No.54 サイコパスの考えるハッカーの悪い十の理由?


「許さねぇ......!」

「ちょ、ちょっと神哉くん!? どこ行くの?」

「決まってるだろ! 学校だよ!」


 俺は師匠の話を聞いて、すぐ立ち上がる。目的地はもちろん、師匠の学校。


「おいおいおいwww。ちょっと待ちなってww。行って何する気なんだい?」

「まだその生徒が残ってたら、取っ捕まえてやるんです」

「はぁ......w。君が思ってたよりもおバカさんで、僕は悲しいよww」

「......どういうことすか?」


 隠す気の無い平戸さんの挑発に、俺は努めて冷静に質問する。


「もしツバキちゃんをリンチにした子に会えたとして、取っ捕まえてどうするってんだいww?」

「そりゃ、......師匠に土下座で謝らせます」

「その考えがまずダメだ!」


 突然の野太い声に、場の全員がビクンと肩を震わせる。平戸さんはその様子をニヤニヤ一目し、言葉を続けた。


「土下座なんてさせたところで、その子たちを逆に燃え上がらせるだけだってんだよww」

「......もっと詳しくお願いします」


 人の深層心理の読み取りを、無意識に出来る平戸さん。口調は非常にムカつくが、ここは話を聞いておこう。


「君が無理矢理土下座させても、今度は君にバレない程度に、もっとヒドい事するだろうねww」

「強制させられた謝罪は、その人の悪感情を増やすってことですか?」

「彼杵ちゃん、大正解〜」


 なるほど。冷静になって考えれば分かったことだ。

 人から無理に言わされる『ごめん』って、本人は一切悪いと思ってないってことの方が多い。

 というか、むしろもっとイライラするな。


「そもそもの話ぃ〜wwwwwwww」


 平戸さんのwが六を超えた。これは、警戒せねば。

 このトーンは、サイコパス特有の反社会的思考が、全面に出る時の感じだ。


「悪いのって、ツバキちゃんじゃなぁいww?」

「......は?」

「今回の件で悪いのは、ツバキちゃんだって事だよww。一回で理解しろよ、バカwww」

「あ、あんたなぁ!?」


 俺が拳を握りしめ、今にも殴りかかりそうなのに、平戸さんは俺に向かってニヤッと嘲笑する。

 師匠は顔を俯け、何も言わない。


「まず第一に! ツバキちゃんが学校に行ったからこうなったんだ。に努力して、に尽力を尽くして、に頑張ったんだ! でも、結果はこのザマ。お疲れ様でした、ツバキちゃんwww!」

「............」

「次に第二の理由!......ツバキちゃんさぁ、カワイイって言われたら発作が出るぅww? そんなどこぞのラブコメヒロインみたいなキャラ設定、いらねぇんだよ! 自分がカワイイ容姿してるってのは、分かってんだろw? それを君は、ww」

「............ろ」

「まだまだあるよ! 第三に、その喋り方。マジでキャラでやってんじゃないの? ガチなんだったら......相当シケてるぜw? 第四は、社会のモラルが無いとこ! その喋り方同様に上から目線で、マジでムカつく。上下関係ってモンが一切分かってないねww」

「............ヤメ、ろ」

「いやぁ、ツバキちゃんの悪い所やダメな所はいくらでも見つかるなぁww」

「......ヤメろぉ......」

「第五に、容姿が人を羨ましく思わせるとこ。第六に、淫乱であること。第七に、単純でバカなとこ。第八に、社交性がないとこ。第九に、引き篭もりであること!」

「ヤメろって......言ってんだろ!!!」


 俺が口を開けて平戸さんの言葉に耳を傾けてしまっていると、師匠はテーブルに置いてあった灰皿を手に取った。

 そしてそれを大きく振りかぶり、平戸さんの頭に打ち付けた。


「最後のツバキちゃんが悪い理由。......犯罪者であることwww」

「......うっ、うわぁぁぁぁぁぁ!」


 平戸さんなら師匠の攻撃は避けることが出来ただろう。しかし、避けなかった。おそらくわざと。

 殴打された頭から血を大量に流し、片目を流血の影響で瞑りながらニヤリと笑って最後の理由を言い放った。


「我は、我はぁぁぁぁぁ!! あぁ、ぁぁ......ぁっ、! うわぁ、うぅっ、ぁぁぁぁ!!!!! いやだ、イヤだ嫌だ、厭だァァ!!」

「ツバキちゃん! 落ち着いて!!」


 頭を抱えて、発狂する師匠に駆け寄り背中をさする彼杵。その光景を嘲る平戸さんは、致命傷にもなりかねない怪我をしながらも満足そうだ。

 俺はと言えば。


「......師匠」

「だまれぇ!!」

「師匠!」

「うるさぁい! おまえも、......お前も心の中じゃ我のこと、凶壱の言った通りだと思ってるんだろぉ!」

「師匠、俺はそんなことないです!」


 俺も彼杵の横に膝立ちし、師匠の背中に手を置く。


「ヤメろ! 師匠と呼ぶな! 年下に師匠と呼ぶ状況に、不満なんだろ! もういいよ! お前は我の弟子なんかじゃない! この師弟関係もヤメだ、やめ!」

「ツバキちゃん......」


 どうしたら良いか、彼杵にも俺にも分からない。

 師匠には今、余裕がない。平戸さんにあれだけ言われたのだ。普段から接しているだけあって、平戸さんのあの言葉はキツイ。

 なのに、平戸さんを責める気持ちになれないのは何故なんだ......!


「僕を責める気持ちになれないのが何故か。神哉くんも、彼杵ちゃんにも分かんないんだろwww?」

「............」


 俺たちは無言で平戸さんを見つめる。沈黙を肯定と捉えた平戸さんは、止血せず垂れ流しの血をペロリと舐め、言った。


「君たちも僕の考えと同じことを考えていたからさwww。つまり、結局今回の件で悪いのは全部、ツバキちゃんなんだよwwwwww」


 否定の言葉を探すが見つけることが出来ない。決して俺の語彙力がない訳でないのだが。

 悔しい、平戸さんに言い返すことが出来ない。

 ......だから俺は、師匠に言い返す。



「......師匠。じゃなくて、椿つばき!」

「っっ!?」


 初めての名前呼び捨てに、椿は大きく目を見開き上体を起こした。


「弟子はさっき辞めされられたからな。でも、俺は椿のことを助けたい。あのイカれ野郎がなんと言おうと、俺は椿の味方だ」

「あっらぁww。こりゃまたヒドい呼び方だなぁww」


 罵られたというのに、平戸さんは口角を上げる。

 俺の言葉を聞いて、ボーッとこちらを見つめる師匠......じゃなかった椿に、さらに言葉をかける。


「椿は悪くない! だって、この世は自分を中心に回っているんだから!......これ、椿が俺に教えてくれたんだよ?」

「な、何ですか? それ」


 彼杵が小首を傾げて俺を見る。椿もハッとして俺を見る。


「『生きるのに辛くなったら、自分を中心に世界が回っていると考えろ。そうすれば、この辛さも世界を回すのに必要なことだ。ならば乗り越えるのみ!』ってな」


 俺が大学の講義やら何やらかんやら悩んでいる時、椿がかけてくれた言葉。

 それを思い出したのか、椿は顔を上げて昔の一人称をポツリとこぼす。


が、教えた......?」

「ツバキちゃん、今わたしって......!」


 彼杵が椿の一人称が変わったことに、目を丸くする。

 懐かしいな。出会った最初の頃は、『わたし』だったんだよな。


「だったら椿! 今この辛いのも、乗り越えるんだよ!」

「......わたしが、乗り越えられる?」

「へへっ、俺たちは何者なのか、忘れた? さっき平戸さんも言ったじゃないか」


 俺がそこまで言って、平戸さんをチラッと見てみると、一本取られたといった感じで『はぁ......』とため息を吐いた。俺が何を言うつもりなのか予測がついたのだろう。


「俺たちは社会の敵、『犯罪者』なんですよ?」

「っっ!!......わたしは、」


 ゆったりフラフラしながら、椿は立ち上がった。

 そして高らかにこう宣言した。


「わたしは、一犯罪者の身だ! だから、あいつらに仕返しする! どんな悪いことをしても!」


 次は学校で三者面談!?

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