463神猫 ミーちゃん、喜んで飛竜にのるよ~。

 ゲオルグさんと挨拶を交わす。なんと、飛竜隊の隊長さんだった。



「その子が飛竜に乗るという子猫だな。噂は聞いている」


「み~」



 ミーちゃん、お友達なの~とドヤ顔。



「マーティンが言うのだから本当のことなのだろうが、よければ今度見せていただけないだろうか? 危険な目には合わせんと約束する」


「み~!」



 ミーちゃん、いつもの安請け合い。間違っても飛竜がミーちゃんに怪我を負わせるとは思わないけど、まあミーちゃん不老不死だからなにかあっても問題ない。ちょっと痛い思いをするくらいだ。



「面白い。儂も見てみたい」


「私もです。私など近寄るだけで牙を向けられますから」



 エドガーさん、竜の同盟者がそれでいいのか?


 そんなやり取りをしていると、実験の準備が全て整ったようだ。


 まずは、ヒルデンブルグの成果を見ることになった。


 火縄銃だね。まんま火縄銃だ。設計図どおりの火縄銃が出てきた。完成形の火縄銃だ。バネも独自に作ったのか……凄い技術力だ。


 フェイスマスクした兵士さんが銃に筒を差し込み火薬を入れ弾も詰める。一回分を小分けにした早合というやつだな。丸い弾だからこそできる用法だ。


 火皿に火薬を載せ、火縄を装着する。ここまで掛かった時間は五分くらいかな。


 百メル先の的を狙い撃つ。ドパーンという轟音と共に上がる煙。おそらく撃った人は目の前が煙で見えにくい状況だろう。火縄銃の一番の欠点って、雨の時に使えないのとこの煙で前が見えなくなることだろう。


 まだ、一丁だからさほどではないけど、これが何十、何百の銃が同時に発砲したら、風でも吹かない限り何も見えなくなると思う。


 それにしても、完成度が高いな。さっきまで空気と化していたゼルガドさんの目に光が戻る。ゼルガドさんもまだ完成形は造っていないからね。


 今度は俺たちの番。同じ黒色火薬の火縄銃の実験はしない。さほど変わりはないだろうから。


 俺たちは褐色火薬のフリントロック式の銃とコーニングした火薬にどんぐり型の弾での実験を見せる。


 実験を行う前に今回使う道具の説明を行う。ヒルデンブルグの研究者や職人は自分たちの造ったものとどう違うか興味津々。しかし、正直それほど違いはないだろうという表情をしている。


 さあ、見せてやるがいい。ゼルガドさん! 我々の新型の実力を!



「み~!」



 的を金属鎧に変え、位置も百五十メルに変えるとどよめきがはしる。丸弾の黒色火薬では百五十メルになると的に当てることさえ難しいからね。だが、我々の新型銃は問題ない。余裕で二百メルだっていけるポテンシャルを持っている。


 ドパーンという轟音と共に立ち上がる煙は同じ。銃が放たれた瞬間、金属鎧がグラリと後ろに倒れ込み、弾が当たったことが理解できる。


 兵士さん、的の金属鎧をみなさんの前のに持ってくると、さっきより大きなどよめきが上がる。



「金属鎧が貫通か……」


「明らかに我々の銃より威力、命中精度、使い勝手が上ですね……」



 火薬をコーニングすれば早合より更に早く弾を装填できるようになる。褐色火薬は黒色火薬より燃焼時間が長い分、弾を押し出す力が強くなる。火打ち式は火縄より使いやすい反面、何度も使っていると不発することが増えるので整備が重要になるなど説明していく。



「ロタリンギアはこれを造るか……」


「現状では難しいですがいずれは……。我々が使えば研究もしますし、戦場で鹵獲されることもあるでしょう。だからといて使わないわけにはいかない。もはや止めることのできない技術競争が始まったのです」


「行き着く先は人族の破滅か、愚かさに気づき和平の道か……」


「星を落とす凶悪なAFがあるそうです。AFを使わずとも武器の開発を進めればそんな兵器が出来るかもしれません。敵対するモンスター、対魔王戦になら心強いものになるでしょうが、同じ人族同士がそれを使うことを考えると気が重いですね」



 元の世界の行き着く先は核だった。こちらの世界の最終兵器はどんなものだろう? 人を殺すための道具、どう考えてもろくなもんじゃないだろうな。



「みぃ……」



 今回使った道具は全てヒルデンブルグに置いていく。ルミエールで実験したデータと褐色火薬の作り方、コーニングの仕方、銃作成の分業制による機密保持の知識などもだ。



「一気に技術が進んだな。勇者の知識は恐ろしいものだ……」



 ルミエールやヒルデンブルグのご先祖様はおそらく日本人だ。いつの時代の人か知らないけど、そういう知識は持っていなかったのだろうか? 神の加護がそういうことをさせなかったと考えるべきか?


 でも、偽勇者もそれなりにこの世界にやってきている。生活様式などには多くの異世界の痕跡が残っている。でも武器に関してはその痕跡がない。なぜだろう? 


 一つの仮説としては、この世界に来た人の時代が俺たちよりずっと過去だということ。


 それがなんだと思うかもしれないけど、インターネットが普及したのは昭和の末だ。それまでは欲しい知識は図書館などで調べるしかなかったのに、今はインターネットで簡単に知識が手に入る。


 時代背景もあるだろう。小中高年の間でラノベなどがはやり、異世界転生ものが一世を風靡した。そのせいで、異世界に行った時に役立つ知識などが氾濫したことだ。俺の黒歴史もその一端を含んでいる。


 そんなところではないだろうか? まあ、考えたところでわかるわけがないけどね。


 ミーちゃん、どう思う?



「み~?」




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