くっころの華はやはり大規模戦闘(そもそもの始まりがたったひとりの女騎士vs闇の軍勢やからな)
軍勢の進行方向。その左側。音もなく敵を追尾していた女剣士は、友人の意向にニヤりと笑った。いいだろう。たった三人、いや四人で、大軍を相手に戦うわけだ。これが楽しくなくて何だというのだろう。女冥利に尽きる。
前方には森の切れ目。その先には田園風景が広がっている。そこを抜けたら、仕掛ける。
速度を上げた彼女は、森を抜けた途端に右へ急旋回。凄まじい勢いで疾走する。
その先には、何十という数の敵勢。
騎兵を潰すのであれば森の中の方が都合がよい。―――本来ならば。
大剣を抜き放ち、女剣士はそやつらへ突進。後に続くのは、腰からひとりでに抜けた
馬にも勝る速度で敵との距離が縮まる。いや、女剣士の脚力がそれを可能にしたのである。
一閃。
まるで藁束のように、人馬両断された闇の騎兵。まさしく撫で斬りであった。それで終わらない。勢いを殺さず、敵に斜め後方から追走。片っ端から切り殺していくのである。取りこぼしても問題ない。
たちまちのうちに何十という死体が転がりなお、その数は増加していく。
敵前を横切った女剣士は反転。奇襲の効果を最大限に発揮すべく、森の中の敵、本隊へと突進していった。
◇
それが女神官の出した結論である。
彼女らの能力では、夜の間にあれを倒すのは不可能だ。ならば軍勢を可能な限り引っ掻き回し、その足を止める。
彼女は縄を肩紐代わりにして友人の隠れ場所たる木箱を吊るすと、印を切り呪句を唱えた。
高らかに万物の諸霊へ願い上げる言霊が、響く。
たちまちのうちに完成した魔法の対象は、女剣士。その生首だった。
女剣士を守護し、あるいはその能力を引き上げる種々の魔法が付与されていく。それは呪的な経路を通じて、首から下、敵軍の中で獅子奮迅の働きをしている胴体へも届いた。
◇
―――魔法使いの視界に入らぬようにせねば。
疾走する女剣士。
これほどの軍勢である。魔法を使ってくる者もいるだろう。そいつらに攻撃されれば、いかな不死の体とはいえ死ぬしかない。
そのためにも可能な限り混乱を引き延ばし、ひとつところに留まらず、動き続けるのだ。
そう思った矢先。
射線上の
◇
即座に術者を探す―――いた。
剣を振り上げ、敵勢をすり抜けながら
怪物の首が宙を舞った。
◇
女剣士たちの後方。田園地帯、村と森とのほぼ中央にひかれた絶対防衛線。
敵を待ち構える女神官と黒衣の少年へ向けて疾走してくるのは、何騎もの敵騎兵。女剣士たちが撃ち漏らした者どもだろう。
少年が前に出た。
月光の下、駆け抜ける姿はまさしく疾風。跳躍した騎兵―――
さらに、前方から迫ってくるのは
逆手で抜かれたのは銀の小剣。それは、
絶命した敵の胴体を蹴り、反動で小剣を引き抜きつつ後方へ跳躍。綺麗に着地すると、黒衣の少年は二刀を構えなおした。
◇
―――見事だな。
女神官は、前衛―――黒き外套を纏った少年を心強く思った。神殿で基礎を学び、驚くべき美貌を持つ旅の騎士に師事したと聞くが、師匠もさぞや腕の立つ御仁なのだろう。彼の持つ銀の小剣も、その騎士より与えられたものだそうだ。
とはいえ見惚れている場合ではない。彼が倒した以外の騎兵や雑兵がわらわらと寄ってくる。数が違いすぎるから、自分の身は自分で守るしかない。
問題ない。
女神官が手にしているのは、
投じた石礫は、迫る騎兵の胸を砕いた。更に紐は手に絡めたまま、足元の戦棍を拾い上げ、そして踏み込む。
飛びかかって来た
と、吊るしている木箱を持ち上げる。―――そこへ突っ込んできた騎兵が静止。死者は死なぬ。友人の首は魔力を帯びぬ武器に対しては史上最強の盾となるのだ。我ながら酷い扱いだとは思うが。女神官は筋金入りの合理主義者だった。
反撃で敵を砕きつつ、女神官は少年のあとを追った。
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