どうも夏風邪っぽい(例によってここ数日文章力が低下してる気がする)
―――何?なんなの!?
娘は混乱していた。無理もない。堅固な門を破られたのだから。
侵入者は顔見知りの女の子に見える。だが実際にそうであるはずがない。彼女はこんな強力な術は使えない。
咄嗟に後ずさりながら、娘はそれでも口訣を唱えて助けを呼ぶ。
果たして、飛来したのは一振りの剣。眉と目が描かれたそいつは眉目飛刀。
侵入者へと襲い掛かった魔法生物。その鋭い斬撃は、相手を両断するだろう。
そう見えた時。剣は止まった。いや、止められたのだ。二本の指で挟み取られ、動きを封じられたのである。
力が込められた。
たったそれだけで、強靭な剣が砕け散る。恐るべき力量。
勝てぬ。師匠も出かけていていない。だから、娘は逃げ出そうとした。
立ち上がり、振り返り、駆けだそうとして。
―――え?
突然、支えが失われた。右足の感覚が消える。床へと転がる。
目をやれば、足が、なかった。
「……うそ」
遅れてやってきたのは、痛み。
「ああ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!?」
床を這う。痛い。訳が分からない。殺される。
娘の内に膨れ上がったのは、恐怖。それ以上に困惑。
亀のごとき歩みで進んだ先。何かに激突し、顔を上げるとそこにいたのは。
「あ………」
知り合いの顔をした、知り合いではない化け物。そいつは、娘の頭を鷲掴みにすると引きずり起こす。
外見に似合わぬ恐るべき力だった。
「無駄じゃ無駄じゃ。逃げられぬぞ?
さあ。言うがいい。あれは一体どこにある?」
「あ……いや………やめて……」
もはやうわごとのように繰り返すしかできぬ娘。それに対し、侵入者は問いを繰り返す。幾度も幾度も。
やがて、まともな返答を返さぬことに業を煮やしたか。侵入者は娘を投げ捨てると、腰に帯びた剣を抜いた。
とすっ。
音らしい音もたてず、それは娘の肩を貫く。
絶叫が、迸った。
「さあ。答えよ。
貴様の師が持っているはずのあれを。太極図の在処を話すのだ」
「ああ……言う……から……やめ………」
息も絶え絶えな娘の口から言葉が漏れる。
そして……
◇
激しい衝撃。頬をぶたれ、耳元より大声が聞こえる。引っぱり起こされる。
視界が暗転し、娘は目を見開く───いつの間に目を閉じた?───と、そこには知った顔があった。師匠が。狼の相を持つ麗人が、こちらを助け起こしているではないか。出かけていた、はずでは?
訳が分からない。私を襲った賊は?師匠が助けてくれたのだろうか?
そこで、気が付く。肩の傷がない。いや、吹き飛ばされた右足もちゃんとある。どころか、自らが寝台に横たわり、寝間着をぐっしょりと汗で濡らしているではないか。
「……夢?」
娘は呆然。あれほど真に迫ったものが、夢?
「大丈夫か?うなされていたが」
言われて、思い出そうとする。夢の内容を。駄目だ。何も覚えていない。ただ、酷い悪夢。それも、とても現実感のあるものだったことだけは覚えている。
「……へ、平気です。ごめんなさい、お師匠様」
「なら、いいが」
そうだ。夢だ。あれはただの夢に違いない。そのはずだ。
娘は自分にそう言い聞かせる。さもなくばおかしくなってしまいそうだったから。
師弟の住まう洞府に来客があったのは、その直後の事であった。
◇
異界の隠れ家。その寝台にて、邪仙はむくり、と身を起こした。
「やれやれ、なまっておるのう」
少女の顔で苦笑する。
彼女が試みていたのは夢から夢へと渡る魔法。それを用い、あの洞府に住まう弟子の心へと押し入ったのである。
奴は何も覚えてはおるまい。しょせん夢である。寝入りが悪かったと思う程度であろう。
収穫はあった。
彼女が奪われたもの。極めて貴重な魔法の道具の在処はわかった。さすがに自宅に保管しておく度胸はなかったと見える。
奪還に向けて準備をしなければならない。
邪仙は身を起こすと、支度を始めた。
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