもそもどうして私を殺そうとするの?」
「まあ、簡単に言えばお前を喰うためだ。」
「食べる?それって物理的な意味で?、それとも性的な意味……イダダダダダ!」
この状況下でそういう事を言う妖精に思わず握った手に力が入る。
「ネロ?性的な意味で食べるってどういう……」
「お前にはまだ早い!」
――と言うより何故もう戻っている⁉
「さて、そろそろ話も終わらせ――」
「待って待って待って待って!妖精が食べたいのならもっと美味しそうな子を紹介するから」
――とうとうこいつ仲間を売り込みやがった!
その後も繰り出される妖精の必死の命乞いにも、ネロは首を縦に振らなかった。
「うう……純粋無垢な子供の前で倒れれば助けてもらえるものと思って、思い切って飛び出したのに、いたのはとんだ人でなしだったわ。」
――仲間を売ろうとしたお前はろくでなしだけどな。
そう心の中で呟き、この緊張感のないやり取りを楽しく感じ始めるとネロは少しずつ覚悟を決め始める。
――……これ以上の会話はいけない。
現時点でネロはもうすでに情が移り始めていた、できることなら助けてやりたい、もし殺すか生かすかの選択だったらネロは間違いなく後者を選んでいただろう。
だがこればっかりはそれはできない、何故ならこれが自分の旅の目的の一つなのだから、選択は一つしかない。
ネロは一度目を閉じ覚悟を決め再び目を開ける。
そしてその眼を見た妖精も、ネロの覚悟を察すると観念した。
「……わかったわ。まあ、このままだと、どのみちあいつらに殺されちゃうし、まだ一思いに食物連鎖に巻き込まれた方がマシかもね。ただ一つ聞かせて、どうして私を食べようとするの?」
「ネロはレミナス山の山頂を目指すためにの妖精さんの持ってる毒耐性のスキルを欲しがってるの、そしてそれを手に入れるには妖精さんをネロの持っているスキルで食べるしかないの」
エレナがネロの代わりに説明をする。
「毒耐性のスキル……?」
「……まあ、そう言うことだ、これも俺が生きるためだ、悪く思うなよ。」
そう言うとネロは目を閉じながらゆっくりと拳を後ろに引く。
「あ、ちょっと待って、本当に待って!それならなんとか――」
ネロが拳を突き出そうと力を込めた瞬間、ネロの拳はそこで止まる。
理由は後ろから感じる殺気のせいだ。
一度拳を解くとその殺気がする方に顔を向けた。
ネロが気づいたことを知ると木陰から二つの人影が現れる。
「私の殺気に気づくとは多少の武の心得はあるようだな。」
冷静な口調で、木陰から現れたのは、二メートルほどある身長とお腹に蓄えられた脂肪を揺らす斧を持った巨漢の男と、その男とは正反対に身長は、少年のネロと変わらないくらい小柄で頭には赤いハットを被り、首回りのひだ襟がついた派手な貴族服と腰にとっての様なものが付いた剣を身に着けた男。
ただどちらも普通の人ではない。
巨漢の男の顔つきは大きな鼻の穴が特徴の豚と呼ばれる動物、そして小柄な男の顔は左右に三つずつピンと立っている髭と大きな出っ歯が特徴のネズミの顔をしていた。
その姿は人間、妖精とも違う第三の人種、
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