そういえば占い師なのに占いをしてない!?(いまさら)
なみなみと水が満たされた、四角い水面。
月灯りを映し出すその前に座り込み、瞑想しているローブの魔法使いの姿があった。
女占い師である。
彼女は深く潜りつつあった。水面にではない。自らの内側へと、どこまでも潜りつつあったのである。
やがてたどり着いた先。そこにあったのは、赤。
どこまでも広がるそれは、赤い海原であった。
赤の源は、血。
そこへ手を差し伸べようとして―――
「……っ」
物音。
集中を破られた女占い師は、肉体へと帰還した。
「……ぁ………?」
心配そうな顔をしているのは隼を肩に乗せた女海賊。普通の服装をした彼女は、只の町娘にも見える。
首がない事を除けば。
小脇に抱えられた生首は、家人と会話するときにないと不便だからであろう。置き去りにしても行動に支障はないのだから。
この家の人間たちは、女海賊の姿を受け容れていた。さすがは魔法生物が日常的に闊歩している都市だけのことはある。さほどおぞましい姿でなかったのも一因であろう。これが腐りはてた
「ええ。少し気になることがあって」
女占い師は、フードを降ろすと頷いた。
彼女が気にしていたのは昼間のガレー。闇の種族の軍船であった。
ガレーは強力な戦力だが、商業都市の勢力圏内に単独で侵入するとは尋常な事ではない。
ひょっとすると、自分たちはとんでもない時期にこの都市を訪れたのかもしれぬ。
だから、不安になった女占い師は魔法を行ったのだ。
水盤によって未来を占う魔法を。
「……ぅ…?」
「ええ。詳しい事は何も。神々ですら全知ではありません。肉の身を持つ私ごときにすべてを知る事など」
尖った耳。驚くほど白い肌。紅の瞳。色がない髪。それらすべてを備えた美貌の魔法使いは、恐らく、とても長い歳月を生きてきたはずである。
そんな彼女でも見通せないのか、と女海賊は驚く。自らの創造主に瑕疵などないと思っていたのだ。
「未来を知ることができたとしても、それを回避することはできない。私は、それを知っています」
「……ぅ……」
「昔。子を産みました。黒い肌を持つ子を。警告されていたのに」
「……ぉ………?」
「私はね。
「!?」
「正確にはその血を引く混血。半分人間の、
だから、子を産めばどのような姿になるか、知っていたはずだったんです。黒い肌を持つ、
けど、生んでしまった。
そう。人々から忌み嫌われる化け物の姿をした、娘を。
娘が言うんですよ。「お母さん。なんで私を生んだの?」って。成長したあの子は、村を出て行きました。
あの子を探すために、私は魔法使いになった。辺境でも五指に入るという、偉大な
術を極めた私は占いました。今みたいに。あの娘の様子を。
幸せそうだった。私の助けなんてなくても、娘は運命を切り開いたんです。
だから、それ以来占いはやめていました。
―――久しぶりです。何かの未来を視るのは」
「……ぁ………」
「ありがとう。そう言ってくれると、心が軽くなります」
「…ぅ……」
この後も、ふありはしばし談笑を続けた。
やがて、眠ろうと女占い師が立ち上がった時。
館の扉が、叩かれた。
太守より遣わされた使者によって。
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