第十九罪
No.71 日本人の平和ボケはヤバイらしいよ?
皆んなに置き去りにされ、膝を落とす俺と彼杵。
あいつら、ひどい! 何で俺らがいないことに気付かないんだよ!
「どうしましょうか、神哉くん......」
「どうするって言われてもなぁ......。飛行機代はギャングボスが出してくれるって言ってたから、観光でほとんど金使っちゃったし」
「と、とにかく所持金の確認をしましょう!」
彼杵がポケットに手を突っ込み、裸の状態で50ドル札を一枚と硬貨を少量。
財布ぐらい持てよ......。
俺はお尻のポケットから長財布を取り出し、中身を全部出す。
「私が、50ドルと75セントです」
「俺は100ドル丁度だ」
「............ワンチャン飛行機乗れます?」
「乗れねぇよ! お前どうせ日本円に換算出来ねぇんだろうが!」
「だって、何であんなに複雑な金額にしてるのか意味分かんないんですもん! それに、毎日金額変わるんですよね!? 中卒には分かるわけありませんね」
「全国の中卒に謝れ! それぐらい中卒でも出来るわ!」
ブスッとむすくれた顔で文句を垂れる彼杵に、激し目のツッコミを入れて肩が上下する俺。
まぁ、確かに中学の時の俺なら日本円に換算とか出来なかったと思うけど。
「いいか、1ドル......そうだな、約100円だとしよう。50ドルで幾らになる?」
「5......000、円?」
「お、おぉ正解だけど......これぐらい詰まらずに言えて欲しかったな」
「あぁ分かりましたよ! 50ドルの二倍で100ドルは一万円ですね!」
「そそ、正解。だから、二人合わせて一万五千円くらいだな」
当然の事だが、そんだけで大人二人飛行機に乗れるわけが無い。それにアメリカはバカデカイ。今いる場所で飛行機代も変わってくるのだ。
「ちなみに、いくらくらいあればいいんですか?」
「そーだなー、二人分で余裕を持って二十万は欲しいところだ」
「に、にじゅうまん!?」
彼杵が目を見開き驚く。いや、多分それくらい必要だと思うんだけどなぁ。
「あ、私子供料金でいけませんかね?」
「いやいや、高校生に見えないこともないけど。高校生も料金一緒だし、まずパスポートでバレるだろ」
「むぅ~、現実は厳しいですね......」
ホント現実は漫画やアニメのように簡単にはいかない。だからといって漫画、アニメにこのシーンはリアリティが無いとか現実ではあり得ないみたいなツッコミはしちゃいけない。
だってアニメなんだから。よくいるだろ、アニメ見てて変につっこんでくる父親。
......話がずれてしまった。飛行機代の話だったな。
さてさて、どうしたものか......。
「やっぱり、ギャングのボスさんにもう一度飛行機代出してもらいましょうよ」
「いや、それはダメだ!!」
「ど、どうしてですか!?」
「そりゃ、決まってる。一度出してもらった飛行機代を、もう一度払ってくれなんて......」
「......なるほど、言えませんね......」
ギャングのボスが飛行機代を払ってくれたのは、イクミを救ってくれてありがとうという気持ちからだ。それを踏みにじるかのように寝坊し、飛行機に乗れなかったからもう一回飛行機代払ってくれなんて。
怖いし気まずいし絶対言えない......。
「あぁぁぁ......、このまま俺たちはアメリカで野たれ死んじまうのかなぁ......」
「ベガスまで行ってギャンブルして増やすってのはどうですか?」
「お前、ここワシントンDCだぞ......。ラスベガスは真反対だ。移動に残金ほとんど使っちまうよ」
「あ、そーなんですか」
自分がどこにいるのかさえ分かっていない彼杵。忘れそうになるが、こいつは一応二十歳である。大人っぽく無さ過ぎるのだ。
「でもギャンブルって手は中々良いな」
「ですよね!! 私一度もしたこと無いですけど!」
「奇遇だな、俺もギャンブルはしたことが無い」
「......」
「......」
じゃ、ダメじゃん。素人が下手にギャンブルに手を出したら、よくは知らんけど何かヤバそう。
「......ダメだ、もうお手上げだ」
「神哉くんらしくないですね。こんな時こそ、拳を振り上げるのが神哉くんですよ!!」
「そう言われてもな......。海外じゃ金の稼ぎようがないし」
がくっと肩を落とす俺。お金が絡んでくると、人間はこうも無力なのか!
すると彼杵が俺の肩に手を置き言った。
「神哉くん。もっと私のことも頼ってくださいね?」
「彼杵......」
あぁ~、その優しい微笑み、素晴らしく可愛い~。
彼杵は腕まくりし、肩をグルグル回す。
「もう忘れちゃいました? 私の本職は、泥棒ですよ?」
「な、何する気だ......?」
「へへへ~、いつも頑張ってる神哉くんは今回はお休みです! 私に任せてください!!」
えらく自信満々の彼杵は、胸を張って堂々とそう宣言したのだった。
次は美少女泥棒がスリにスリまくるようです。
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