344神猫 ミーちゃん、心の拠り所になる!?

 宴会が楽しく終わってゆっくりと寝た翌日。町の跡地にある、なんとか建物と言えるような場所で話し合いが始まる。


 外からはトンテンカンと、ハンターギルドの出張所と宿屋を建てている音が聞こえる。ハンターギルドの出張所を覗いたところ粗方出来ていて、机や椅子などが運び込まれていた。


 すぐにでも始められそうな感じだったけど、この迷宮に見合う腕を持つハンターが今のクイントには少ないので、営業開始はまだ先のようだ。


 セリオンギルド長によると、王都などに残って居る熟練ハンターさん達に声をかけているらしい。腕の良いハンターならこの迷宮は稼げるし、ハンターギルドとしてもこの迷宮から出る利益をみすみす逃す手は無いと言うところだろう。



「ミー様、ネロ様。皆、揃いました」


「み~」



 話し合いの会場は以前と同じく円卓で行う。狐獣人の長老が俺の正面で司会役を買って出てくれた。ちなみに、グラムさんは俺とミーちゃんの後ろに立っている。



「それでは、始めましょうか。先ず初めに皆さんの移住先である場所を決めてきました」



 話を始めると、各獣人達の代表はこちらの話を一言も聞き逃さないとばかりに、真剣な表情で聞いてくれている。


 一通り、ニクセの北東にある街道沿いの村予定地の説明を行う。ブロッケン山の麓でフローラ湖に注ぐ川があり、気候もこの場所に近いことも話した。



「どのくらいの人数が移住できるんだ?」


「ここに居る全ての人が移り住んでも、問題ありません」


「移住してもすぐには食糧を自給できるとは思えない。その辺はどうお考えですか?」


「自給できるようになるまでは、私が責任を持って食糧などを提供します」


「み~」


「その見返りは何を望む?」


「もちろん、自給できるようになれば税を納めて貰います。早く自給できるようになっても、五年は税を免除するつもりですので安心してください」


「税とはなんですかのう?」


「……」



 おぅ……。そうだね。この人達に税と言っても意味がわかる訳がなかった。何百年も完全自給自足生活を送ってきたのだから。


 そこで、税の話を聞かせる。なかなかに難しい説明だ。自分の土地に住ませるのだからその代金を支払う、では納得してもらえないだろうね。


 税を収める代わりに基本的人権、福祉の提供、教育の援助を約束する。封建制とはいえ、基本的な事は民主主義に則って治める。これは、ブロッケン領全てに当てはまる。


 民主主義と言葉で言っても理解できないだろうし、すぐに実践なんてできる訳がない。俺が生きてる間に徐々に封建制から民主主義に移行して行こうと思ってる。


 俺としては封建制が悪いとは思っていない。頭に立つ人が優秀であれば問題無い。でも、歴史を見ればそう上手くいかない事もわかっている。かと言って、民主主義が絶対かと言われればNOと答えるだろう。ベストではないけどベターだと思っているだけ。他に良い統治法があればそれを選ぶだけ。


 さて、今いる獣人さん達が俺の言葉を理解しているかは甚だ怪しいが、住む場所と食事と身の安全を提供すると言う思いは伝わったと思う。追々、理解してくれれば良いことだ。



「み~」



 ミーちゃんも、封建制や独裁政治より民主主義の方が良いと思ってるみたい。



「前にもお聞きしましたが、どのようにして移動するのでしょうか?」


「移住を考えている者は五百人を超えるぜ……」


「老人はここに残ると言ってるが、幼い者は全て連れて行きたい」



 やはり、残る人が居るんだ……できれば全員、移住して欲しい。後、何年かしたらまた地上への入り口が閉ざされてしまう可能性がある。次に地上に出てくるのは何年か、何十年か、或いはもう出て来ないこともあり得る。


 管理者は残りたければ残って良いと言っていたけど、ここから多くの住人が移住すれば老人と残りたいと言ってる人達だけでは地上との入り口が閉ざされた場合、生活が成り立たなくなる恐れがある。なんとか、説得できないものかなぁ。



「一瞬で移住先に移動できるAFを持っているので問題ありません」


「み~」


「AFとは?」



 ですよねぇー。簡単にこの迷宮の管理者である神人が作り出した道具と説明すると、呆れる程素直に納得してくれた。彼らにしてみれば神人は神にも等しい存在なのだろう。でも、まったく疑いもしないのは、どうかと思うよ。


 移住先の準備は整っているので、いつでも移住は可能と伝える。


 そこから、獣人さん達で話し合いが始まり、最初に移住する男達の半数で移住先の村に行き、準備を整えてから順次移住する事が決まった。


 出発は五日後。それまでにこちらもいろいろ用意する事にしよう。


 当面、必要になる大きなテントや大工道具に農作業の道具など、主にこの獣人の村で手に入らない道具を集めよう。


 話し合いも終盤になってきたので、俺は全員の移住を望んでいる事を伝える。次に地上への入り口が閉じたら、二度と地上に出る事ができなくなるかもしれないこともちゃんと伝える。


 最後にこの迷宮の管理者に会った事も伝えて、彼らはここから出て行くことをなんら気にしていなく、厳しい言い方になったけど、管理者から見れば迷宮に獣人が居ようが居まいがどうでも良い事なんだということもね。


 代表者達から少し悲しそうな表情が垣間見えたけど、これからはミーちゃんと言う神猫が皆さんの心の拠り所になれるんじゃないかな?


 頼りないけど、フローラ神もね?



「み~?」



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