関係ないがアニメを見てファンタジーなロボもの書きたい欲が微妙にある(でも魔法とロボって絶望的に相性悪くね?と思うロボもの書き)

地下運河カナートは狭い。

下流に行くほどその傾向が強かった。足元は辛うじて歩ける程度の幅。中央あたりはやや幅が広く、そして上に行くとまた幅が手狭になっていく。なお、時折上に空けられた縦穴の外には石を積んで井戸のように固められた構造物がある。

生活に密着した人工物である以上は手入れメンテナンスの手間が考えられている。だから人が通れるサイズではあるわけだったが。

「……」

女賢者が進んでいる場所の水深は浅い。せいぜい足首程度までで緩やかな流れである。これが上流に行けば水量も増す。この地下運河カナートは途中で幾つにも分岐し、複数の村や水場へと繋がっているのだ。

それだけではない。

時折、この長大な施設には予期せぬ横穴が開いていたりする。砂漠の様々な生物。時には闇の種族までもが水を横取りするべくしていたりするからである。そういうものに対処するのも手入れメンテナンスの一環なのだとか。

まるで迷宮ダンジョン

同行している村の男の説明を聞きながら、女賢者はそんなことを思う。

連れ去られたと思しき若者を救出することに決定してすぐ、一同は地下運河カナートへと入った。泉から直接入る入り口があったのである。

それにしても、興味深い。

地下運河カナートの整備は男の仕事である。更に言えば、よそ者を入れることなどまずないから、女賢者も中に入るのは初めてだった。その意味では貴重な経験をできている、と思う。もちろん仕事。連れ去られた若者の救出の方が重要だが。

「先に進めば道幅も広くなる。横穴なんかもあるから気を付けてくれ」

先頭を進む壮年の男に了解を告げると、女賢者も黙々と進んだ。


  ◇


―――KYUUURRRRRRRRRR

半魚人サハギンの声。最後尾からのそれは警戒を促すものである。

皆が警戒する中、首領リーダーの個体は停止を命じた。

皆がを澄ませ、神経を集中する。

人間ならば何も聞こえなかったであろう。されど水中に適応し、優れた聴覚を備える彼らには聞き取れていた。遥か後方より伝わってくる、ごく小さな話し声。それと、水に浸かりながら進む足音が。

首領リーダーは思考する。

どうやらニンゲンたちは仲間を取り戻しに来たらしい。厄介である。久々の貴重な獲物を得た帰りだというのに。

故郷ではここ最近獲物の数が減ったため、こんな何十キロも離れた場所まで遠征に来たのである。懐かしき故郷の水場にまで戻れば神への感謝の祭儀を行うはずであった。このニンゲンの小僧を神への犠牲へと捧げ、を自分たちで頂くつもりだったのだ。

どうしたものか。ここは戦うのに不利である。逃げようにも追いつかれれば危険であった。自分たちはニンゲンより体格が大きい。水量もまだここは少ない。もう少し来た道を戻れば、広々とした空間と多数の横穴があったはず。そこで奴らを仕留めるが上策であろう。

方策を決定すると、彼は一族のもの達へと指示を下した。


  ◇


―――広くなってきたな。

女賢者は思案する。

既に男3人が横に並んで歩けるほどの幅になっている。もちろん剣を自由に揮うとするとかなり難しいが。同時に、水量はかなり増していて女賢者の腿まで浸かっているほどだった。時折縦穴や横穴も見受けられる。

よくない傾向だった。

一行の人数は4名。壮年の男と女賢者が前列。その後を続く男が松明を掲げている。

女賢者は魔法を使うべきか思案。透視シースルーの術であれば奇襲を察知できようが、しかしあの魔法はさほど持続時間が長くない。十分と持たないのである。この長大な地下運河カナートでいちいち使っていては魔力が持たぬ。

少しだけ悩み、女賢者は万物に宿る諸霊への請願を開始した。魔法は問題なく完成し、そしてすべてを見透かす視線が巡らされる。

ざっと見回し、水中や横穴にいる敵はいないようだと確認すると男たちへその旨を告げる。安心して進む一行。

「いや、しかし魔法は凄いですね。壁の向こうが見えるなんて」

「こら。大丈夫だからといって気を緩めてはいかんぞ」

後方で口を開いた若者を諫める壮年の男。話しながらも彼の瞳はまっすぐ、前方や足元を見据えている。奇襲とは思わぬところから来るものだ。油断してはいけない、というのが彼の信念である。いや、経験を重ねた戦士なら誰しもそうであろう。

実際、その通りであった。

奇襲は、彼らの予想外の所から来た。こっそりとから忍び寄って来た者たちは、水から立ち上がると同時にのである。


―――SSSSSSSHHHHHHHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


強烈な衝撃波フォースの加護が後列の男たちを打ち倒した。水に落ちて消える松明。

咆哮に驚愕し、振り返った人間たちは暗がりの中、見た。

棍棒で武装し、水かきと銀の鱗を備え、爬虫類にも似た頭部の半魚人サハギンたちの姿を。

この怪物どもは鋭い聴覚で追撃者の正確な位置を推し量ると、地下運河カナートの縦穴より地上から後方へと回り込んでいたのである。

棍棒を振りかぶった半魚人サハギンたちは、残る獲物へと襲い掛かった。

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