ぶっちゃけ人間の尺度で言ったら神獣だろうが神々だろうが大差ないよね(レベル1から見たらレベル千だろうがレベル百万だろうが絶望問題)

ああ。死んでしまう。少年が。私のせいで。

足を負傷した女神官の眼前。月光が降り注ぐ木々の合間。そこに倒れているのは、黒衣の少年の肉体。幾つもの矢が突き立った彼は、瀕死に見えた。

少年は、女神官へと手を伸ばした。震える手を、ごくゆっくりと。

女神官は、それを取ってやる事しかできなかった。

この粗忽ものめ!!何故ここぞというところで詰めを誤るのだ!!

女神官の内にあるのは自責の念。小鬼ゴブリンの槍をと誤認し、慢心した己自身への怒り。

あれさえなければ、まだどうにでもなった。なのに、全員が生存する最後の機会チャンスを手放してしまった。たった一度の失敗で。油断したせいで。

もう、力は残っていない。簡単な魔法ひとつ分だけ。全滅するだろう。

―――本当に?

女神官の魂。その奥底に、生まれた時からあった祭壇の向こうから、声が聞こえたのである。

―――本当に、お前はもう、力を残していないのか?

僅かに残った女神官の力を容赦なく削り取り、その声は響き渡った。

何を―――今になって、一体、なにを。

女神官の問いかけ。それに、声は、楽しそうに答えた。

―――試してみよう

そして、女神官は、


  ◇


ああ、駄目だ。

仲間たち全員の状況を俯瞰できた女剣士の内を覆うのは、絶望。

女神官はもはや走れぬ。己も動けぬ。少年は虫の息。踊る剣リビングソードも戦えない。八方ふさがり。自分はさておき友人を待つ運命は悲惨だろう。彼女は美人だ。どんな目に遭わされるか。

ふと。

生首側。木箱から投げ出された女剣士の頭部の眼前で、女神官が。いや。おかしい。足を負傷していたはずではないか。それだけではない。彼女の背中から伸びているものはなんだ。灰色の羽毛に覆われたあれはなんだ。法衣を突き破ったあれ、はなんだ!?

その肉体が浮かび上がる。月光に照らされ、星光に照らされる中。

が、腕を振り下ろした。

―――え?

クレーター内部に転がっている女剣士の胴体。そこに魔法を投射しようとしていた闇妖精ダークエルフの戦士が、潰れた。いや、奴が率いている敵勢ごと。まるで、虫を拳で叩き潰したかのように。

訳が分からない。

なんだ。何が起こっているのだ!?


  ◇


闇祭司は、自軍から見て斜め前方、上空へと浮かび上がったそいつを見上げていた。いや、闇の軍勢すべての者が、そいつを見上げていたであろう。

凄まじい魔力。いや、あれは。陽光にも等しい圧倒的な聖威。なんだ。何故あんなものが地上にいる。あれではまるで神々そのものではないか!!

十三枚。フクロウの翼にも見えるそれを非対称に背から生やし、水神の法衣を纏ったその女は、冷酷極まりない瞳で

もちろん、それで終わりではない。

そいつは何かを虚空からつかみ取るような動作を右腕ですると、それを振りかぶり、そして

女の手がどこへ伸び、何をつかみ取り、そして何を投じたか。不幸なことに、優れた魔法使いである闇祭司は、その全てが見て取れた。もう己が―――いや、この軍勢が終わりであるという事も。助からぬ。

闇の軍勢の進行方向。南の空で、光がきらめいた。

かと思えばそれは、凄まじい速度で軍勢の前衛へ突っ込み、凄まじい衝撃ですべてを薙ぎ払いながら闇祭司を飛び越え、その真後ろにいる骸竜ドラゴンゾンビィへと突き刺さった。

天空より降り注いだ隕石の一撃メテオストライクは、その運動エネルギーの全てを骸竜ドラゴンゾンビィに与え、粉々に粉砕。諸共に消滅する。

衝撃波で吹き飛び即死した闇祭司。その魂魄も爆発で弾き飛ばされ、そして天の彼方へと消えて行った。

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