ラスボスが第三形態に変身(※主人公です)
―――殺った!
そのはずだった。
なのになんだろう。
首に振るわれた一撃はない。
なのになぜ、あの女は、首がずれたんだろう?
ぽとり、と首が落ちた女。その顔がニヤりと笑った。いや、残された胴体から伸びる霊の頭がこちらを見て落ちた首と同じ表情をしたのに、
死んだはずの女は、首が落ちたのにも関わらず平然と動く。部下たちの喉元を鷲掴みとしたかと思えば、彼らの頭蓋をぶつけ、粉々に粉砕したのである。
なんという剛力!
頭を砕いた者たちを投げ捨てた女。それから逃れようとした残る部下たちが素手で切り裂かれ、あるいは抜き手で貫かれた。
たちまちのうちに返り血で真っ赤に染まった女の裸身には、傷一つない。刃を受けたというのに!!
手の届く範囲にいた
接合された首と胴体。
ようやく、頭は敵の正体を悟った。
「―――不死の怪物……っ!!」
それも高度な魔法を使いこなす、恐ろしく強力な!!
まさか生者に化け、人間の村に紛れ込んでいたとは。
もはや裏手側に残るのは、彼他数名のみ。
魔力は残っていない。残っていたとしてもこの敵には通用せぬ。どうすればよい!?
◇
背後の扉が開く前から、長老は敵の気配を正確に察知していた。その動きも。
故に彼は、半歩身を逸らした。正確に突き込まれて来た刃を紙一重でかわしたのである。
どころか、逃れた彼を追尾する刃を、指で挟みとった。かわされることまで想定された突きは、刃が寝かされていたというのに。そう。突きが真横への斬撃へと変化したのにも、長老は対応してのけたのだ。
長老の反撃は、蹴りであった。真後ろに立つ敵へ向きを変えずに後ろ蹴りを放ったのである。
吹き飛んだ敵手が壁に叩きつけられた時点でようやく、長老は振り返った。
「―――なかなかの使い手だ。だが経験が足りぬ」
地面に蹲り、口を押えてあえいでいるのは革鎧で身を守り、青銅の兜を被った剣士。騎士であろうか?剣を手放している。
とどめを刺すべく、長老は踏み込んだ。
顔を上げた騎士と目が合った、次の瞬間。
突如、視界が欠けた。いや。凄まじい激痛。強烈な一撃によって、長老の左目が失われたのである。
そう。騎士が口から放った含み針によって。
針を引き抜き後退した長老の眼前で、騎士は剣をとり立ち上がった。されどその身はふらついている。
互いにダメージを負った両者。ふたりは、構えを取った。
◇
裏手側。
残る部下たちが、次々と刃に魔力を付与した。瘴気を帯び、あるいは霊力の輝きを宿した攻撃が女へと襲い掛かる。
女は、それらのいくつかをかわし、反撃で敵手を砕いた。文字通りの肉片としたのである。
女の体に届いた刃もいくつかはあったが、無意味だった。
肩口を深く傷つけた一撃。脇腹をえぐった一撃。
女は素手の一撃、いや二撃で復讐を果たすと、己の身に突き刺さった刃を抜き取った。そして次の瞬間には、傷口を鱗が覆い尽くすではないか。
死なぬのだ。魔法によって応急修理しているのである。恐ろしく強靭な
そうして
残っていたのは頭だけ。
逃げきれぬ。魔力は使い切った。傷つける手段すらない。
万事休す。
呆然自失する彼の肉体を、女の手刀が叩き割った。
◇
―――まともに戦っては勝てぬ。
少年騎士は、己と敵との技量の差を正確に悟っていた。さすがは永遠の生命を持つ
咄嗟に含み針を使わねば己は既に死していただろう。練習していた暗器術がこのような場で役立つとは。騎士が正々堂々と振舞う相手は、太陽の下を何一つ恥じることなく出歩ける者に限られる。
そこまで理解していた彼は、だから助けを呼んだ。声の限りに叫んだのである。
「敵だ!!こちらに入り込まれた!!」
幾つもの足音が、駆け寄ってきた。
◇
―――まずいな。
長老は、眼前の騎士が助けを呼んだことに焦りを感じていた。
こちらは負傷している上に裸身である。
故に彼は、後退すると壁際の娘を抱いた。その上で、次なる魔法に取り掛かったのである。
暗黒神の加護。すなわち
長老の請願は無事に聞き届けられ、加護が与えられた。長老と娘の肉体は、暗黒神の手によって運び去られたのだ。
部屋には、呆然とする騎士だけが残された。
◇
その後、表側より攻め込んでいた
村人たちは追撃しなかった。遮蔽物がない場所に出ていけばどうなるか明白だったから。
多数の死傷者が残され、そして混血児の少女は連れ去られた。
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