No.73 盗聴器ってどうやって仕掛けてるん?
人ごみの中。彼杵をふと見ると、警官に追われていたのだ。
だがたくさんの人間がいる中で彼杵は上手く逃げることができず、ついに警官に捕まってしまった。
目を凝らすと、何やら彼杵が喚きながら抵抗しているようだが、二人のデカい外国人警官に取り押さえられ、パトカーへと連れられて行ってしまう。
「そ、彼杵!!」
「ちょ、神哉さんストップストップ!!」
俺は考えるよりも先に体を動かしていた。考えなしに動いてもどうにもならないことはこれまでの経験から分かるはずなのに。
「そう焦らないでください!!」
「は、離してくれ!」
「落ち着いて! 今あなたが彼杵さんを助けても逃げられませんって!」
「くっ。そうだよな、すんません。取り乱しました」
春昌さんが走り出そうとする俺の腕を掴んでくれたことで、俺は冷静を取り戻す。危うく衝動のまま突っ走って彼杵とともに捕まえられるところだ。
「いいんですよ。想い人のピンチなんですから、慌てるのも当たり前です。ですが、ここは落ち着いて一度いつものように作戦を立てるべきでは?」
「そっすね。とりあえず、ゆっくり話が出来るところに行きましょう」
春昌さんの背中を押す形でどこかゆっくり出来る場所、カフェとかでいいんだけど。向かうことにした。彼杵、待っててくれ。絶対二人で日本に帰るんだからな。
博物館から少し歩いたところにスタ○バックスを発見し、俺と春昌さんはそこに腰を下ろすことにした。
「さて、さっそくですが......」
「ん? な、なんすか?」
春昌さんが席に座ったのと同時に、胸ポケットをゴソゴソしだす。
そこから取り出したのは、
「ジャーーン! 盗聴器の聴く方〜〜!!」
「あんたヤバイな!! てか彼杵につけてたのか、盗聴器!?」
「神哉さん家にたまる女性陣の方々全員に付けてますよっ」
「何をそんなに自慢げに言ってんだよ!? ごりごりの性犯罪者じゃねぇか!」
ぜぇぜぇ肩を上下させてツッコむ俺に、まぁまぁと手で制してくる春昌さん。
いや、こうさせてんのあんただから。
「とにかく、これで彼杵さんの状況を盗み聞きましょう!」
「彼杵のこと助けだしたら盗聴器外せよ......?」
「ハイハイ、りょーかい」
春昌さんは俺の言葉をテキトーに流して、片方のイヤホンを俺に差し出した。
付けたのを確認すると、何事か操作しチューニングを合わせているようだ。
『ギュィィィィィン...............ザザザ』
「これ、ホントに使えるんですか......?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいって!!」
焦らすな、と声を荒げる春昌さん。
『ガガガガガ......です......!』
「あ、今聞こえましたよ!!!」
「まだ雑音がすごいですけどね」
『ガガッ、......だ、......ら~?』
う~ん、まだ全然意味が分からない。ただ彼杵の声だということは理解できる。それに加えて本場の英語が薄く聞こえるくらいだ。
『ギュガッ、何回も......じゃないですか!!』
「春昌さんもう少し聞こえるようにならない? すごい惜しいとこまできてる」
「お任せください」
『ギュィィィン......だからぁぁ!!」
「はっきり聞こえましたよ!!」
「えぇ、やっと上手い事繋がりましたね」
ホッと胸をなでおろす春昌さん。しかし完全にはっきりと聞こえるわけではないので、俺はイヤホンに耳を集中させる。
『いやホワイじゃないですよ!! あいむいんぐりっしゅのーのー!!』
「ヒッドい英語ですね......」
「あいつの歳ならギリギリ中学で英語の授業あってたはずなんですけどね......」
あまりにも語彙力の無い彼杵に二人で
『I'm asking you if you are a Japanese』
『だっから、日本語少しも喋れないんですか!? 警察でしょ!?」
「自分のことすっごい棚に上げてますね」
「とても捕まってるやつの態度とは思えねぇ......」
『あっ、ちょっとなにするんですか!? や、やだっ、ブタ箱行きはイヤーーー! ......ザーーーーーーーーー』
彼杵の叫び声と共にまたノイズがひどくなってしまった。
「......神哉さん、どうしましょっか」
「彼杵はブタ箱行きって言ってましたけど、さすがに事情聴取も全然してない状態でそんなことにはならないでしょう」
「そうですね」
「チャンスとしては、今日の夜......しかないんじゃないかな」
「分かりました。私も出来る限りお手伝いします」
「頼みます。どちらかと言えば、俺より春昌さんの方が動けますしね」
悔しいが春昌さんはこう見えて世界的に指名手配を喰らっている怪盗なのだ。
運動神経はずば抜けて良い。
「それで、作戦的なのは......?」
「いや、今回はノープランで行きます」
「え!? あの慎重に物事を進めたがるクソビビリの神哉さんが何の考えもなしに!?」
「クソビッチみたいなトーンで言うのやめてくれません?」
失礼極まりないな、全く。
俺が作戦を一切考えないというのを冗談だと思っていたのか、春昌さんは慌てて言葉を発する。
「し、しかし。どうしてまた作戦無しにいこうなんて......」
「あいつに、彼杵に感化されたというか......まあ、何でもないっすよ」
「いくら我々とは言え、何の策も講じないでいくのは無茶じゃないでしょうか?」
「いいんです!! 夜に留置所忍び込むぐらい余裕ですよ!!」
「そうかなぁ......」
心配そうに首を傾げる春昌さん。
だけど俺の意思は変わらない。彼杵のように、彼杵がいつも仕事をやっているようにして救い出す。
そうすることに意味は無いのだけど、俺は、何となくそういうやり方もありなんじゃないかなと。
いつも俺は勝手にリーダーぶって作戦を練ったりして、自分で勝手に背負い込んで勝手に周りから期待されて勝手に自滅してしまう。
だから、初めて見たあのときの彼杵のように、俺は彼杵を救い出してみせる。
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