遮蔽は防御修正にボーナスが入ります(ないと死ぬ)

―――ああ。ひょっとして私は、夢の中にいるのだろうか。

女海賊はそんなことを思う。

そうだ。これはきっと夢だ。でなければ人間が巨鬼オーガァの体を素手で解体できるはずもなかった。

自分の細腕へと視線をやる。

細い手。これでも武器を振るうことは出来た。鍛え上げた手だ。航海を行い、外敵と戦うものの手。けれど、これは人の手に過ぎない。

夢だというのであれば問題解決だった。

眼前の男。恰幅がよく、ひげを蓄えた人間の言葉が分からないのも納得だ。これは夢なのだから。

納得すると、急に気が楽になった。男を―――交易商人を助け起こす。

そして。

背中に衝撃。

「―――!?」

鎖骨を砕いた攻撃に、女海賊の体が倒れ込む。

―――ああ。夢だというのに、この現実感はなんだ。衝撃はなんだ。

そこにあったのは、どこまでも真実だった。女海賊の現実逃避を許さぬ圧倒的な現実感リアリティ

そこで、女海賊は急速に先ほどの出来事を思い出す。自分に向けて必死で語り掛けていた女の言葉。切断された、自分の生首を抱きかかえ、必死で救いを求めていたローブの魔法使いの話を。

女海賊はもう死んでしまっているのだという事。魔法使いの手によって、女海賊は黄泉還ったということ。しかしそれはあくまでも偽りの生命に過ぎないのだという事。偽りの生命は、魔法でなければ害されることはないのだということ。

そして。

闇の軍勢を討つために、女海賊は黄泉還らされたのだということ。

―――そうだ。私は、死んだ。とっくの昔に殺されていたのだ。

倒れ込みながらも背後を覗き見た女海賊の視線。その先にいたのは、何かを投じた姿勢のままの闇妖精ダークエルフである。

丘陵の上で、小集団に守られた奴に、女海賊は覚えがあった。

―――見覚えがある。そうだ。わたしを殺したのはあいつだ!!

敵の姿を認めた女海賊へ、第二撃が投じられた。


  ◇


丘陵の上より司祭が見たのは、信じがたい光景だった。

何匹もの巨鬼オーガァが倒れ伏し、そして傍に佇む首のない女。

恐らく強力な不死の怪物。通常の攻撃ではあれを倒すことなどできぬ。幸いまだ距離はあった。手近な小鬼ゴブリンから矢をむしり取った司祭は、矢飛ばしシュートアローの魔法でそれを投射したのである。

魔法によって加速された一撃は、見事、女の肩を砕いたのだった。

こちらは高所を確保している。開いている距離を詰めるのは不死の怪物と言えども時間がかかる。遮蔽となる地形も遠い。このままであれば相手に何もさせることなく撃破する事も叶おう。

司祭は、第二射を放つべく、小鬼ゴブリンから手槍を奪い取る。

呪句が響き渡った。


  ◇


交易商人は、即座に行動に移った。女海賊の肩を砕いた敵の位置を推察すると、即座に遮蔽物を確保したのである。女海賊を引きずって。

その直後。に、第二射が突き刺さった。巨鬼オーガァの巨大な屍を、手槍が串刺しにしたのである。

交易商人の鼻先に飛び出す槍の切っ先。

「ひぃ!?」

なんという威力だろうか。敵の魔法に違いない。こんな勢いで武器を投じることができる者などいるはずもなかろうから。

傍らの、首がない女体を見る。

右肩を砕かれてしまっている。突き立った矢だか槍だかももろともに壊れたのだろうか、見当たらない。死者である彼女にとっての致命傷かどうか、交易商人の知識では判断がつかなかった。

彼は、近くまで来ているはずのもう一人の味方へと叫んだ。

「来てはなりませんぞ!狙撃されております!!」


  ◇


「来てはなりませんぞ!狙撃されております!!」

交易商人の叫びを聞いた女占い師は、だから遮蔽物沿いに進んでいた。敵勢へと接近するため、なだらかな尾根沿いに移動していたのである。

現状での最大戦力たる女海賊が動きを封じられたのは由々しき事態だった。彼女を自由にせねばならない。

女占い師は、小脇に抱えた生首。女海賊へと告げた。

「敵勢に切り込みます。その隙に走ってください」


  ◇


―――遮蔽を取ったか。

第二射が巨鬼オーガァの屍に突き立ったのを見た司祭は、内心で舌打ちをした。

矢飛ばしシュートアローは飛び道具を遠方に射出する魔法である。威力と射程は凄まじい上に狙いを決して外さないこの魔法にはひとつだけ欠点があった。直線にしか飛ばせないのだ。

とはいえ相手に反撃の手段はないはずである。己の周囲は小鬼ゴブリンをはじめとする手勢が固めていた。まだ他の敵が残っていたとしても、己を傷つけることはできぬ。

小鬼ゴブリンどもの一隊を前進させ、矢を射かけさせるとしよう。たまらず奴らが飛び出したところを魔法で仕留めるのだ。

闇妖精ダークエルフの司祭は、第三射の槍を構えた。

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