女勇者かわいそう(かわいそう)

そこは、墓地だった。

陽光に照らされる中、片隅にある小さな墓碑の前である。そこで、老神官と客人は佇んでいた。

「―――これが、彼女の墓、ですか」

「ええ。

しかし、驚きました。あの方の顔立ちは、まったく変わっていません。五十年近く前……正確には四十八年になりますかな。私がお仕えしていた当時のままでした」

「それほどの歳月をかけて、帰ってこられたのですね。

―――どうされるおつもりですか」

「貴方に討てぬ者を、討てる人間などおりますまい」

老神官の言葉に、客人は苦笑。

「そう言われると心苦しいものがありますね」

「本心からですとも。

ですので―――ひとつ、お願いしてもよろしいでしょか」

次いで、老神官が告げた内容。それに、客人も頷いた。

「分かりました。お引き受けしましょう」

「よろしく、お頼み申します」


  ◇


―――ああ。竜の炎ですらも、私を殺せぬのだな。

地の底で眠りながら、女勇者は思う。

最期となるはずだった一撃は、彼女を殺せなかった。それで戦いは終わった。竜騎士ドラゴンライダーを巡らせ去っていったからである。もはや打つ手がないと判断したのであろう。

とうとう、死ねると思ったのに。

まあ、仕方ない。それでも、人と話すことができてうれしかった。また気力が湧いてくるというものだ。

次はどうしようか。また街を訪れても追い返されるだけだろう。諦めて、別の目標を探すべきだろうか。

そうそう。置き去りにしてきた戦斧の代わりも手に入れねばなるまい。ようやく手になじんできたころだと思ったのだが。

さあ。そろそろ目を覚まそう。そして、新たな目的を見つけ出そうではないか!!


  ◇


山裾の街からほど近い、夜の森。

女勇者が地の底から這い出してきたとき、そこには巨大な戦斧が立てかけられていた。そして防腐プリザベーションの加護が付与された、ふたつの竹簡の束。

手紙だった。

手に取った彼女が開いたそれの差出人。片方はあの竜騎士ドラゴンライダー。先の一騎打ちでの女勇者の戦いぶりと勝利を讃える文言が、刻み込まれていた。

そして、もうひと束。

かつて、女勇者の従者を務めていた少年。今は、故郷の神殿の長に就いている老神官からの手紙。近況。彼が知りうる限りの、女勇者の知己について。女勇者が死んでから四十八年も経って、その顔を見ることができてうれしく思ったということ。

それらが、事細かく記されていた。

全てを読み終えた女勇者は、泣いた。

いつまでも、その涙が枯れ果てることはなかった。

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