526神猫 ミーちゃん、舌先三寸魔王~。

「で、この冬眠した蛇はなんだ? 食えるのか?」



 蛇は鶏肉に似ているというけど、この黒大蛇が美味しいかはわかりかねる。でかいから食べ応えはありそう。



「東の魔王の幹部みたいで、人族に化けて暗躍してたので尋問しようかと」


「み~」


「拷問だな。尻尾から焼いて食っていけば、半分くらい食えば吐くんじゃねぇ?」



 そこまで生きているだろうか? 横たわる氷漬けの黒大蛇がガタガタと震えている。目が覚め、今の話を聞いていたようだ。グラムさんが乱暴に扱ったので、薬が切れたか?



「な、なぜ我はこんな所にいるのだ……」


「黙れ、ごみ。誰がしゃべっていいといった。消し炭にするぞ」


「まだ情報を聞いていないのですから、勝手に消し炭にしないでください!」


「み~!」


「あっ、悪りぃ。ついな」



 烈王さんにエールを差し出す。



「おっ、待ってました!」



 近くに火をおこし、高級肉オーク肉を焼く。



「この蛇、少し食べてみます?」


「た、頼む! なんでも言うことを聞く! だから、命だけは助けてくれ!」


「あなた東の魔王の幹部なんでしょう? 裏切っていいわけ?」


「み~?」


「強き者に従うのがモンスターの定め。ドラゴン様に比べれば魔王など塵芥も同じ。ドラゴン様に従います」



 開き直ったなこの蛇。相手がドラゴンだと気づいたのも抜け目ない。



「それで、東の魔王からお前を守れと?」


「イスカリテオ。イスカとでもお呼びください」



 この蛇、氷漬けだけど烈王さんの前に平伏した。生きるためにプライドを捨てる。潔いといえば潔い。



「いいだろう。面白い奴は嫌いじゃない。ネロに預ける好きなように使っていいぞ」


「おれに丸投げですか?」



 蛇は不思議そうに俺を見ている。そりゃそうだ。俺はドラゴンでもなければ一般ぴ~ぽ~だからな。



「このネロは人族だがドラゴンの長である俺の友だ。俺と同じように扱え。それとだ、こちらに御座すは神の眷属様であらせられる。この方を怒らせれば、魂ごと消滅させられるから気をつけろ」


「ひっ!? は、ははぁ~。なんなりとごお申し付けください」


「み~」



 ミーちゃん、そんなことできないでしょう! なにが大儀である~ですか! そういえば、ミーちゃん時代劇スキーだったっけ……。


 まっいい、使い道はある。あるというより今思いついた。


 まずは話を聞こう。氷漬けを解いてやる。



「ここ一、二年のことで、知っていることを全部話せ」



 魔王の戦略が変わったのはやはりここ数年のこと。力がすべてだったのが、策略が急に増えた。魔王領近隣の国々に人化できる配下を潜入させている。


 ヒルデンブルグ大公国には、飛竜にバレるおそれがあるので潜入している者はいない。代わりに南の準魔王を焚き付け、ヒルデンブルグとブロッケン山を攻めるように煽っている。


 イスカがルミエール王国の本部に潜入したは一年前で、たまたまハンターギルド本部の十二使の一人ユダという男に会い、不意を突いてパクリとして入れ替わった。


 イスカの能力は食べた相手に自分の能力が使えなくなる代わりに、一度だけ寸分の違いなく変身でき、ある程度の能力と記憶も共有できる。なので、神人の能力を持ちユダに入れ替わったことにバレず、魔王に都合がよくなるように暗躍していた。



「じゃあ、今回のブロッケン山のことはイスカが考えたこと?」


「はい。デルアジーゴ様……デルアジーゴはロタリンギア王国を利用し版図を広げる考え。ブロッケン山には以前まではデルアジーゴに従う勢力がおりましたが、牙王によって滅ぼされました」


「み~」



 それ、俺とミーちゃんがやりました。


 そのあと何度かデルアジーゴの配下になれと使者を送ったが、けんもほろろに叩き出されたそうだ。懐柔できないのなら、人族諸共消えてしまえと今回の件を利用した。


 こいつ、意外と頭がいいかも。



「それではイスカに命令する。この近くの東の準魔王の所に行って内密にイスカの派閥を作れ」


「派閥でございますか?」


「来年、と言ってももうすぐだが、ロタリンギアがヒルデンブルグに攻め込む。その時に東西の準魔王たちも動く」



 これはまず間違いがない。そこでこの一手を考えついた。



「そこで、内部分裂を起こし反乱しろと?」


「準魔王は俺たちが倒す。その後を掌握しろ。上手くやればそこをお前にやる。西の準魔王領も欲しければ更に成果を出せ」


「み~」


「わ、私の領地としてもらえるので?」


「もちろん制約は付く。だが、一国一城の主になれるぞ? 使われる側より使う側になりたくないか?」


「このイスカ、全力を持ちましてこの任を全うする所存であります!」


「み~!」


「ははぁ~」



 いや、だから、ミーちゃん、よきにはからえぇ~! って俺の言葉取らないでよね!



「まさに、舌先三寸魔王ネロだな」



 舌先三寸魔王、ちゃうわ~!



「み~」



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