また風邪を引きました(でも仕事だつらい)
壮麗な邸宅であった。
そこは商業都市の一角にある古い屋敷。白い壁を持ち、幾つもの内向きになった屋根を備えた交易商人の館も、朝日に照らされていた。
家の男手は大変少ない。戦える者は皆出払っているのだ。市民には兵役の義務と権利がある。自らの都市は自らの手で守ると言うのが、内海の都市国家でよく見られる考え方だった。
彼らは裕福さによって様々な役目を割り振られる。武装は自弁なのだ。とはいえ武功を立てれば褒美が与えられる。一攫千金も夢ではない。それに今回の戦で最も大枚をはたいているのが太守の一族であることは、街に住まう皆が知っていた。不満に思う者はいない。
そんな訳で館に残った数少ない男手。その一翼たる
敵勢はふたり。茶妖精の倍近い体格を持つ強大な
その攻勢に、彼はたじたじだった。されど戦略的撤退は許されぬ。なぜならばこの敵勢と渡り合うことこそが、彼に与えられた役目であったから。
そう。
王子である幼子と、この家の元からの住人。すなわち交易商人の五男だか六男だか。この二人の子守りが、彼に与えられた仕事なのだ。
はっきり言って過酷な労働である。報酬に
果たして、館を切り盛りする女主人であるところの、交易商人の奥方は話の分かる人物であった。
喜び勇み、人から見えぬ隙間へと潜り込んでいく
その後ろ姿を見送った奥方としては、大変に助かっていた。うまく扱う限り、
この都市で長い間生きてきた彼女は、幾度となく今のような状況を経験している。すなわち戦争を。一度など、街が戦場になったことすらあった。
だから、活気の失せた街並みに不安がる若い者たちを元気付け、可能な限りの日常を送ろうとしていたのである。
自らも不安を押し殺しながら。
◇
麗しい騎士だった。
驚くべき美貌を持ち、骨の鎧をまとい、鞍に大きな布包みをくくりつけた
彼女は一人ではなかった。その背後に従えているのは100を越えるであろう、槍と盾でで武装した白骨死体の兵団。
骸骨の馬に跨がる、骸骨兵の騎士団であった。
数々の戦いを征し、闇の種族との抗争の最前線に立ち続けた彼女。闇の中で刃を振るい続けた彼女。この、死した女騎士を知るものは、骨の兵団をこう呼んだ。
白騎士団、と。
彼女が見上げていたのは切り立った断崖の合間にある細い道。細いといっても15メートルほどの幅はある。だが騎兵が自在に動き回れるほどではない。
内海北岸における交通の要衝の一つだった。
地形を確認した彼女は、昇りつつある朝日を避け、休息をとるべくその場を後にした。
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