はい。太陽が沈みましたね。(次は闇の種族のターン)
―――厄介な。人間の村へ逃げ込みおったか。
夜の帳が訪れる中。
村からやや離れた小島。獣皮のテントの中で、彼は瞑想していた。村の上空へと飛ばした使い魔の視線を借り受けるために。
忠実なる使い魔からの視界では、村は防備を固めているようだ。当然であろう。
大切な儀式の生贄である。
混血児の少女は長老の娘であった。戯れに、両目を潰し奴隷とした氷神の
問題は、あの少女が神の声を聞いた、ということ。
それも並みの力量ではない。高位の加護を受けるほどの力を備えていたのだ。母の両目を
すぐさま殺すことも考えたが、それよりは儀式に用いることにした。
高位の加護を使いこなすということは、神により近い存在であるということだ。すなわち神を降ろす器足り得るのである。もちろん小神や半神ならいざ知らず、偉大なる暗黒神そのものを降ろせばその霊は耐えきれまい。たちどころに精神が破壊されてしまう。神の降臨はごく短時間で終わるはずである。だがそれで十分だった。
氷の大陸。その地下にて眠る
◇
「―――行け、と。母はそう言い残して亡くなりました。逃げるとき、私を庇って殺されたんです」
窓から夕陽が差し込む中、混血児の少女は身の上話を終えた。
少女の母はこの村の
少女は神に願った。母の目を癒して欲しいと。その願いは聞き届けられ、醜い眼窩を晒していた母の両目は癒えた。母は、その時初めて娘の姿を目にしたのである。
母はすぐさま事態を悟った。娘の霊力は本物である。気付かれればたちどころに殺されるであろう。だから、逃げようとした。
過酷な旅となった。
母は死に、少女も
母の故郷へと。
◇
少女の語りを、女勇者は黙って聞いていた。
特に最後の一言は、女勇者にとっても他人事ではなかったから。
「―――怖かったんです。逃げている間も。この体。この姿を見た人たちに、何て思われるかって…」と。
女勇者は、少女を黙って抱きしめた。血の通わぬ冷たい肉体で。
やがて、嗚咽が、室内に広がり始めた。少女は泣いた。ずっと。
夕日が沈みゆく中、静かな泣き声が続いていた。
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