くんずほぐれつです(絡み合い)
女占い師が閃光を放った時、
しかし、
敵を倒した彼女は向き直る。仲間へと。呪いを受け、生者全てへの嫉妬を植え付けられてしまった首のない女を救うべく。
脇腹を貫かれた女占い師が、倒れる。
それが合図となった。
向かい合う両者は動いた。
◇
―――ああ。妬ましい。命が欲しい。
女海賊は、向き直った。生命力あふれる
だから、女海賊は踏み込んだ。剣は手にしていない。女占い師の腹に食い込んだまま抜けなかったから。まあいい。後で回収すればいいことだ。
それよりも今は、
彼女が襲い掛かってくる。前回と同じく頭上から。だが恐ろしくはない。いかに
攻撃をいなし、
力は互角。されど力量には、大きな差があった。
死者は、生者へと歩み寄った。
◇
―――このままでは駄目だ。
地に斃れ伏した
女海賊は強い。戦闘の経験が豊富な不死の怪物なのだ。当然であろう。自分の力量では勝てぬ。もっと力が必要だった。
周囲を見回す。何か使えるものはないか。
そこで、見つけた。すぐそばに倒れている、狂戦士の肉体を。
尾を素早く彼に接触させた
狂気という祭壇を通じて月神から流れ込んだ力。それは、熊の毛皮の男を癒す、
限りなく死体に近かった男の肉体が蘇る。
狂戦士は、斧を手に立ち上がると、女海賊に向き直った。
◇
―――してやられた。
狂戦士は、斧を振りかぶった。目標は女海賊。されど彼女は、読んでいたかのように踏み込んで来る。
振り下ろされる斧は、空を切った。
そのまま体当たりしてくる女海賊に押しやられた熊皮の戦士は、武器を捨てると相手に組み付く。
以前してやられた相手。力では狂戦士ですらも勝てぬ。故に、彼は相手の関節を極めた。四肢の関節を破壊されれば、いかな女海賊と言えども動けぬであろう。
だが、この首がない女は死者だった。痛みを感じぬのだ。
右腕を砕かれながらも、彼女は狂戦士を殴り飛ばした。
即死はしない。狂戦士の分厚い腹筋の層は、女海賊の一撃を吸収してのけたから。
だが、スタミナでは圧倒的に不利だった。素早く片を付けねばならぬ。
◇
―――あと一押し。
回復させた狂戦士ですら押されているのを見て、
もっと歪まなければならなかった。
だから、
そのまま、中身を頭からかぶった。
まだ歪んでいなかった上半身。瘴気を浴びたそれが、急速に歪み始める。
肩甲骨から肉が盛り上がる。頭髪が絡み合い、寄り合って太くなっていく。上半身を鱗が覆っていく。乳房の下に新たな膨らみが生じた。
たちまちのうちに、
頭髪の代わりに無数の蛇が生えた頭。ぬらりとする鱗に半ば覆われた肢体。四本に増えた腕。六つの乳房。縦に裂けた虹彩。
面影を残しているのは、その美しい顔のみ。
肉体が歪み切った彼女はしかし、まだ正気を保っていた。既に半ば歪んでいたから。それがほんの少しひどくなっただけだ。
とはいえ、ただでさえ七つに増えていた頭が無数になったのだ。その意志を統率するのでも一苦労だった。
―――今度は、私が助ける。
再び、女海賊へとぶつかっていく。
今度は、投げ返されなかった。歪み切った
目が合う。
首のない女体。その、存在しないはずの双眸と視線が重なったとき、
己は呪いを打ち破れる、と。
無数に増えた自我。それは、彼女自身の精神が巨大に拡張されたことを意味している。だから、彼女は、増大した許容量一杯まで狂気の扉を広げ、そして神へと請願した。
女海賊の魂の救済を。
月神はそれに応え、
清浄なる霊力の奔流は女海賊へと流れ込み、その魂魄を縛っていた
呪縛から解放された首のない女体が、力なく崩れ落ちた。
精根尽き果てた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます