第三罪

No.4 ハッカーはハッキングに快楽を覚えてる?

 ハッキングとは、他人のコンピューターに不正に侵入するなどの行為のことであるが、正式にはクラッキングと言う。またハッキングすることに喜びを覚える奴のことをハッカーと言う。




 二月。この月になると世の男子はみんなソワソワしだすんじゃないだろうか。

 なんでってそりゃもう、あの女子が無料でチョコレートをくれる日、バレンタインデーがあるからに決まってる。


「チョコ貰いてぇーーーー!」

「うっわww。君いつもそんな感じでパソコンとおしゃべりしてるの?」


 俺を面白いものを見たと言わんばかりのニヤニヤ顔で見てくるのは、ホームレスにして最高にイカれてるサイコパス、平戸凶壱。

 あの強盗事件以来、なにかと我が家にやってきては飯を食い漁っていくようになっている。

 実を言うと詐欺のこととかぼったくりとか泥棒やってることがバレちゃってその口止め料として食い物をやってる。俺がこの人のこと甘く見すぎていたから、この人のいる前で普通にパソコンで架空請求メール送りまくってたら、余裕でバレた。

 勘のいい平戸さんは俺が犯罪者なら他のみんなも犯罪者だと考えたようで、なんとか誤魔化そうとはしたが言いくるめられてしまって、結局みんな自白した。

 この人マジで口達者なんだもん。そんなこんなで今に至る。


「チョコ貰いたいと思わないんすか? 平戸さんは」

「人との関わりのほっとんどないネット詐欺師が、女の子に貰えるって思えるほうが不思議だなぁ」


 痛いとこ突いてくるな。

 だが俺にだって女の子との付き合いはあるさ。


「でもほら、彼杵とサヤ姉がいますし」

「ポジティブだね~ww君は。あの二人に貰えると既に仮定しているとは。そんなことより二月十四日はもっと大事なことがあるじゃないか」

「もっと大事なこと?」


 なんだ? チョコが貰える以上に大事なこと?

 はっはっは。さっぱり分からない。

 俺はガリレオじゃないからな。


「彼杵ちゃんの誕生日だよ?」

「ぇ?」


 マジかよ。この人知り合って少ししか経ってない女の子の誕生日を聞きだしてる。

 すげぇ。尊敬モンだわこれは。本人には言わないけど。


「え? 知らなかった?」

「知りませんでした」

「おいおい。僕のほうが彼杵ちゃんとの付き合いは短いんだぜ? 好きな子の誕生日ぐらい把握しとけよ」

「なぁ! 何言ってんすか!? 俺は別にあいつのことが好きなわけじゃないっすよ」

「ほぉぉ~。ホントーかい?」

「ホントっすよ!」


 全く意識していないと言えば嘘になるが......。

 この人勘が鋭いからこれ以上話し続けると危険だ。

 話をそらそう。


「そんなことよりも、彼杵の誕生日プレゼントっすよ。平戸さんもう用意しました?」

「おいおい、無職の僕に他人へプレゼントするような金があるわけ無いだろう」


 そーいやこの人ホームレスだったな。


「そーゆう君はもう用意してるのかい? って思ったけど、彼杵ちゃんの誕生日さっき知ったんだったね。用意してるわけないわ」

「何がいいんですかね。プレゼントって。俺、人に物あげたこと一度もないんですよねー」

「彼杵ちゃんって何が好きなのか知らないの」

「彼杵の好きなもの?」


 なんだろう?

 考えたことも無かった。何が好きなんだろう。


「そーだなー。あの子まだ十九歳でしょ? ジャ○ーズとか好きなんじゃないの?」

「彼杵の口からジ○ニーズなんて聞いたことないっすね」

「じゃあ、趣味とかは? 彼杵ちゃんの」

「彼杵の趣味? わかんないっすね」

「だったら好きな食べ物は?」

「うーん、あいつ何でもおいしいって言います」

「なら、今欲しいって言ってた物はないの? まずあの子どこに住んでんの? 家あんの?」

「......知らないです」

「神哉くん、彼杵ちゃんのことなんにも知らないじゃん」


 平戸さんの言うとおりだ。

 俺、彼杵のこと何も知らない。逆に知ってることってなんだ?

 名前、年齢......それぐらいしか知らない。

 なんてことだ。それなりに長い付き合いであいつのことはよく知ってると勝手に思い込んでいた。

 困った。


「聞こうにもなんかいまさら感がすごいですしね。どうしよ」


 そんなことを呟いたとき。平戸さんは意地悪く目を細め、半笑いで言った。


「いまさら感? ww違うね。君は怖いんだよ。地雷を掘り返さないか。誰にでもある秘密にしておきたいこと、自分の心の中に収めておきたいこと、墓場まで持っていこうとおもっていること。彼杵ちゃんの触れて欲しくない部分に自分が干渉して、嫌われたくないから。拒絶されたくないから......。君も嫌な奴だよ。自分を守るためにそんな言葉を無意識で呟いてる」


 確かに自分の心の中じゃそんなこと思ってたかもしれない。しかしここまで終始ニヤニヤしながら言われると少しムッとする。


「無意識で言ったとしても、そんなこと思ってないっすよ」

「無意識ってのが一番いけないんだよ。その人の『素』が出るからね。所詮、君の中で彼杵ちゃんはただの俺のこと大好き美少女泥棒としか考えてないのさ。時々してくるスキンシップも、君は自分の性欲処理マシーンとでも考えてるんじゃないのかいww」


バキッ!!

 口より先に手が出るとはまさにこのことだと言える。

 気づいたときには平戸さんの顔を殴っていた。


「イッテぇなぁ。目上の人に手を出すとは、常識ってモンを知らないのかい?」


平戸さんは殴られたというのにニヤニヤ笑っている。


「あんたに俺たちの何が分かるってんだ!!」

「分かるわけねぇだろ。何言ってんだい。君たちの事に興味ないし」

「............」


 駄目だ。このイカれサイコパスに何言っても通じない。


「きょ、今日はもう帰ってください」


 俺が言うと平戸さんは黙って立ち上がりドアを開けて出て行った。




 翌日。冷静になった俺はドゥーカ・サンフェリーチェなる辛いものに合うという酒を持ってきた結婚詐欺師、カズと話し込んでいた。本日のカズの髪色、真緑。


「このワインはガリオッポてゆー珍しい葡萄使ってんだぜ」

「ふーん。辛いのってワインと合わないって聞いてたんだけどな」

「そこがこいつの凄いとこさ。キムチとか激辛柿ピーもおつまみにできんだからよ」


 さすがに酒好きだけあって詳しいな。

 缶ビールかほろ酔いをひたすら飲んでるだけだと思ってた。


「で? 今日はどうしたんだ。お前から俺を誘うなんて珍しい」

「あーいやそれがさ。カズ、もう彼杵の誕生日プレゼント考えてるか?」

「そのことか。もちろん考えてるぜ」


 やっぱりカズも彼杵の誕生日を知っていた。この感じだと知らなかったのは俺だけみたいだな。きっとサヤ姉も知ってるはずだ。


「ちなみにどんなのか聞いてもいい?」

「どんなのというか、彼杵ちゃん次で二十歳だから旨い酒を飲ませてあげようかなと思ってる」


 あぁ、あいつ二十歳なんだ。もう成人か。

 初めて会ったのが十八のときだからもうすぐ二年は経つことになる。


「神哉は? 何用意してんだ」

「それがまだ悩んでて......」

「それで俺を呼んだのか」


 カズが笑いながら言った。


「俺考えてみたら、彼杵のこと全然知らないって気づいちまってさ。何をあげたら喜ぶのかわかんねぇんだよ。結婚詐欺でたくさんの女と関わってきたカズからアドバイス的なものを聞きたいんだ」

「アドバイスねぇ。俺が思うに、彼杵ちゃんは何でも喜ぶぞ、神哉からのものなら」


 俺からのものなら何でも喜ぶだと?

 人にプレゼントしたことの無い俺としては意味が分からなかった。


「だって、彼杵ちゃん神哉のこと大好きじゃん。好きな人から貰うものは何だって嬉しいさ。お前もそーだろ?」


 あいにく恋愛経験ゼロな俺にはその気持ちはよく分からないが、そうゆうもんなんだろうか。


「ちゃんと彼杵ちゃんのこと考えて決めるのが大切だぞ」

「彼杵のこと考えてか......」


 しばらく天井を見つめ考えてみる。

 数分うなってみるがなかなか思いつかない。

 そんな時、テーブルの上に置いてある今日の新聞が目に入った。

 そして、


「思い出したぞ、カズ。彼杵が言ってた好きなもの。いや、会いたいと思ってる人がいること!」

「聞かせろよ。彼杵ちゃんが会いたいと思ってる人なんて神哉以外聞いたこと無いぞ」

「ふっふっふ。まだお前も彼杵と会ったことのない時。俺も会って数ヶ月のときだ。あいつが言ってたんだよ。テレビ見ながら」


 テレビと聞いて顔をしかめるカズ。


「テレビってことは芸能人か?」

「違う。犯罪者だ......」

「は?」

「こいつだよ!!!!」


 俺はカズの目の前にバンっと今日の新聞の一面を見せる。


「こ、こいつは......」


 新聞に大きな文字で書かれたビッグニュース。彼杵が会いたいと言っていた人物のニュース。内容はこうだ。


『犯罪芸術家の怪盗かいとうH。美術館へ予告状を!?』


「怪盗Hってあの世界中で指名手配されてる泥棒だろ。なんで彼杵ちゃんが」

「彼杵が泥棒だからだろ」


 あいつは確かにこう言ってた。

『神哉くん神哉くん! 見て見てテレビ! 怪盗Hが出てるよ!』

『私の尊敬してる人なんです~。』

『この人の華麗なる泥棒家業はまさに芸術です!』

『一度でいいから会ってみたい......』

 超べた褒めしてた。


「なるほど。怪盗Hって犯罪者なのにファンがいるのか」


 カズが新聞を読みながらスマホで怪盗Hについて調べている。

 俺も実を言うと、たいして怪盗Hに詳しいわけではない。

 四年ほど前から世間に彗星のごとく現れたこの泥棒はよくは知らないが仕事、つまり盗みをする前から最後まで終始美しい芸術だと言われている。

 そのスタンスに惚れた若者たちが今大勢いるらしい。世界各地に現れ、美術館や宝石店などレアな金目のものを盗んでいくそうだ。

 国籍も年齢も何もかも謎に包まれている怪盗H。


「新聞には日本の美術館としか書いてないぞ。なんでだ」

「さっきお前が言ってたとおりそれなりのファンがいるんだ。警察としては人が多いと捜査というか逮捕のときに民間人に見られたくないんじゃないか?」

「それで美術館としか書かれてないのか。しかしそれだとどこに来るかとか分からないぞ。どうすんだ」

「ふっ。俺を甘く見るな。策は考えてある」


 平戸さんに挑発されたこともあってか、俺はとてつもなく燃えていた。




 その後、サヤ姉と彼杵を家に呼んでここまでの経緯を話した。

 すると彼杵は、


「マジですか! ホントですか? 怪盗Hに会えるんですか!?」


 飛び跳ねながら喜んだ。ゆさゆさ揺れる胸につい目がいってしまう。こいつちゃんとブラしてんのかよ。


「でもどこの美術館か分からないんでしょう? 会いようがないじゃない」


 サヤ姉が不思議そうに首をかしげながら俺に聞いてくる。


「任せろ、今からその問題を解決してくれるお方に会いにいく」

「会いにいく、だと!?」

「あの引き篭もりの神哉くんが」

「自ら外に出ようとするなんて」

「おい! お前らの俺へのイメージどんだけ引きニートなんだよ! 外ぐらい買い物とかで出るぞ」


 まぁ、大半はア○ゾンか楽○とかで済ましてるけど。


「で、どこに行くんだ?」

「俺のこのパソコン技術の師匠のところだ」




 それから俺たちはショッピングモールやおしゃれなお店のたくさん集まっている街のほうへと向かった。


「その師匠とやらはこの辺に住んでんのか?」


 カズが寒そうに手を腕組みして言った。


「あぁ。ここだ」


 と俺が指さす方向に驚愕といった感じで三人とも口を開けている。

 それもそのはず。そこはおしゃれな店の立ち並ぶ表の大通りとは真逆の裏の道。のまた奥の奥へと続く道。明らかにいろいろとヤバいオーラが放たれている。


「まぁそんな顔すんなって。ついて来い」


 俺が手招きして三人を招く。右に曲がり左に曲がり、時には階段を下りたり上ったりを繰り返す。


「ここホントに大丈夫よね。帰れるわよね」

「俺も心配になってきたぜ。だいぶ奥のほうまで来てるぞ」


 確かにもう表通りのワイワイする声は聞こえない。

 ここはもう大人のディープな世界。ヤバい職業のやつらが集まる酒屋にそうとうヤバい奴らしか来なさそうな風俗店などが立ち並ぶ、昼だろうと暗い裏通りだ。

 そんな裏通りにあるひとつの店。チョークで書くタイプの黒板型看板に『盗れない情報ひみつありません』と書かれて置いてある。

 木製のドアにはパソコンの絵が彫られている。


「ここだよ。俺の師匠が引き篭もってる場所だ」

「え、お師匠さんも引き篭もりなんですか」

「というか出られないの方が正しいかな。ネット環境がないと発作が出てぶっ倒れるから」

「またキャラの濃い奴が出そうだな」


 カズがこれ以上はキャラ強い奴はいらんとばかりにため息をついた。


「うし、それじゃあ入るか。俺も会うのは二年ぶりくらいだ」


 俺は勢い良くドアを開けた。そこはまさに電脳世界とでも言ったところだろうか。いくつものパソコン画面やディスプレイが壁に掛けられ、それぞれ画面の下にキーボードが置いてある。床はタコ足配線どころじゃないぐらいにこんがらがったコードで埋め尽くされている。

 そんな部屋に一人ポツンとキーボードを叩く人がいる。


「あの人が神哉くんのお師匠さん?」

「あぁ、そうだ。俺のパソコン師匠、五島ごとう椿つばき様だ!」


 俺が高らかに紹介するとゆっくりと椅子を回転させ、こちらを見てきた。


「全く。警察かと思ったではないか。驚かすんじゃない」

「お久しぶりです! 椿師匠!!」

「久しいな神哉。お前と会っていないこの二年間で我は初潮を迎えたぞ」

「マジっすか! 俺これから帰ってお赤飯炊いてきます!」

「え? チョイ待ち。女!?」


 カズが今日一の大声で叫んだ。


「ああ、そうだとも。見ての通り我は女である」

「子供じゃないですか......」

「な、何を言うか馬鹿者! 我は十四歳だぞ。十分大人である」

「中学生なの!? あんたもしかしてロリコン!?」


 師弟合わせてヒドイ言われようだ。


 五島椿ごとうつばき。十四歳。

 重度のネット依存症で十分間でもネットを止めたら死ぬ。と、自分で言ってた。

 小学校の頃からパソコンに触れてきた結果、こうなってしまったらしい。

 生まれたときから少しアルビノ症があるらしく日光に弱い。というか当たりすぎたらヤバイ。容姿もその症状が出ていて目の色は真っ青で髪色も真っ白だ。

 正直言って可愛い。決して俺がロリコンであるとかそういうのじゃなくて。髪と目から妖精みたいな雰囲気をかもし出してる。

 そんなネット依存症の妖精師匠は、


 職業、ハッカーである。

 聞いたことあるだろ? ハッカー。

 俺もどんなことしてるかはよく分からんが依頼主に情報を渡したら金が入るっぽい。情報の重要さとか大きさで報酬は変わるようだ。

 しかも椿師匠は業界じゃめっちゃ有名で天才ハッカー、『tubaki( •ॢ◡-ॢ)-♡』と称されてる。


 俺とこの天才ハッカーとの出会いは俺が高校を卒業してすぐだった。

 俺が母校の小学校にいる恩師に挨拶へ向かったときだった。その先生はクラスの生徒が一人不登校で困ってると言い、俺にその子を学校に来るよう説得してくれと頼まれた。

 そうとう優等生だと思われてたようだ。

 だって普通元教え子に不登校の子連れて来いとか言わねぇだろ。

 渋々ながらも行くことになって住所を教えてもらい、着いたのが現在俺たちのいる師匠の部屋だった。

 当時師匠は小学生だったがもうハッキングで稼いでいた。初めて師匠のタイピングを見たとき俺は惚れ惚れしてしまった。

 大学には合格していたから入学前にこんな怪しい裏通りはさっさと抜け出したいと思っていたのに、俺はその場で師匠にこう言った。


『君のタイピングに惚れた! 俺にも教えてください!』


 八歳差もあるロリっ娘に土下座して頼んだ。

 もう一度言う、俺はロリコンではない。

 無理かな? と思って顔を上げると無表情で、


『いいよ』


 って言ってくれた。そこから大学が終わればすぐにこの店にやってきて、パソコンのことをいろいろ教わったんだ。


「それで? 今日はどうしてここに来たんだ。何か理由があるんだろう」

「うす。師匠のハッキング能力で調べて欲しいことがあるんすよ」

「調べて欲しいことか。報酬は?」

「三万」

「神哉よ、我を甘く見すぎだ。丸が一つ足りん」

「デスヨネー。師匠ならそういうと思ってましたよ」

「どういうことだ。一番弟子のお前なら我がそんなはした金で動くと思ってたわけじゃなかろう」

「えぇ、ですから師匠でも難しいかもしれない骨のある仕事なんです」

「ほぉ。面白いか?」

「面白いです」


 師匠がニヤリと笑った。


「よし、いいだろう。その仕事、面白さに免じて三万で引き受けよう。さぞかし骨のある仕事なんだろうな神哉よ」

「ちょ、勝手に話し進んでますけどどうなったんですか?」


 彼杵が心配してきた。


「安心しろ。師匠がハッキングして調べてくれる」

「で、何をなんだ?」

「警察の情報。そっから怪盗Hの狙っている美術館を見つける」

「ほっほぉ~。警察のデータベースに潜り込むか。それは確かに面白そうだ」


 ニヒヒと師匠が笑う。

 が、サヤ姉は首をかしげ、


「ちょっと待ってよ神哉。あたしまだ信じきれないんだけど。ホントにこの子がハッキングできるの?」


 師匠を指さして言った。


「信用ならんという顔だな。よし一度見してやろう」


 そう言うとパソコン画面に向き直りカタカタしだした。


「うわっ。何じゃこりゃ。はやっ!」


 カズが師匠のタイピングを見て言った。

 師匠の指先は美しくキーボード上を舞い、見るものを魅了する。タイピングの音が心地いい音楽のように聴こえる。

 が、この人の残念なところが出てきた。


「ハアッ、ハアッ、ハアッ。キタ来たきったー! 興奮してきたぁぁん」

「ちょ、なんなんですかこの子。何言ってんですか?」


 彼杵が突如として淫語を発しだした師匠から距離をとりつつ、俺に質問する。


「いいか皆。師匠はハッキングすることにとてつもない快楽を覚えている......」


 全員が呆れたように俺を見る。

 いや、俺がそうなるように調教したとかじゃないから!

 俺も初めてハッキングを見してもらったときちょっと引いた。


「アアアぁぁン♡もッもう、らめ~。乳首立ってきたン⤴」

「見苦しすぎる......」


 カズが頭を抱えて呟いた。俺もそう思うよ。でも腕は確かだから。あんなこといってるけど手めっちゃ動いてるから。


「ぁああン! もうダメッ!! イクッ♡イクイクッ♡イッちゃうぅぅ!!!!!」


 そう叫んだ十四歳は、ぐったりとキーボードに倒れこんだ。

 ときおり『アァ……』とか聞こえるけどムシムシ。


「え、ちょっと待ってください。これホントにイッてるんですか!?」

「うん。多分」


 聞いたことないから知らんけど。

 さすがのサヤ姉も言葉を失っている。声になってないけど口が『うわぁ』って感じで動いてるよ。なんか弟子のこっちまで恥ずかしくなってきた。


「いろいろ分かったぞ」

「うおッ、ビックリした」


 いきなり顔を上げて喋りだした師匠にカズがめっちゃ驚いた。


「諫早沙耶。キャバ嬢。ぼったくり専門。実は超絶マゾヒストでこの女のネット履歴からはM女専用エロ動画サイトの閲覧が一番多い。スリーサイズは上から八十六、六十五、九十五。ふむ、お尻が大きいことに悩んでいるな。小尻こじり効果のあるまとめサイトの閲覧も多いな。しかし一方でその大きい尻を自慢に出会い系アプリの自己紹介文にも書いているな。なになに? 『あたしの大きいお尻であれこれして欲しい人はこの指止ーまれ! ってアプリだから指つかめないね(*´・ω・)(・ω・`*)ネー 気軽に連絡してね!』。そんなに男に飢えているのか。ちなみに今いくつだ? えーと、二十......」

「わぁーーーー!! やめてやめて! 分かったから! あなたがハッカーなのは分かったから! 凄腕なのは分かったからぁぁぁ......」


 ありゃー。姉御泣いてますわ。顔真っ赤だよ。


「はっはっはっ。我の凄さ思い知ったか!」


 師匠は胸張って超ドヤ顔してるし。カズが膝を抱えて泣きじゃくってるアラサーの肩に優しく手を置き、


「サヤ、お前。攻めより受けの方だったんだな......」

「優しい言葉の一つでもかけたらどうなのよ!?」


 カズの腹を殴って余計ひどく泣くサヤ姉。

 サヤ姉に殴られて腹を抑え転げまわるカズ。

 高笑いで自分のハッキング力に自画自賛する椿師匠。

 光景が悲惨すぎる......。


「神哉くん。これホントに大丈夫かな?」

「うーん。まあ何とかなるだろ。多分、絶対とは言い切れないが」


 次は犯罪者たちが謎に包まれた怪盗Hの正体を突き止める?かもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る