第六部完?(時系列的にはこの後ギャグ短編はいったりする)(公開しようとした瞬間いきなり職質喰らった)

少年が目を覚ました時、そこは見覚えのある客室だった。

中央を木々の枝葉で覆われ、白い内装を備えた豪奢な部屋。

そこで身を起こそうとした少年は、体がまともに動かないことに気が付いた。

「おお、目が覚めたか。まだおきん方がええぞ。何しろ体が半分ほどなくなっておったからのう」

聞き覚えのある声に、顔を向けた先。椅子に腰かけた岩妖精ドワーフがそこにいた。

「お前さん、なんであの有様で生きておったんじゃろうなあ。何か所か再生リジェネーションの加護を願ったんじゃが」

少年は思い出す。あの時。火球ファイヤーボールに巻き込まれた時、護符の魔力がなければ消し炭すら残さなかったであろうことは疑いの余地がない。死にかけた己は咄嗟に仮死の術を用い、そして……。

現状こうして神官戦士が話しかけてくるということは、少なくとも己はまだ、生きてはいるのだろう。

そこまで推測した彼は、相手の言葉に答えた。いや、そうしようとして声が出ない。口をぱくぱくさせるだけの少年。

「ああ、やめとけやめとけ。今度残った部分にも再生リジェネーションを願ってやるわい。今すぐは無理じゃがの。

……お前さん、よくやった」

言い終えると、岩妖精ドワーフは立ち上がった。

出て行こうとする彼は振り返り、最後に一言。

「そうそう。お前さんは目的を果たしたよ。うまいことやったのう」

今度こそ神官戦士は、部屋を辞した。

言葉の意味を少年は噛みしめ、やがて安堵。再び、眠りに就いた。


  ◇


深い森の中。

陽光も差し込まぬ時間帯。地面が突如として、盛り上がった。土を突き破り伸びたのは、血の気のない細腕。

立て続けに二本飛び出したそれは、その場の土をどけ、やがて地の底に埋もれていたものの姿を露わとした。

穴の中から上体を起こしたのは首のない、裸身の女体。麗しきそれは姫騎士のものだった。

首を掘り出し、周囲をきょろきょろと彼女。その傍らから不意に、声がかけられた。

「おはよう」

姫騎士が視線を向けた先にいたのは、見覚えのある少年。とはいっても着衣にはかなり差がある。こざっぱりとした、ずいぶんと見栄えのいい森妖精風の衣装。

「無事でよかった」

「…ぉ……」

「大丈夫。怒ってないから」

「……ぁ…」

少年は、姫騎士の顔をなでた。物理的には存在しない、霊体の顔を。

それは姫騎士の知覚にはっきり伝わった。

「ひどくやられたね…」

「……ぅ…ぁ……」

癒えることのない、霊魂そのものの傷を優しく撫で、いたわる。

霊体に受けた傷とはすなわち精神そのものの負傷である。拷問によって破壊された姫騎士の苦痛を、魔法のわざがほんの少しだけやわらげていった。

手当てが、やがて終わり、少年が取り出したのは針と糸。

「…ぉ……?」

「ああ。これ?

うん。僕から、君に。

もう大事なものをなくさないように。首を支えて?」

言われるままとなる姫騎士。その首の断面へと、少年は手を伸ばした。針と糸を手に。

肉を、針が貫く。

切断面が、臓物。いや、血管のひとつひとつから丁寧に、縫い合わされていく。

「辛かったのは知ってる。どれくらい大変だったのかも。それでも僕は、一緒にいて欲しい。生きていて欲しい」

「……ぁ」

やがて、手が止まる。それは首なし騎士デュラハンの首が繋がったということ。

「さあ。これで、声も出せるようになったはず。

やってみて」

言われるまま、姫騎士は口を開いた。

その、最初の言葉は───


  ◇


「で、お前は帰らないのかよ」

「この状況では帰れんわい。カタがついたら言われんでも出て行ってやる」

相も変わらぬ憎まれ口をたたき合っているのは旅人と神官戦士。森妖精の城塞は、神官戦士の言うとおり目も回るような忙しさだった。あれだけの大戦おおいくさの後である。無理もない。

姫騎士は、神官戦士が童女に預け、先頃少年が引き取りにいった。何しろ敵陣で彼女が戦った姿は多くの者が見ている。樹冠都市に置いてはおけぬし、他の場所でも同様である。

「はぁ…わーったよ。帰るときは送ってやる」

「ふん。一人で帰れるわい」

「うちの面目が立たねえんだよ。おとなしく送られろ」

「ふん。ならそういうことにしておいてやるかのう」

このふたりのコンビが解消されるのはまだまだ先のようであった。

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