今のところ裸マントと快楽堕ちと全裸とポロリと触手とおもらしとくっころをやってるのか(嘘は一言も言っていない)

星神の神獣。

好奇心は身を滅ぼす、という意味の言い回しである。

賢者たちの信奉する知識神としての側面も持つ星神は、神話の時代、世界の外側へと手を伸ばした。好奇心故に。

彼が外の世界とつないだ道。そこから現れたのは、強大なる神獣。鋼で出来た龍だった。

そいつは、傷ついていた。長大な角は半ば欠け、右脚と左腕を失い、全身に無数の傷が刻まれ、そして三本もの巨大な刃が突き立っていたのである。

異界の神々―――鋼の戦神マシンヘッドたちと戦った結果と言われている。星神は、開いた道からあちら側の世界を垣間見たのだ。

手負いのそいつは、猛り狂っていた。右腕から放たれる雷は大地を割り、残された脚の一撃は月に巨大な窪みを作り出したという。

神獣を討つため、星神の兄弟姉妹たち―――光の神々が力を合わせた。それですら足りず、世界を守るため、闇の神々さえもが、利害を越えて助力した。

幾多の犠牲を払い、ついに神獣は封印されるに至る。

神獣をこの世界に引き入れた責を取り、封じた神獣の監視には星神と、彼の使徒である星霊たちが当たる事となった。星神の治める領域である、星界へと神獣は繋がれたのだ。

神獣を縛る封印の錠。その鍵を持つのは、星神と星霊たちのみ。

ここまでが、人の類に伝わる神話である。


  ◇


「おつかれさん」

知識欲は時に身を滅ぼす、という内容の説話を終えた初老の神官は、部屋の外で待ち構えていたとんがり帽子にローブの美女に喜色を浮かべた。

「久しぶりだな」

彼とこのは既知の間柄であった。時に利害が対立することはあるが、こと闇の勢力相手では何度も肩を並べている。

「今日は一体どうされた?」

「ああ、ちと聞きたいことがあって来たのさ」

ふたりは、陽光の差し込む長大な廊下を歩きながら言葉を交わす。

ここは星神の神殿。自然石を組み合わせた黒い床は長年参拝者たちが歩いた結果すり減り、滑らかである。室内も同様であり、説話を聞く信者たちは、持ち込んだ敷物を敷いて床に座るのだった。木造の天井は見上げるように高く、そして広い。

「……ふむ。赤子を連れた魔法使いか」

「あたしならこっちに連れてくるからね。まあ確証はないんだけども」

星神の神殿は、水神の神殿の反対側、北にある。死霊術師と女騎士も北側から港町へ向かっていたし、星神の神殿と水神の神殿の権勢はほぼ互角である。どちらに赤子を預けても構わないのであれば、地理的に近い方に預けるのが合理的であろう、というのが老婆の考えであった。もちろん元々の目論見は破綻してしまったわけだが、どうせ両方に聞き込みをするのであれば先にこちらを訪ねても損はあるまい、という判断である。

まさにその、「船を降りた場所から近いから」という理由で水神の神殿に赤子が預けられたとまでは彼女も思い至らなかったが。

「聞いていないな。赤子を預けられたとなれば、私の耳に間違いなく入るはずだが」

「そうかい。すまないね、手間とらせて。もし来たら教えてくれるかい?知り合いでね」

「承知した」

初老の神官は首肯した。


  ◇


馬面。

死霊術師が目を覚ました際、眼前にあったものである。

「……あー。おはようさん」

こちらに顔を近づける馬をおしやり、藁の中から異相の魔法使いは立ち上がった。

ここは宿にある馬小屋。路銀がなかった死霊術師は、宿代代わりに呪符を差し出し、ここをあてがわれたのだった。あの魔物―――水精霊ウォーター・エレメンタルと渡り合うために準備していたものの使わなかったものだ。

実際はかなり力ある呪符なのだが、何せ樹皮に文言を刻み込んだだけの代物である。魔法使いでもない宿屋のおかみにその価値が分かろうはずもない。死霊術師も異存はなかった。後で魔法使いに売り払う時驚愕するだろうが。いや、分からないのをいいことに買い叩かれるか。

振舞われた朝食―――漬物と煮た小魚―――を胃袋に収めると、彼は宿を出た。

赤子は預けた。神官に事情も説明した。後はこの街の上層部がやってくれるだろう。自分としても動きたいところだが、まずは路銀だ。

仕事を探さねばなるまい。


  ◇


日の差さぬ裏路地だった。

周囲に立ち並ぶのは屋根を樹皮で葺いた木造の家々。粗末なそれらに住まうのは、大部分が港湾にて働く労働者たちであろう。

周囲を歩いているのは女騎士。首を入れて結んだ布を右肩にかけ、腰には剣を帯び、マントの下には甲冑の完全武装である。

港湾にて聞き込みをしていた彼女は、あまりの陽光に参って首を布にて包んだのである。他者からは手荷物に見えるであろう。

身振り手振りで行う聞き込みは空振りに終わった。該当する魔法使いは誰も見ていないらしい。明日は街の南側に聞き込みに行こう。今日はもう限界だ。

考えながら、日陰を歩く女騎士。

ここしばらく、陽光の元で活動しすぎた。普通に起きて歩き回るだけなら一週間でも平気な彼女だが、この不快感による精神的疲労は凄まじい。体の動きも鈍る。明日には曇らないものだろうか。

のろのろと歩き、曲がり角に差し掛かったとき。

後方より衝撃。

見れば、肩に下げていた包みが―――首を入れていたそれがない。ひったくられたのである。

まさか自分の首をされるとは!

前方を駆ける下手人は小柄。子供か。を取り戻すべく走りだした女騎士の眼前で、は尻餅をついた。

前方から現れた男にぶつかったからである。

「ひったくりか。やめとけやめとけ」

聞き覚えのある声。

布に包まれた首を拾い上げたは怪訝な表情。

「うん?これ……」

「……ぁ……」

を動かす。

ギョッとしたは布を開き、中身を検分し―――

「……え?え?」

目が合った。

さらにを見て。首を見て。視線が何度も往復する。その隙には逃げ去っていくがどうでもよい。

女騎士は歩み寄り、そして、彼を―――死霊術師を、抱きしめた。

「……あー……無事……だったんだな……」

「……ぅ……ぉ……」

ここまでしどろもどろな死霊術師は初めてだった。

霊の首を、彼の耳元に近づけ、口を開く。

「……すまん、心配かけた。よく生きててくれた」

「…ぁ……」

「ああ、大丈夫。あの子は無事だ。水神の神殿に預けた」

女騎士の背を撫でる、死霊術師の手。

甲冑越しでも、それは伝わった。

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