503神猫 ミーちゃん、突っ込み不在です。

 甘いに過剰に反応するミーちゃんは置いといて、



「食べるならエタノールでも構わないが、言ったはずだ兵器だと! アセトンを使うのだよ! アセトンを!」


「「そんなの知りませ~ん」」



 君たちは俺を誰だと思っているのだ。理系で薬学部志望の浪人生だぞ! アセトンでカプサイシンを抽出すると凄いんだぞ! それから、アセトンの作り方くらい知っているさ!


 アセトンと聞くから難しく感じる。誰でも知っているし、使ったことだってあるはずだ。基本は有機溶剤として使われる。除光液だったり、染み抜き材、スプレー塗料などに使われているのだ。


 作り方は簡単。タールを蒸留すればいい。石炭から取れるコールタールでも木から取れる木タールでも構わない。炭を作っているのだからいくらでもあるはず。



「タール? あるぜ」



 さすが、ゼルガドさん物知りだ。聞けば普通に建築材料として売られているそうだ。隙間を埋めたり、屋根の防水。船でも船体の防水にマストの防水にと多岐にわたって使われているとのこと。



「それでカプサイシンを抽出してどうするんですか?」


「激辛料理選手権?」


「みっ!? みぃ……」



 食わねぇから! アセトン体に入れたら駄目ですから!



「防犯スプレーって知ってるよな?」


「熊撃退スプレーですね」


「痴漢撃退スプレーだよ~!」


「どっちも合ってるから……。向こうの世界で最凶生物の一角にいる熊を撃退するんだ。モンスターにも効くに違いない」


「「どうやって~?」」


「み~?」


「忘れてもらっては困るな。俺は大気の申し子!」



 ……冗談です。だから、そんな可哀そうな子を見る目で見るなぁ!


 まあ、冗談はさておき、抽出した濃縮液を噴霧器に入れて大気スキルで流してやればいい。あるいは、それこそグレネードランチャーで飛ばしてやってもいいな。火薬の爆発で気化するように工夫すれば、効果は絶大だろう。



「ネロさんは間違っても正義のヒーローや勇者じゃないですね」


「間違いなく。悪の総統……いや、魔王が似合う!」


「み~!」



 ミーちゃん、俺は突っ込まないからね? もう、突っ込みませんからね!


 ゼルガドさんと宗方姉弟に課題を出したので、軽くお昼を食べてから王宮に向かう。護衛はレティさんで、ルーくん、ラルくん、クオン。セイラン、ムニュムニュ姉妹を連れて行く。レーネ様のお誕生会には連れていけなかたからね。



「いらっしゃい。ネロくん」


「辺境伯就任、おめでとう」



 珍しくエレナさんもいた。



「ネロくんが辺境伯ねぇ……辺境伯夫人。悪くないかも」



 言ってなさい。俺はルカ、レア、ノア、カイを抱っこしてご挨拶。ルカは大きくなったねぇ。


「にゃ~」


「「「みゅ~」」」


「それより見て! エレナ。この子たちよ! お父様にこの子たちは犯罪だと思わない!」


「「みゅ~」」


「か、可愛ゅぃ……」


「み~」



 俺は用事があるからみなさんはモフモフを楽しんでいてください。


 それから、ニーアさんセイランを離して案内をお願いします……。



「はぁ……承知しました。ネロ様」



 今、ため息を吐きましたよね!? そこまでなんですか! そこまで案内したくないんですね!



「拗ねられてもセイランちゃんのように可愛くありません。ご案内します。ネ・ロ・様」



 ぐっ、そんなこと言われなくたってわかっているさ!



 ちょっと不貞腐れて薬学機関に来た。



「辺境伯になったそうだな。闇商人になったほうが儲かるんじゃないか。それで何の用だ」



 痛烈な皮肉。まあ、元々こういう人だからね。



 樽二つにガラス製の容器に入ったエタノールを渡す。



「水? いや、酒か?」



 ヒルデさんにも渡し確認させている。



「お酒の中のエタノールという主成分を抽出したものです。強い殺菌作用があります。傷口をこれで消毒すれば化膿し難くなります。手当の前に手をこれで洗うのも有効です」


「ふむ。ドワーフの御神酒を傷口に掛けると化膿し難いというのと同じか?」


 どうなんだろう?アルコール度数七十パーセントはないと効き目は少ないと言われていたけど。まあ、多少は効果があるのかも。



「その御神酒の製造法を応用して作ったものです」


「その製法はドワーフでもごく一部の者にしか継承されぬ秘技だぞ! なぜ、ドワーフでもないネロがそれを知っている!」


「フォルテにも同じようなお酒があります。試行錯誤して研究したんですよ。どんなに秘匿したところで物がある以上、隠しきれませんよ。新しい武器と同じです」


「……」



 言ってやったぜ! さすがに何も言えないだろうな。まあ、俺の場合は最初から知っていたのだけど。



「それから、お酒の主成分なので引火しやすく、気化もしやすいです。吸引すれば酔っ払いますので注意が必要です」


「大量に手に入るのか?」


「今は無理です。大量生産できるように進めている最中です」


「これがお前の取る責任の一端か?」


「そう思ってもらって構いません。このエタノールを作れるのは今のところ神猫商会だけなので。多くはないですが、定期的に届けさせます。効果的に使う方法は薬学機関で研究してください」


「感謝はせんぞ。ネロ」


「結構ですよ。逆にお手並み拝見です。パトリック所長」


「ふん。誰に言っている」



 そう言って、エタノールの入ったガラス容器を持っていなくなる。


 ヒルデさんの話だとパトリック所長は民間療法のデータを集めさせ、その検証も行なわせているそうだ。


 なんだ、やることはやってるんだね。


 さすが、言うだけのことはある。



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