490神猫 ミーちゃん、ノーブレスオブリージュ知ってます。

 俺が食事の載った皿を持ったままフリーズしているのを見て、相手があっ!? という顔をして挨拶してきた。



「し、失礼いたしました。お初にお目にかかります。フォートカンプ男爵家が三女ハイデマリーと申します」


「アルディオン男爵家、ヴォルターだ」


「だから、君はなんでそんなに尊大なんだよ! ディオレーベン男爵家三男のアルフレートです」


「なんでって、確かに彼は男爵だろうが歳下だろう。生きてきた時間が長い俺が先輩だ」



 と自己紹介されたが俺が歳下か? 同じか向こうが歳下に見えるんだけど?


 ヴォルターと名乗った若者は、赤髪で仏頂面の偉丈夫。見るからに鍛えられた体っぽい武官タイプ。


 逆にアルフレートは茶髪の優しい顔。ちょっとおちゃめな貴族のボンボンって感じかな。


 ハイデマリーはドレス姿ではなく男装の麗人だ。金髪のイケメンに見えなくもない。宝塚歌劇団か!?



「フロイラインハイデマリー。ちなみに、みなさんはおいくつですか?」


「マリーとお呼びください。私は十六歳、ウェルとアルは十七歳です」


「それでは、私が年長ですね。十八ですから」


「嘘だろう!」


「「……」」



 ウェルが大きな声を出したせいで、周りから注目されてしまう。


 マリーとアルは固まったまま動かない。そこまでなのか!? そこまで驚くことか! 俺はいったい、いくつに見えるのだろうか……。



「お、おっほん。そ、それは失礼した。謝罪します。ブロッケン卿」


「お気になさらずに。それよりみなさんとはあまり歳が変わらないのですから、ネロと呼んでください」


「よろしいのですか?」


「構いませんよ。貴族とはいえ、ぽっと出の新興貴族。なぜ、自分が貴族なのか疑問なくらいですから」


「「「……」」」



 あれ? 軽いジョークのつもりだったのだけど、三人とも、目が泳いでいる。それに周りからは殺気を含んだ視線が飛んでくる。なぜ?



「ははは……ブロッケン卿はキツイ冗談ジョークがお好きのようだ」


「そ、そうだね。ブロッケン卿の勲功は右に出る者なしと言われているからね」


「噂話程度のことしか知りませんが、レーネ王女様へプレゼントだけを見ても、ただの噂とは思えませんわ」


「妬ましく思っている者も多いだろう」



 そう言って、ウェルが周りに目線を投げると、目を逸らす者がいる。


「妬まれるねぇ。貴族になりたくてなったわけじゃないですが。相当な労力を費やし、更には命を懸けて成してきたこともあるのですけどねぇ。それを理解していただけないとは悲しいですね」


 更に目を逸らす者が大勢出た。



「魔王領の中枢まで偵察に行ったことらしいな」


「王都の反乱で先陣を切ったことかな?」


「東辺境伯の反乱でも重要な役目をおっていた聞いておりますわ」



 なんか真実と虚偽が入り混じっている感じだ……。



「そうですね。本来であれば貴族が果たさねばならぬ社会的責任と義務なのでしょう。ですが、それを果たそうとする義侠心のある者がいなかったので、自分にその役目が回ってきたしまったわけです。貴族になりたいなんて、思ってもいなかったのですけどね」


 わざと聞こえるように皮肉を込めて言う。全員がこちらから背を向けたね。


 この世界にはノーブレスオブリージュという言葉はないようだ。社会的責任を果たすどころか、特権階級を利用する腐敗した貴族のほうが多い。王様が貴族を減らそうとする気持ちがよくわかる。



「なかなか、辛辣だな……」


「ですが、耳が痛いですね」


「確かに、貴族が果たさねばならない社会的責任ですわね」


「すぐにまたその機会がやって来ますよ。年明けにね」


 同盟国の危機に見て見ぬふりをすればだれも信用しなくなる。それを貴族の選別に利用しようとする王様も王様だと思うけど。



「ヒルデンブルグ大公国へのロタリンギア王国の侵攻の件か?」


「ネロ卿はどこまでご存じなのですか?」


「我が国からも援軍を出すとは聞いていますが、まだ正式な話はないようですわ」



 おそらく、このレーネ様のお誕生会の後に話があると思う。護国の剣の献上もこの後の式典になる。



「間違いなく起きるでしょう。ヒルデンブルグ大公国は既に準備を終え、我が国も援軍を送る準備をしていますから」


「なぜそう言える?」


「ハンターギルドの密偵が命がけで情報を持ち帰ってくれたと聞いています。我が国の密偵並びにヒルデンブルグ大公国の密偵も同じ情報を得ています」


「どうしてネロ卿はそれをご存じなのですか?」



 なぜって? 言われて聞いているから?



「私の領地は元はヒルデンブルグ大公国の一部も含みますし、特使としてヒルデンブルグ大公国に何度も行っていますからね。それと、王都のゼストギルド長とは懇意の間柄ですから」


「特使ですか……陛下から信頼されているのですね」


「だが、ネロ卿とハンターギルドとは不倶戴天とまではいかなくとも、相容れないのではないか? 反乱まで起こしたと聞いているぞ」



 だ・か・ら、反乱じゃないって! 



「少しばかり悲しい出来事はありましたが、ゼストギルド長との仲は良好ですよ」



 ハンター証明書を見せてあげる。ゼストギルド長の直筆サイン入りだ。



「ネロ卿はハンターなのですか?」


「商人と聞いておりましたが?」


「ハンターであり、商人でもあり、最近貴族にもなりましたね」


「多才だな。では、レーネ様へのプレゼントはハンターとして見つけたお宝か?」


「まあ、そういうことです」



 ハンターってわけでもないんだけど、それで納得してくれるならそれでいいや。

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