375神猫 ミーちゃん、寒さに体を震わす。

 冷めたスポンジケーキを真ん中から二つに切る。中もちゃんと冷めていて、ちょっとだけしっとりとしている。バターを入れたからだろう。


 ボールに生クリームをと黒砂糖入れ、ゼルガド製泡だて器で角が立つくらいまで泡立てる。超簡単! さすが文明の利器は違うね。宮廷料理長は良い顔をしてないけど。


 それをスポンジケーキに満遍なく塗っていき、俺が泡立てている間にいくつかの果物のの皮をむいてもらい薄めにカットしてもらったものを隙間なく下段のスポンジケーキに並べていき、更に生クリームを塗る。



「見事なものだな。果物の食感に味わいを加えて楽しませる。これは儂の祖料理人としての想像力を掻き立てさせるな」


「果物のを使うので砂糖の量を控えめにして、甘さを抑えるほうが良いでしょう」



 周りに集まっている料理人さんたちが熱心にメモを取っている。王宮に勤めるエリートたちだけど、貪欲に知識を得ようとする姿勢は見習うものがあるね。


 上段も重ねて上部の飾りつけも彩りよく行う。しかし、いかせん使っているのが黒砂糖なので、泡立てた生クリームが茶色っぽい。それはそれで、良い感じなのだけど、誕生日ケーキとしてはどーなんだろう? やっぱり真っ白な、純白のケーキが良いよね。


 でも、現状では無理だね。正直、ここまで色が着くとは思わなかったよ。


 取り敢えず、残りのスポンジケーキは宮廷料理長以下、料理人さんたてちでデコレートされていく。


 見た目的にはやっぱり経験者である俺のが一番。宮廷料理長の悔しそうな表情が見られて、ちょっとニンマリ。まあ、すぐに追い抜かれると思うけど……。


 宮廷料理長たちが作ったケーキを切り分けみなさんと試食。旨い。



「儂は甘いものが得意ではないが、素晴らしい出来だ」


「ケーキや菓子類は多種多様。お菓子専門の料理人が居るくらいですからね。奥が深いですよ」


「うむ。菓子と馬鹿にできないことはわかった。ここでも菓子専門の料理人を育成するべきだろうな」


「王妃様たちが喜ぶと思いますよ」



 その王妃様たちに運ばれるケーキは、もちろん一番見た目が良いということで俺が作ったケーキ。宮廷料理長自ら出向いて切り分けるようだ。


 純白のケーキが作れない以上、他のケーキも視野に入れないと駄目だね。もう少し考える時間が欲しいところだ。なので、今日のところはこれで解散。宮廷料理長たちも思案すると言っている。


 また今度集まっていろいろ試作することで話が決まった。



「綺麗ねぇ」


「綺麗でしゅ~」


「み~」



 切り分ける前のケーキを見せてから宮廷料理長が切り分け、皿に載せていく。



「食べられる宝石箱みたいね」


「ねぇ~」


「み~」



 王妃様もレーネ様も切り分けられたケーキを前にわくわくのようだ。作ったかいがあったってもんよ。ミーちゃんも綺麗だね~って見てるけど、味には興味なさげ。


 そして、そのおこぼれを狙うレティさん。目をキラキラさせてケーキをガン見。ニーアさんもちょっと顔を引きつらせつつ、レティさんの前にケーキの載った皿を置いている。


 俺はニーアさんに目配せをしていらないと合図。代わりにほんの少しづつルーくんとラルくんに配ってもらう。可哀そうだけどルカたちにはあげられない。代わりにミーちゃんクッキーを皿に載せてルカたちの前に置いてあげた。


 ミーちゃんもやはりケーキは食べる気がないようで、ルカたちとミーちゃんクッキーを食べている。



「美味しいわ……」


「おいちぃでしゅ~」


「み~」



 残りのケーキは王様の分が切り分けられ、残りは侍女さんたちに下賜された。下賜されたといっても、俺が作ったケーキと宮廷料理長が作った二つあったので一ホール半くらいはある。ニーアさん含め侍女さん軍団には十分な量だと思うよ。


 侍女さん軍団の目がケーキに釘付けになっていて、ニーアさんが咳払いしても目を離せない状態なので王妃様も苦笑いしている。



「これをレーネの誕生会に出してくれるのね」


「いえ、これはまだ試作品です。まだ、時間はありますので、もう少し宮廷料理長と研鑽してより良いものを作りたいと思っています。レーネ様、期待していてくださいね」


「期待してましゅ!」


「み~!」



 レーネ様、良い笑顔でミーちゃんをギュッと抱きしめる。この笑顔に答えられるように頑張りましょう。それからミーちゃん、期待しててね~って考えて作るの俺なんですけど……なんかおかしくない? お菓子だけに。



「み、みぃ……」


「……」



 寒いんだ……とっても寒いんだ。ミーちゃんも体を震わせ寒さを感じているようだ……うち帰ってふて寝してやるんだからな!


 王妃様とレーネ様に挨拶して家路につくと、玄関の前に誰かが倒れている。馬車を降りて駆け寄ると、ボロボロ状態のグラムさんだった。


 なにがあったんだ!?



「み~」


「ミ、ミー様……」



 な、泣いているのか!? 本当になにがあったんだ? 取り敢えず、ミーちゃんのミネラルウォーターを全身に掛けてやり、もう一本を飲ませてやる。


 さすが神水とまで言われるミーちゃんのミネラルウォーター。グラムさんの傷がみるみる癒えていく。ついでになぜか着ている服も修復されて綺麗になっていく。


 これはあれか? 変身して人型になっているけど服も体の一部ってこと? 服は皮なのかな?


 ミネラルウォーターを飲んで落ち着いたグラムさん。急にミーちゃんの前に土下座すると、



「ミー様。強くなりたいです。お願いです。俺を強くしてください!」



 いやいや、グラムさん強いですからね。あなたに敵う人なんて数えるくらいしかいないと思いますよ? ねぇ、ミーちゃん?



「み~?」





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