第八話 せーぶ あんど ろーど その3

変な地形はだいたいあのひとのせいです(いつもの)

神々の門。

大陸西部に位置する双子の岩山であり、海峡の名前でもある。

太古の昔、大陸西部には巨大な塩湖があったという。その幅は、大陸の実に四分の一を占めていたと言われるほどの。その西側。海と塩湖を隔てるように、巨大な岩山がそそり立っていたとも。

しかし、岩山は断たれた。一匹の怪物によって両断されたのだ。星神の神獣と呼ばれる、神話の怪物によって。

消滅した岩山の中心部分。そこを通じて、海と塩湖は繋がった。塩湖は巨大な内海へと変貌したのである。

それは同時に、二つに割れた岩山が海峡へと変じたことを意味していた。神々の門の誕生である。

非常に狭いこの場所は、二つの世界が接する玄関口でもあった。外海と内海。激しい気候に晒される世界と、そして四方を大地に囲まれ大変に穏やかな世界との。

ひっきりなしに船の行き交うこの海域は、様々な物語を生み出してきたし、これからも生み出していくことだろう。

そして、今も。


  ◇


「このあたりまで来られたことがあるのですか?」

「……ぁ………」

「なんと。まだ岩山がひとつだったのですか!?」

「…ぉ……」

「まだ神獣がこの世に降臨していなかったというわけですかな」

会話を交わしているのは女海賊の生首と交易商人。一行が乗る船は、両脇―――とはいえ10キロメートル以上の幅があるが―――にならぶ巨大な岸壁の間を通り抜けつつあった。

神々の門。そう呼ばれる地形であった。

ふたりが交わしていた会話は1200年前のこの場所について。古代人である女海賊ならばこの地の神話について何か目撃しているのでは?と思った交易商人が、女海賊を起こしたのである。ちなみに大陸では十二進法が主流のため、「1200年前」という表現は「数千年前」あるいは「上古の時代」という意味合いを持つ。

巨大な断崖絶壁に圧倒されながらも一同は航行を続けた。風は推進力を得るのに十分なだけ吹いており、陽光は水面できらめいている。美しい光景だった。

やがて交易商人は抱えていた生首をに戻した。このに顔だけとはいえ晒し続けるのも気の毒である。

現状では航行も大変に楽だった。普段は操船に忙殺されている船員も今はのんびりしているほどである。内海はおおむね穏やかな場所だから、ここからの航海は平穏なものとなるであろう。

船は神々の門を抜け、内海に入った。

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