GMに却下されそう(ゲームマスターなどいない)

村はずれの診療所。

その中に獲物がいることを確認した霜巨人フロスト・ジャイアントは行動に出た。窓から顔をどけ、代わりに腕を突っ込んだのである。

中は彼の感覚ではごく狭い。すぐにニンゲンどもを掴むことが出来るだろう。

と。思っていたのだが。どうやら甘かったか。掴みかけると相手はすぐに乗り越える。なかなか掴めない。見ながらならば簡単だが、手探りなので仕方なかった。

とはいえ時間の問題だ。

そのはずだったが、腕に違和感。熱い。いや。この焦げ臭さは何だ?

腕を引き抜いた霜巨人フロスト・ジャイアントは悲鳴を上げた。

彼の毛むくじゃらな腕。その体毛が、燃え上がっていたから。


───GUYYYAAAAAAAAAAAAAAAA!?


外気に触れ、ますます燃え広がる炎。それはたちまち腕全体を包み込む。のたうち回る霜巨人フロスト・ジャイアント。彼らは熱に弱いのだ。

そんな彼の視界の隅に、家の反対から逃げ去る人影が映った。


  ◇


森の端にあるその建物へと霜巨人フロスト・ジャイアントが手を突っ込んできたのと、少年が動き出したのは同時だった。

薬師を押しのけ少年が発動させた魔法は着火ティンダー。可燃物に火をつけるだけのささやかな秘術である。

だが、その効果はささやかでは済まなかった。

診療所内の人間をつかみ取るべく侵入してきた巨腕。窓から突っ込まれた毛むくじゃらなそれは、言い方を変えれば可燃物の塊である。

そこに、火がついた。

最初は小さい。されどそれはすぐさま燃え広がり、やがて持ち主の絶叫と共に窓から引き抜かれていったのである。

少年はグズグズしてはいなかった。部屋の中を一瞥し、使えそうな物を物色。祭壇に置かれた霊木の枝葉へ目を付けると、呪句を唱え印を切る。

力ある言葉が完成し、万物に宿る諸霊が、助力を与えた。

膨れ上がる枝葉。それはたちまちのうちに胴体が形成され、頭部。そして四肢を備える醜悪な人形と化す。

樫人形オーク・パペットと呼ばれる魔法生物だった。

少年はそいつに自らの服を被せると命じた。

「巨人から逃げ回れ!」

魔法生物はすぐさま家の外へと飛び出すと、それを追うように地響きがたち、そして遠ざかっていった。

ひとまず窮地を脱したことを知った少年はへたり込む。彼の魔法は見よう見まねの付け焼き刃である。よくぞ咄嗟にここまで出来たものだと、自分を誉めてやりたかった。

傍らでは、転倒している薬師。無理もない。

少年は、彼女へ問うた。

「状況を詳しく教えてください!」


  ◇


敵襲はすぐさま村中に知れ渡ることとなった。巨人がのたうち回ったおかげである。

家々から武器を持ち飛び出してきたのは、年配の男たち。あるいはまだ年端もいかぬ子供であったり、女であったり。腕利きの猟師たちは皆、出払っていたのだ。

その数少ない例外。筋骨隆々とした肉体を持つ村長も、盾と槍を手に走っていた。

「男は前へ!密集するな、魔法が来るぞ!女子供は山へ逃がせ!」

道を駆け上がってくるのは一匹の霜巨人フロスト・ジャイアント。その先には、ボロをまとった小柄な人間が走っているではないか。

いや。人間は追い付かれると、巨人に跳ね飛ばされた。彼だけではない。槍を構えた男が、あるいは逃げ遅れた女が次々と巨人のタックルを受けて吹き飛ばされるのだ。よく見れば右腕に負ったひどい火傷を癒した痕跡のある霜巨人フロスト・ジャイアントは、村長に迫る。そいつを迎え撃とうとした村長。されど、巨人は両腕で急所を庇っていた。

突進してくる巨体。

そいつを辛うじて回避した村長は、村の反対側からも悲鳴が上がったことを聞き取った。どころかそこら中から悲鳴が上がるではないか!

村が包囲されたことを、村長は悟った。

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