死ですらも救いなのだ(ダークファンタジー)

洞窟の外。少年は、日の光が最も早く当たる場所で、全身骨格を座らせた。その隣に自らも座る。

「……姉さん。ごめん。助けられなくて」

姉は、頭蓋骨だけとなった顔を少年に向けた。優しい美貌が見る影もない。それがただ、少年には悲しかった。

彼女は震えながらも、手を、少年の頬へ伸ばした。涙を拭きとるべく。

いつまでそうしていただろうか。

やがて、朝日が昇った。少年の姉に降り注いだ陽光は、彼女を縛る不死の呪いを優しく焼き払う。

邪な魔力によって維持されていた骨格は、バラバラに崩れ落ちた。


  ◇


陽光の下、燃え盛る炎。

運び出された遺体が焼かれているのである。その数は一体いかほどか。

葬儀を取り仕切るのは女神官。水神は水葬が基本とはいえ、それを行えぬ状況ならば他のはふりで駄目というわけではない。魔界の瘴気に冒された死体は焼くのが一番だった。

女剣士は陽光と、何より悪しき魔法によって痛めつけられた魂魄に鞭打って遺体を運んだ。黙々と。生者二人も洞窟から蓄えられていた薪を運び出し、火葬の準備を整えた。

「……ぁ…」

生首を小脇に抱えた女剣士の視線の先。彼女の霊的な視覚には見えていた。肉体から解き放たれ、天へと昇っていく魂たちが。風に運ばれ、どこかにたどり着くのであろうが。

少年の両親も焼かれた。そして姉の遺体。骨も、肉塊と化したほかの部分も。

「終わったな」

「…ぅ………」

女ふたりは少年の背を見ていた。燃え盛る炎の前に立つ、少年の姿を。


  ◇


やがて火が燃え尽き、少年は振り返った。泣きそうな顔をして。

「―――どうも、ありがとうございました」

深々と礼。すべてを―――文字通りすべてを失った彼の胸中はいかほどに傷ついているのか。

「君の勇敢な行動のたまものだ。君が事態を知らせるべく走らなかったら、犠牲者はこれだけで済まなかっただろう」

他にかけるべき言葉を持たぬ女神官は、思ったままを告げた。あの怪物がもっと出現していたら、とても手には負えなくなっていたはずだ。犠牲者がこれだけで済んだのは不幸中の幸いであろう。

「さて。これだけの事件だ。近くの神殿に寄って事情を説明しておかねば」

「…ぁ……」

葬儀を終えた女神官は、近くに立かけられた戦棍を拾い上げた。あの小屋に置いてきた荷物も回収せねばなるまいが。

こうして、一同は場を後にした。

残されたのは、遺体が一か所に埋葬されたことを示す土まんじゅうのみ。

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