このペースでダークエルフ倒してたらいつか絶滅しそう(しかし話の都合に合わせて増える)
月下の丘陵。
腹部を貫かれた女占い師は跪いた。わずかに残った力で無理やり槍を引き抜くと、治癒の加護で傷を塞ぐ。
傷が癒えた女占い師はしかし、死を目前にしていた。司祭が投じた二本目の槍。そして周囲の
だから、女占い師は神に祈った。魂に築いた祭壇より、自らの保護を請願したのである。
氷神は、願いに答えた。
顕現するのは氷。たちまちのうちに地表より伸び上がったそれは女占い師と、彼女がローブの下に保持していた生首を飲み込み、停止する。
殺到していた攻撃の全てが氷に弾き返された。
三メートルもの逆さ氷柱。戦いが終わるか、夜が明けるまで術者を守り続ける不壊の氷。
氷神の加護に守られながら、女占い師は仮死の眠りに就いた。
◇
女海賊は、攻撃が止んだのと同時に飛び出した。そのまま十数の敵が待ち構える斜面を駆けあがる。
体が驚くほど軽い。得物に拾って来た棍棒がまるで細枝のようだ。一振りするだけで何匹もの
斜面の上に陣取っている
女海賊は、棍棒を振り下ろした。
◇
背後から迫った敵がひとまず無力化されたのを確かめた司祭は、即座に振り返った。
闇の軍勢を突っ切りながら切り込んで来るのは首のない裸身の女である。手にした巨大な棍棒の前には、
間に合わぬと見た司祭はだから、腰の剣を抜き放った。防護の魔力が付与された肉厚の剛剣を。
ぶつかり合う剣と棍棒。
鍔迫り合いは互角。両者の足が地面にめり込んでいく。
いや。
徐々にではあるが、力負けして押し込まれていくのは司祭だった。いかに魔法の力を借りているとはいえ、
助けが必要だった。されど小鬼どもでは役に立たぬ。不死の怪物を作っても生半可な代物では対抗できないに違いない。
だから、彼が救いを求めたのは神だった。深く崇拝している女神に対して、援軍を願ったのだ。
響き渡ったのは、邪なる聖句。
請願に応えたのは黒い霧だった。地の底から這い出してきたそいつらは、蟲。雲霞のごとき毒虫の群れが、辺り一帯を襲い始めたのである。
時空を越えて出現したそいつらは魔力を帯びていた。死者を殺せるのだ。
たちまちのうちに食い破られ、刺され、切り裂かれていく女海賊の裸身。その力は急激に衰えていく。筋繊維を食い荒らされていったからである。
周囲では
恐るべき光景だった。
されど、司祭にとってそれは大した問題ではない。
彼は、弱った女海賊を押し返す。このままの体勢が続けば蟲どもがすべてを食い尽くしてくれよう。
そのときだった。女海賊が、口を開いたのは。
肉声ではない。魂の声である。
それは、司祭を呪う言葉だった。一族を殺し、土地を奪った敵への呪詛。
魔法使いである司祭はその全てを正確に聞き取れた。恐ろしく古い言語による、魂の叫びを。
全てを聞き取った上で、彼は敵をせせら笑った。更には、太古の言葉で敵に答えを返したのである。
「ほぉ。まさか貴様、この土地を攻め滅ぼした時の生贄か。もう1200年も前のことだと言うのに」
女海賊が跪いた。
◇
―――1200年?1200年だと!?
女海賊の内を占めるのは、驚愕。
ありえなかった。それほどの歳月が流れていたなどと。その証拠に、眼前の
女海賊は、金属を知らなかった。彼女が生まれた頃にはまだ、人の類は銅すらも手にしていなかったから。当然剣も知らぬ。彼女が知る刃とは石器か、あるいは骨器である。
―――そうだ。交易商人が身に着けていた衣類も、あるいは女占い師の身を覆っていた防寒衣も、信じがたいほど精巧な技術で織られたもの。もしあれが、遠い未来のものなのだとしたら―――!
確かめねばならぬ。
驚愕が、力に代わった。
女海賊はあえて棍棒を手放した。自由に動かせる左手を解放するために。
司祭の剣が肩を断ち切る。構わない。相手の武器を抱え込む。そのまま抱き着く。力を籠めた。
女海賊の剛腕に耐えられる者は存在しない。
だから、司祭の背骨は、たやすく砕けた。
「……ぬかった」
それが、1200年の歳月を生きた
術者を失った蟲どもが速やかに雲散霧消していく。加護によって招かれた魔法の蟲たちは、術者の維持がなければ存在を保てぬのである。
丘陵に残ったのは、ボロボロの女海賊。逆さ氷柱に守られた魔法使い。そして闇の怪物どもの屍だけ。
僅かな
女海賊は、立ち上がった。確かめるのだ。集落が。故郷がどうなったのかを。
◇
朝日が昇る。慈悲に満ちた、秩序の世界を照らし出す太陽神が。
周囲を見回しても、もはや敵勢はおらぬ。丘陵の上にいるのは、女海賊。その向うにいるのはローブの魔法使いであろうか。
彼は、戦いが終わったことを知った。
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