なんか大変な状況になってきたぞ(ぉぃ)

夜。月光が照らし出す村の中。

寝付けなかった森妖精エルフの旅人は、宿の外へと出た。

陽光の加護がない時間帯。夜目が利く彼女にとっても夜は恐ろしいものである。にもかかわらず外へと出たのには理由があった。

とてつもなく巨大な魔法が、村のはずれで動き出したのを感じたのだ。

山へと動いていく気配を目で追いかけ。

「―――はぁ。とんでもねえな」

あの岩妖精ドワーフは、村にいる魔法使いは二人だけと言っていたはず。恐らく、その片割れが作ったのであろう。恐るべき力を持った魔法生物か死にぞこないアンデッドに違いない。

薬師には言わなかったが、彼女にはもう一つ目的があった。闇の軍勢に対抗できる戦士をあつめること。

だから、彼女は歩き出した。村のはずれ。もう一人の魔法使いが住まう墓地の向こうへと。


  ◇


少年が来客を迎えたのは、床に就きこれより眠りに入ろうとしていた時の事。

扉を叩く音に警戒した彼は、部屋の隅。寝台代わりに板の床が敷かれた一角から起き上がると、棍棒片手に扉まで行く。

「どなたですか」

「夜分遅くにすまねえな。ちょっと開けてもらえないか」

少年は、扉のつっかえ棒を外し、警戒しながらも開く。

「……どうぞ」

「なんだ、お前さんだったのか」

そこに立っていたのは、昼間診療所を訪れた森妖精エルフの旅人だった。


  ◇


「事情は聴いてました。大変でしたね」

家の中。たいした調度は何もない。寝床となっていた床に旅人を座らせ、少年はその向かいに草の敷物を引いて座り込む。

旅人は、口を開いた。

「ああ。話が早い。

それでな。実は、お前さんに頼みがあって来たんだが」

「なんですか?」

少年は身構えた。未熟な己にできることなどさほどない。

「闇の軍勢と戦うのに協力してほしい」

「……」

「不死の怪物を見たよ。この家から出かけてったな。あれを作ったのはあんただろう?

力ある魔術師と見込んで、頼む。オレたちと共に、闇の軍勢と戦ってくれ」

「……彼女は、僕が作ったものじゃありません。自発的に、僕のそばにいてくれているだけです」

少年は首を振る。彼は力ある魔法使いではない。まだまだ未熟だった。

「それでも大したもんだ。あんな強力な化け物を従えてるとは」

「……彼女は化け物じゃない。訂正してください」

「これはすまなかった」

森妖精エルフは素直に頭を下げた。下げた上でなお、言った。

「だが、彼女の力は本物だ。高位の死にぞこないアンデッドは戦の趨勢すらも左右する。

頼む。力を貸してくれ」

少年は考え込み、そして師とは異なる答えを返した。

「僕は、争いに巻き込まれたくありません。もう苦難には一生分、立ち向かいました。それは彼女も同じです。

僕らの願いは、この村で平和に過ごすこと。それだけです」

「……それで済む、と思うか?」

「……え?」

「闇の軍勢は勢力を広げつつある。その手始めがオレの部族だ。

次はもっと北か?東か?その次は?

奴らは大森林の覇権を得んとして、勢力を拡大しつつある。疫病プレーグの加護を広げられるほどの司祭に率いられてだ。

これは、大森林に住まうものすべての問題なんだ。

そこを踏まえて、頼む。もう一度考え直してくれ」

旅人の言葉に、少年は黙り込んだ。

彼が言葉を返したのは、それから随分と経ってからだった。

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