怪獣大決戦(こわい)

合戦は、闇の軍勢が魔獣を前面に押し出す形で開始された。

巨大な襟巻に二本の角を備えた9メートルもの角竜トリケラトプス。背中から二列の骨盤を生やした4トン近い盾竜ステゴサウルス

そして、10メートルの巨体に鱗で身を守り、二足歩行する巨大で俊敏な暴君竜ティラノサウルス

これら恐るべき魔獣どもが、数十匹。横隊を組んで突進してきたのである。

対する森妖精エルフたちの対応は素早かった。前衛が手に手に槍投げ器アトラトルを構え、槍を装填したのである。

十分に敵を引き付け、攻撃が発射された。

槍投げ器アトラトルによって恐るべき速度と破壊力。そして何よりも射程を与えられた百を超える槍は、何百メートルという距離を飛翔。正確に、魔獣どもの肉体を次々に貫いた。

何頭もの怪物が斃れ伏す。恐るべき威力の攻撃はしかし、敵勢を全滅させるに至らぬ。

「散れ!」

長の命令に従い、森妖精エルフたちは散開。運の悪かった一部の者を除き、その突進から身をかわした。魔獣どもの横隊の隙間に身を滑り込ませる形で。

反撃の魔法が飛び交う。火球ファイヤーボール稲妻ライトニングが怪物どもの肉体に食い込み、破壊していくがしかし、その威力は十分ではない。

陽光で減衰しているからだった。太陽神の加護は、世界の秩序を乱すものすべてを破壊する。それが顕著な闇の魔法や不浄なる怪物に対してその作用は特に大きいとはいえ、強力な破壊の魔法も大きく威力を削がれるのだ。

大きな犠牲を出すことなく魔獣どもを退けた森妖精エルフの軍勢。されど、既にその消耗は激しい。敵はまだ大軍を控えているというのに。

にもかかわらず、敵勢の第二陣は既に動き出していた。

魔獣どもの突進に遅れ、多数の歩兵がこちらへと接近しつつあったのである。手に手に武装を構えた小鬼ゴブリンどもの大群が。

森妖精エルフたちは、敵勢へと向き直った。


  ◇


木々が、後方へと流れていく。それも驚くべき速さで。

そこは、空中だった。大地よりも十メートル以上、神殿の屋根にも匹敵する高度で、神官戦士は大森林を疾走していたのだった。

とはいえ彼は飛翔しているわけではない。とてつもなく巨大な乗騎。彼の率いる軍勢に属するものによって運ばれているのだった。

彼を乗せて運んでいるのは樹木。三十メートルもの巨大な大木が、恐るべき速さで疾走しているのだ。枝葉と根を、まるで四肢のように操って。

樹人トレント。森の精霊が宿り、動き出した樹木。強大な魔法によって呼び起こされた存在は、これ一騎だけではない。

彼の後方には、百にも届こうという数の樹人トレント。樹種も大きさも様々なそれらは、樹上に術者である小さなものたちを乗せている。

神官戦士が率いるだった。同時にそれは輸送部隊でもある。術者のみならず、それ以外の妖精や幻獣たちをも、樹人たちは上に載せているからだった。

岩妖精ドワーフであり、もはや将軍でもある神官戦士は、傍らを振り返った。

そこにいるのは裸身の童女。短髪の金髪をなびかせ、尖った耳が印象的な彼女は精神を集中させている。単独で樹人を維持しているのだ。驚くべき力量だった。他の術者たちは、数人一組で樹人を操っているというのに。

この力量ならば、敵が魔獣を率いていようとも恐れる必要はない。樹人トレントたちで十分、互角に戦えよう。

だから、不安要素はひとつ。戦いに間に合うかどうかであった。森妖精エルフたちは既に平原に布陣しているはず。戦端は恐らく開かれているに違いない。ただでさえ不利だというのに、森の中に入られれば一層厄介なことになる。

とはいえこれは仕方なかった。ただでさえ寄せ集めである。集合と編成、作戦会議、その他もろもろ。軍勢でやらねばならぬことは多々ある。むしろ神官戦士はよくやった方だと言えたろう。超人的な努力で、小さな妖精や幻獣たちに統制された行動をとらせることに成功したのだから。

童女の力も大きかった。彼女は小さな者達の中でもかなり発言力が大きいらしい。この魔力を見れば納得ではある。

等と考えていると。前方に光。

「―――出口よ」

変身妖精プーカの言葉に振り向いた神官戦士は、木々の切れ目。そして、その先に見える広大な平原を目の当たりにした。

森を抜けた先。緩やかな斜面に燦々と降り注ぐ陽光の向こうから聞こえてくるのは鬨の声。

見れば、多数の人影が正面から激突し合っているではないか!

「―――ドンピシャじゃ!側面をとったぞ。突っ込め!」

「了解、

大きく平原を取り囲むように湾曲した森林。その端から飛び出した木々の一群は、そのまま闇の軍勢の側面へと突進した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る