話がデカすぎて誰にも教えられないパターン(こうやって知られざる英雄が増えていくのだ)
北の果ての村。
夕日が照らす中、海の方を見ていた村人の一人は、水平線の彼方より何かが歩いていることに気が付いた。
それははじめ詳細が明らかではなかったが、近づいてくるにつれてはっきりとわかるようになってきた。
人間であった。
一人だけではない。男が、何やら白い衣を着た人間を背負ってこちらに歩いているのを見て取れる。
この段階で村人は、他の者を呼ぶべく大声を出した。
さらに、しばしの時間が経って、彼らは、件の男が、先日混血児の少女を救出に行った客人たちの片割れであることに気が付いた。少年騎士である。
であれば、背負われているのはもう一人の客人であろうか?あるいは少女?
この段階で、村の男たちが手助けするべく駆け出していった。
氷原で騎士を取り囲んだ彼らは、背負われているのが白い布を巻きつけられ、寒さから身を守られている少女だ、という事に気が付いた。だがその瞳は何も映し出しておらず、血の色。
そして何よりの違いは、肌が抜けるような白になっている、ということだった。
村人たちの姿を確認した少年騎士は、微笑んだ。そしてそのまま倒れたのである。精根尽き果てたのだった。
皆は、慌てて彼らを運んだ。
◇
混血児の少女は意識を取り戻したが、記憶を失っていた。自らの人生だけではない。言葉も。知性も。何もかもを失っていたのである。神と一体化したことにより、精神のほとんどすべてが破壊された結果だった。
けれど、二つだけ覚えていたことがあった。信仰と、母と。
言葉をしゃべれぬ彼女は、村の礼拝所で神に祈った。母の名だけは口に出すことができた。真に大切な事は失わなかったのである。
そして不幸中の幸いだったこと。彼女の肉体が一切の色を失ったのである。
彼女を引き取ったのは村長の神官だった。彼は無事、毒から回復できたのである。少女を引き取ることについては誰も異存はなかった。今後は大変であろうが。
そして、女勇者。
彼女の死を、村人たちは悼んだ。彼女のおかげで先の
少年騎士は多くを語らなかったが、聞けば近隣の
女勇者の葬儀がまことしめやかに行われ、少年騎士の生還を祝うささやかな宴会の場が設けられた。
回復した少年騎士は、野営地に放置してきたいくつかの品物の回収にいった。女勇者の戦斧を。
ちなみに、女勇者の衣は少女を連れ帰る際に利用された。防寒に用いたのである。村にたどり着いてからは、騎士がマント代わりに用いていたが。
少年騎士は村に逗留し、しばしの期間周囲で何かを探し回っていたようだった。何を探しているのか村人が聞いても、口を濁していたが。
やがて彼が旅立つ時が来た日、村人たちは総出で見送りに来た。
その中には混血児の少女もいた。心を、ほんの少しではあるが蘇らせ、言葉を覚え始めた少女が。
彼女は、荷物をまとめ旅立つ少年騎士へと告げた。
「ありがとう」と。
こうして、少年騎士は、村を旅立ったのである。
偉大なる功績を、誰にも知られぬまま。
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