No.29 ホォラ貴方にとって大事な人ほどすぐそばにいるかぁ?
サヤ姉が相談しに来た日から丸四日たった。
四月も中旬になり、ポカポカ陽気から少し蒸し暑さが目立つようになってくる。今日も雲ひとつ無い晴天で実に良いデート日和である!
「ねぇ、この格好変じゃない? 大丈夫?」
「だぁいじょうぶだって。普通に似合ってるよ」
「ホント! イマドキJKって感じです!!」
イマドキJKは言いすぎだろ...。
俺、彼杵、サヤ姉は今駅前に集合している。ここから少し歩けば、例のカジノがあるビルが建っている街や裏通りに行けるし、確かバスで三十分ぐらいの距離に遊園地もあったはずだ。
そんなデートの待ち合わせに乱用されがちな駅前に俺たちも待ち合わせをしていた。
「変じゃないかなぁ? いきなりこんな格好で引かれないかしら」
「変じゃないって! その格好ならカズだって惹かれると思うよ」
「ちょっとうまいこと言えたからってドヤ顔するのはよしなさい」
サヤ姉に額をつつかれてしまった。今の結構自信あったんだけどな~。
ここでサヤ姉がずっと心配している服装について話しておこう!
最初に言った通り最近蒸し暑くなってきている。つまり、春物の長袖か七部丈の服から半袖の薄着にチェンジする時期という訳だ。男心的にはこれはグッと来るはず。中高生で例えるとすれば、学校の制服が長袖のブレザーから半袖の夏服に移行した時だと思って欲しい。
あの時の男子生徒は大抵ムラムラしているはずなのだ。
あれ? 俺だけ?
「サヤ姉は体のラインが出る系の服ばっかりでしたが、今回はゆったりめのワンピースを選びました! 私のチョイスに間違いはありません!」
「初めてよ、こんな服装......」
彼杵の言う通り、サヤ姉は普段からボディラインのくっきり出るタイトスカートとかセクシー系な服を着ていることが多かった。
だが今日は違う。
ノースリーブでマキシ丈のワンピース。青を基調としており胸元は白い水玉が散りばめられ、胸の下からは白い花柄になっている。その上から水色のカーディガンを羽織っているので、全体的に清楚な雰囲気をかもし出している。
正直に言おう。アラサーとは思えない。十歳くらい若返って見える。なんか、深田○子みたい!
あ、でもあの人はもう三十路過ぎてるか。
...話を戻そう。
この服装も俺の考えたカズを堕とすぜ作戦の内なのだ。というのも、いつもセクシーな感じからいきなり清楚な感じになることでいわゆるギャップ萌えを狙おうという魂胆だ。
「おっと、そろそろカズが来る時間だな。行くぞ、彼杵」
「りょーかいです! サヤ姉、ガンバ!!」
「えぇ、なるだけいつも通り頑張るわ」
うん、俺もいつも通りでいいと思うな。変に意識しても怪しまれるだけだから。
俺と彼杵はサヤ姉から距離を取って、遠くから監視する。
時刻は十二時四十五分。
カズと待ち合わせした時間は一時だからそろそろ来てもおかしくない。そう思っていると薄い茶髪の青年がサヤ姉に近づいて行っていた。
間違いなくカズだ。
「あれ? サヤ一人だけか。って、何だその格好! め、珍しいな」
「え、エヘヘ。似合ってる?」
「あぁ、似合ってるよ。ビビった......」
よし、第一印象は最高だ。このままのテンションで行ってくれよー。
「そーいや、神哉と彼杵ちゃんは?」
「あ~、それがね、あの二人は急用が出来たみたいで来れなくなったらしいわ」
「え〜、マジかよ! せっかく久々の四人だと思ったのになー」
「そ、そうね…、今日はどうする? も、もう、帰っちゃう?」
おいおいおい、なんでそんなこと言っちゃうんだよ。それでホントに帰ることになったら俺たちがいなくなった意味ないでしょーが。
が、そんな心配は要らなかった。
「いやいや、何でだよ。サヤ、俺の事待ってたくれたんだろ? どっか行こうぜ」
「う、うん! あ、いや、そうね。行きましょう行きましょう」
完全に嬉しくて平静を保ててなかったな今。
そして、サヤ姉とカズのデートが始まった。
二人が最初に向かったのはステーキレストラン。ちなみに、ここは俺の教えたオススメの店だ。
何気にカズはサヤ姉のことをしっかりエスコートしている。さすが結婚詐欺師。俺と彼杵もコッソリと店内に入り込み覗き見を続ける。
「あ〜、腹減った。俺コレにするけど、サヤは?」
「うーん、ステーキなんて久々だから迷うわね」
そんな他愛のない会話をしてから注文していた。思ったよりも仲が良いな。
「神哉くん! 私コレ食べたい! あ、コレとコレも! ドリンクバーとデザートも良い?」
「……もう、なんでもいいから注文しろよ」
彼杵はこの機会を逃すまいとめちゃめちゃ大量に注文してきた。店員さんも驚いてるじゃねぇか。
ステーキだけに焼く時間もあり、二十分程経って注文の品が届いた。
「おっ、美味いな。初めてここ入ったけどイケるな」
「ホント、美味しいわね」
二人ともステーキの味に満足しているようだ。この街では一番のステーキレストランだと噂だったからデートプランに入れてみたけど、正解だったな。
「神哉くん! やわいやわいよ! ひゃわらかい〜! ゴクッ、ぷはぁー、口に入れた途端溶けるように無くなってしまいました! それなのにこんなに肉厚! まさに肉と味覚が白村江の戦いや〜!」
「......お前、マイペースだな」
もう、彼杵はほっとこう。なんか俺まで食いたくなってきたよ。
結構大食らいな彼杵を見ているとサヤ姉にも動きがあった。
作戦の手筈通りだ。
「ねぇ、カズ? あんたのそのステーキ美味しそうね。た、食べさして、く、くれないかしら」
「は?」
よく言ったぞサヤ姉ーー!
その言葉にズキュンとこない男なんていこの世には存在しない! 見ろ、カズも動揺してナイフとフォークを落としてしまっている!
「お、おう。別にいいけど」
「た、たた、た食べさしてよ......」
「え!?」
イイぞ!
カズが珍しく顔赤くしている! ふっふっふっ、俺の考えつく女の子に言ってほしい言葉は結婚詐欺師にも効く!
「ホラ、は、早く!」
「わ、分かったよ。ハイ、あーん」
「あ、あーん......」
その光景はまさに付き合いたてのラブラブカップル。カズの方もサヤ姉の事をこれで相当意識したはずだ。
次行ってみよう!
続いて、食事を済ませた二人はショッピングモールに向かった。もちろん、これも俺の考えたデートプランの一つだ。
「んで、なんか買うのか?」
「えぇ、その、色々と洋服とかをね」
「なるほどな、数々の女の子の買い物に付き合ってきたこの俺のファッションセンスはそれなりにある方だぞ」
「じゃぁ、カズに選んでもらおうかな」
「おう! 任せとけ」
うむうむ、感度は良好。普通にデートしてるね〜。
だが、ここからはサヤ姉がふっかけるだけじゃなくカズにも何かしら動きがないと困る。
ここから一気に攻める!
まず、入ったのは最初に言った通りの洋服店。洋服にこだわりのない俺にはブランドとかよく分からんが、その辺は彼杵に任せている。
「このお店は最近若い子から大人気なんですよ」
「若い子かー」
若い、若いかー。あの二人は若者の部類に入るのかな。二十四歳とアラサーだぞ?まぁ、いっか。
二人は何着か見て、試着してを繰り返して楽しそうだった。今更だが、サヤ姉は意外に何でも似合うようだ。
ちなみに洋服を買う時にさらっとカズが代金を払っていたのを見て彼杵は『ナルシーが、あの金にうるさいナルシーが、奢った......?』と衝撃を受けていた。
「次はどーする?」
「実は〜、その、あのね?」
洋服店での買い物を済ませ、カズが次の行き先をサヤ姉に訊く。そこでサヤ姉はモジモジしだした。
頑張れサヤ姉! たった十文字だ!
その十文字をカズは忘れない。
決心したサヤ姉はギュっとワンピースのスカート部分を握り、顔を赤くして言った。
「しっ! 下着を買いたいのよ!」
「はぁ!? 下着?」
「そう、下着。結婚詐欺師なんでしょ? あたしに似合いそうなの選んでよ......」
「まぁ、良いけどさ......」
うっしゃぁ! キマったぜサヤ姉!
その言葉はヤバい。もう、ホント俺も言われたい。
女性の皆さんは是非男性と買い物に行ったら言ってあげてくれ。この言葉で俺はこの子に信頼されているんだと確認できるんだ。
実にイイ。
「コレなんてどうだ?」
「えっ! そ、それもうほとんど紐じゃん......」
「えっ! サヤっていつもこんな感じのじゃないの?」
「違うわよ! あんたの中にあるキャバ嬢のイメージ一回捨てなさい!」
下着店にて、お互いにドギマギしながらも下着を選ぶカズとサヤ姉。カズの持ってきたほぼ紐状の過激下着にサヤ姉は試着しようかしまいか迷っているようだ。
女心は俺には一切分からないので好きな男が持ってきた下着を着ようか着まいか、悩んでいるのだろうか。
「うっは、あの下着エッロォ! ナルシーもなかなかなモノ選びますね」
「......」
彼杵に聞いてみようかと思ったが、こいつに聞いても参考にならなさそうだからヤメた。
さて、ここでも俺の考えた作戦が実行されるわけだが、この作戦的には出来れば下着は過激な方がイイんだが......。
さすがにサヤ姉もあのGストを履かないだろうと少し残念に思っていたら、
「よしっ、じゃぁ、コレ試着してみるわ」
「え! マジで!?」
そう言ってそそくさと試着室に入っていった。
サヤ姉......。これまでの経緯的に見たところ、実は超照れ屋なのが分かったけどその大胆さはホントに褒め称えたい!
いや、感動している場合じゃない。作戦はまだ途中なのだ。
「ね、ねぇカズ?」
「お、どした?」
「この下着とっても着にくいのよ。て、手伝って、くれない?」
「おー、いーぞー。...って、手伝う!?」
そう! この作戦は試着してからが勝負!
着にくいから手伝って欲しい。こんなに男心をくすぐる言葉があっただろうか。ここでカズがどう動こうとサヤ姉を意識しないはずがないのだ!
「やっぱ、俺様天才だな......」
俺が自画自賛していると彼杵が言った。
「でも、あの二人一度ヤッてるんですよね。だったら今更下着で照れることありますかね?」
「......」
うっわぁ。完全に忘れてたわー。そういやあの二人初見でヤッてるんだったよ。この作戦は失敗かな?
しかし、試着室からは結構照れ合う二人の言葉が聞こえてきた。
「ちょっ! サヤ、早く着てくれよ!」
「だからそこに手が届かないのよ。付けてってば!」
「ふひょぉ! パイオツがっ!」
「バカッ! そこじゃないってば!」
意外にも好感触みたい?
日も暮れ始め、西日が照ってきた時間帯。最後にバスに乗って遊園地に行った。
「うーん、どこも混んでんなー。サヤ、なんか乗りたいやつある?」
「そうね、じゃぁ観覧車にしましょう」
「おぉ、オッケー。それじゃチケット買ってくるわ」
チケット売り場へと駆けていくカズ。それを見計らって俺と彼杵はサヤ姉の元へ。
「いい感じだな、サヤ姉!」
「後ろから見ててスッゴイ仲良しな夫婦みたいでしたよ!」
「そ、そお? なんかいつも通りやろうと思っても変に意識しちゃうのよね」
首を傾げて不満といった感じのサヤ姉。そうかな。見てる限りじゃ分からないけどな。
「よし、ここが正念場だ。サヤ姉気合い入れていこう!」
「えぇ、あたし頑張る!」
決意を固めサヤ姉は拳を振り上げた。
何だろう。今日のサヤ姉はホントに若くなった。美しい女性って感じからカワイイに女の子になったみたいだ。
その時、カズがチケット売り場からこちらに帰ってきていた。俺と彼杵は即退散。
「はいよ、チケット」
「ありがと。幾らだった?」
「いいって別に。数日前までその、色々と大変だったろ?」
「あ、うんまぁね。じゃ、甘えさしてもらうわ」
「そーしてくれ。それに今日はほとんど俺が出してるし、今更だろ」
「それもそうね」
二人は顔を見合わせて笑った。その後も他愛のない会話をして時折笑顔を見せるサヤ姉はとても幸せそうだった。
カズもサヤ姉と二人きりで気まずいなんて感情は一切なく、むしろ二人だけの会話が出来て楽しそうだ。
「神哉くん、どうします? 私たちもチケット買って乗りますか?」
「うーん、もういいだろ。二人ともスッゲェ楽しそうだし」
「そうですね。じゃ、帰りましょっか」
「あぁ、そだな」
俺と彼杵は二人っきりの場にこれ以上いるのも気が引けた。後はもう大丈夫だろう。サヤ姉もいい感じだし。
アイスでも買って帰ろ。
「うぉー久々に乗ったけどやっぱキレイだな」
「そうね、キレイね」
観覧車で向かい合って座る二人。カズこと佐世保和人とサヤ姉こと諫早沙耶。正体は結婚詐欺師とぼったくりキャバ嬢というイリーガルな組み合わせである。
「俺さ、思ったんだよ」
「何を?」
「今日、こうしてサヤと二人で色々と回ってさ、結構俺、サヤのこと好きなんだなーって」
「えっ!!」
サヤは驚いた。なぜなら自分も言おうとしていたことを先に言われたからだ。
「あっ、あたしも、カズの、ことは結構? す、好きよ?」
「そっか。なんか照れるな」
カズははにかんだ。相手を思っていたのは自分だけじゃなかったんだと分かり、サヤは胸を撫で下ろした。
「初めて会った夜にさ、勢いでヤッちまってホントごめんな」
「いいのよ、あんたが酒に弱いくせに酒大好きなのは知ってるから」
「ヘヘッ、なんかサヤの作ってくれる焼酎の水割りが飲みたくなってきたな」
「何よ、あんなの誰が作っても一緒でしょ?」
突然のカズの発言に首をひねるサヤ。
「一緒じゃないさ。誰がどの割合が好きなのかしっかり考えてくれてるだろ?」
「カズ......」
「分かってんだぞ? 人によって水の量が違うなぁって」
自分のことをそんなに見てくれていたのか。と、サヤは危うく涙がこぼれそうになった。
「あんたも、そんな髪染めてチャランポランしてるようで皆の事しっかり考えてくれてるもんね」
「ハハハッ、お互い様だな」
サヤはぶっと吹き出して笑った。それにつられてカズも大きな声で笑う。
そして言った。
「やっぱり、何でも話せる友達ってイイよな!」
「えぇ、そうね。相談できる友達はイイわね......え?」
サヤはそこで疑問を覚えた。もしやさっきの好きというのは......。
「ね、ねぇ、カズ? あたしのことはあんたにとって友達、なの?」
「へ?......うん、そうだけど? 何で?」
「だ、だってさっき好きって!」
「いやだから友達としてだろ? んにゃ、違うな。俺とサヤはもう大親友だ!」
カズは腕を広げてサヤを抱きしめた。その腕の中でサヤは気づいてしまった。この男は意図して結婚詐欺を行なっているのではない。天然のたらしなのだと。
「えぇい、親友でもそんな熱い抱擁は受け付けなぁい!」
「グハッ!」
サヤはカズの腕の中でジャンプしカズの顎に頭突きを食らわした。ちょうど観覧車も一周したところだった。
「もう、ホントにありえないわ!」
「ちょ、待てって。何でそんなに怒ってんの?」
「うるさい! ついてくるなぁ!」
サヤは一切自分の気持ちを理解してくれないカズに失望してしまった。目から涙がこぼれ知らぬ間に走り出していた。
「ちょい待ちちょい待ち!」
「何よ! もう、あんたなんか知らない!」
「そうツンツンすんなって。ホラ、これ」
手を掴まれて走るのを止められたサヤにカズは何かを渡した。
「コレ、何?」
「ヘヘヘッ、お揃いのキーホルダー!」
そう言ってカズもポケットから青色の恐竜とも似つかないよく分からない生物のキーホルダーを出した。サヤの方はピンク色だ。
「今日の記念にさ! 後、俺とサヤの初デート記念ってことで?」
「カズ......」
たかがキーホルダー、されどキーホルダー。簡単なことにサヤの心はそれだけで満たされてしまった。
そして、一つの闘争心を燃やすことになった。
『絶対にカズを堕としてみせる!』
この目標がサヤの心に刻まれたのだった。
一方、その頃神哉と彼杵は。
「いっやー、今日は大成功だったな彼杵!」
「そうですね! 神哉くんがケチらずにアイス買ってくれたのはホント良かったです!」
そっちかよ!
というツッコミを入れてやろうかとも考えたが、やめておこう。早く帰ってアイス食べたいしー。
「という訳で、私と神哉くんもデートしましょう!」
「どういう訳だよ! 話が繋がってねぇぞ」
「イイじゃないですかー。私も今日のサヤ姉とナルシーみたいに神哉くんといちゃいちゃしたいぃ〜」
ムスっとして駄々をこねる彼杵。別に行ってもいいんだけどさぁ、食事処しか用ねぇだろお前。
それを言ってやろうと思って口を開いたその時だった。
家まで後少しのところで俺たちの真横に一台の黒い大型車が止まった。何事かと足を止めた瞬間、神哉と彼杵の体は宙に浮いてそのまま車内へと押し込まれた。
「ちょ、何なんだよお前!」
「黙れ! 静かにしてれば痛くはしねぇ」
ドスの利いた渋い声で口を塞がれてしまった。
俺と彼杵、誘拐されてしまいました......。
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