広がる生首芸の世界(なんで現実の人間は首斬られると死んでしまうん?)
陽光に照らされる草原を、隊商が進む。
方向からして砂漠へ向かうのであろうか。荷駄は、大きな
そんな彼らが足を止めたのは、小休止のためではなかった。
前に、人影を認めたからである。平凡な姿の、馬にまたがった男。遊牧民だろうか?
彼は馬をこちらへ向けると、とことこと歩み寄ってきた。かと思えば口を開く。
「あんたら、砂漠に向かうのかね!」
「そうだとも!」
よかった。人間のようだ。
安堵する男たち。広大な原野を進んでいると、近くに人間がいると言うだけで安心できるものである。もちろん人間にも賊はいるし、闇の神々を信奉する者たちさえいるが。
「そうか!ならうちに泊まって行くといい!案内しよう!」
「おお!感謝する!」
距離があるから互いに大声だ。それも互いが近づくにつれて小さくなっていくが。
「ときに───あんたらの荷、油かね」
瓶を見ての遊牧民の問いに、商人は答えた。
「ああ。そうさね。あんたらが好きそうなもんもあるから安心してくれ」
この人数でご厄介になるならどんな贈り物が喜ばれるか。そんなことを考えている商人の前で、遊牧民の男は印を切り、そして聞いたこともないような聖句を唱え始めた。いや、神を讃える言葉ではないのか?
あまりに自然なそれへ、商人の反応は致命的なまでに遅れた。
万物に宿る諸霊への請願が聞き届けられ、助力が与えられる。
誘眠作用のある大気が瞬間的に広がった直後。
雲に飲み込まれた隊商は、たちまちのうちに深い眠りへと堕ちていった。
「……すばらしい。なんと好都合な」
眠りこける男たちや荷駄を前に、男は善良な遊牧民の仮面をかなぐり捨てる。いや、彼はある意味では遊牧民であった。少なくとも、その肉体においては。
男の内に宿る闇の魔法使いは、周囲の地形に身を潜めていた手下どもへと命令をくだした。
「さあ。こいつらから服と荷を奪え。我々はこれより油商人だ。抜かるなよ」
◇
太陽が陰りだした頃。
家畜の世話をしていた若者は、ふと、顔を上げた。こちらへ近付くものたちの姿があったからである。見た限りでは駱駝を連れた隊商のようだが。
彼は、相手に向けて手を振った。
対する隊商の先頭を行く男も、大きく手を振り返した。
◇
「…ぁ……」
袋詰めにされた女賢者は抗議の声を上げた。なんでも外から客が来たらしい。ひとまず袋の中に女賢者の首を入れて隠すのだ。確かに普通の人間に美女の生首(しかも生きている)を見られれば驚かせかねないことは分かるが幾ら何でもこの扱いは酷くないだろうか。
とはいえ今の女賢者は無力な生首である。文字通り手も足も出ない。抵抗虚しく、哀れ褐色美女の生首は袋詰めとなり果てた。
「すまんな。しばらくそこでそうしていてくれ」
女人馬は、祭壇の前。ランプの横へと女賢者を安置すると、そのまま出て行った。
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