テクノロジーは進歩するもの(アップデートしないと危険)

「―――起きてください。様子が変です」

村が慌ただしくなったことに気付いた女占い師は、ローブを被り美貌を隠すと同行者たちを起こし始めた。

「やれやれ。久しぶりに屋根の下と思ったら敵襲ですかな?」

交易商人や船員の若者も緊張こそしてはいるが動じてはいない。この程度で動じるようならばそもそも危険な船旅などやってはおられぬ。

武装を帯びた一同は、寝床として提供されていた空き家から顔をだした。こっそりと。

「―――何やらよからぬ霊気を感じます」

「となれば、うちののせいというわけではなさそうですな」

「ええ。しかしどちらにせよ浜側のようですが」

の手に負えるとお思いですかな?」

「分かりません。それほど強力な霊気です」

「一難去ってまた一難ですかな。かないませんな」

一同は家を出た。船と仲間を守らねばならなかったから。


  ◇


叫びを聞いて海浜へと駆けつけた村人たちはたじろいだ。首のない全裸の女が、村の男たち。子供を探しに行った3名の漁師たちへと襲い掛かっているように見えたからである。

彼らが漁師たちを助けるべく、女海賊の背へ攻撃を仕掛けようとした矢先。

「待って!あの女の人は敵じゃないんだ!!魔法使いのお連れさんだよ!」

聞き覚えのある子供の声に振り返った村人たちは、絶句した。彼が抱えていたのが、凄絶な美貌を誇る、女の生首だったから。

「……ぉ……っ!」

は口を開くが、パクパクと開閉するだけで声が出てこない。だがその表情。不浄の怪物特有の、狂気に囚われた様子は見て取れない。一体何がどうなっている!?

彼らが混乱しているうちにも、戦いは進行していった。


  ◇


―――ええい。使いにくぞ!

剣を初めて実戦で振るった女海賊の心の叫びだった。槍や棍棒と比べると、剣というのはバランスが著しく異なる。刀身が長すぎて手で持てる場所が制限されていた。扱いづらい事この上ない。

とはいえ剣に付与された倍力の魔力によって女海賊の腕力は膨れ上がっていた。ただでさえ凄まじい剛腕がさらに強化されているのである。

最初の一撃は外れた。されど、二度目の攻撃は凄まじい戦果を叩きだす。

身を守る防具を持たぬ漁師が、まず真っ二つになった。

続いて振るわれた刃は、次の村人を肩口から腰まで一刀両断する。

その次も同じく、一撃で真っ二つに。

凄まじい威力だった。

だから、女海賊が次の標的に選んだ戦死者。すなわち円盾と剣、鎖帷子で完全武装した死にぞこないアンデッドも、そのようになるかと思えた。

間違いだった。

振り下ろされた剛剣が、木で出来た円盾に食い込む。

―――抜けない!?

女海賊は知らなかった。現代における北の民ヴィーキングの円盾は、敵の刃を喰い込ませて動きを封じることを想定しているのだと。そのために金属での縁の補強を施されていないのだと。

それでも、手慣れた武器であれば不覚を取ることはなかったはずだった。だが、これは女海賊にとっては剣を用いる初の戦い。

女海賊が剣を握る両腕。そこへ、刃が振り下ろされた。

邪なる霊気を帯びた刃が。

剣を手放す判断は一瞬、遅れた。

女海賊の左手首が切断。右まで及ばなかったのは、剛剣が帯びていた防護の魔力故であろう。

武器を手放し後退する女海賊。敵は手ごわい。しかもこいつだけではないのだ。戦死者どもは多勢である。対する女海賊は左手首と武装を失い、防具もない。裸身だった。

女海賊は、早くも追い詰められつつあった。

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