335神猫 ミーちゃん、この世界好きです!

 神人は普通に倒してもすぐに復活する魔王に対して手をこまねいていた。そんな中、一人の神人が一振りの剣を携えて魔王討伐に名乗りをあげる。


 そう、最初に魔王討伐を行った死にたがりの神人である。


 他の神人は意味の無いことだからやめろと言う。しかし、名乗りをあげた神人には秘策があった。


 彼が皆に見せた一振りの剣。AFかと他の神人は思ったが、説明を聞いて大いに驚く事になる。


 その剣の名は『神剣』。本来であれば剣に能力を与えAFとなる神力のほとんどを、敢えて剣の中に抑え込むように内包する。そして一部の神力を使い倒した者のエネルギーを吸収し溜める能力を持たせ、更にそのエネルギーが溜まれば溜まるほど体力回復能力と気分を高揚する能力も持たせた。



「神剣にそんな力があったのか……意外と優秀な剣だったんですね」


「何故、君は神剣を知っている?」


「一本、持ってます」


「み~!」


「……」



 そして、神剣に持たされた真の力は……対魔王最終兵器。


 それは神剣を使うものに勇者と同じ力を与えることができるというもの……己の死と引き換えに。


 魔王の元に辿り着くまでに神力を誘爆させるエネルギーを溜め込み、そのエネルギーが一定に達すると自動で己の生命エネルギーを使い爆発させ神力を連鎖爆発させる。


 魔王の傍で爆発させるのが確実だが、多少離れていたとしても爆発した神力は半径五キロにまでエネルギーの余波を及ぼす。モンスターにとって神力とはあがなえない力。神力を浴びれば魔王やモンスターのエナジーコアは破壊され生き延びる事は不可能。神力はエナジーコアにのみ影響を及ぼすので、人や自然を傷つけることはない。ある意味、クリーンエネルギー。



「対価が命ですか……レティさんに預けなくて良かったよ。ジンさん、様々だね」


「み~」


「神剣は十七本作られ、使われたのは十本。五本はこの星の外に持ち出され、残りの二本は封印されたはず……」


「見つけたのは偶々です。何百年も前の人が見つけて隠していたみたいです。しかし、エナジーコアのみ破壊って、中性子爆弾みたいですね」


「中性子線で人を死に至らしめる爆弾か? 君の世界は危険な世界のようだな」


「そうかもしれませんね。モンスターは居ないけど、モンスターの心を持った人間は居ますから……」


「みぃ……」



 神剣を作り魔王討伐に名乗りをあげた者は見事に魔王を消滅させた。自らの命と引き換えに。


 その成功を機に九人の神人がこの星に散らばる強大な魔王を討伐していき、人が住む領域を広げていった。順調に進んでいる。このまま人族がこの星の頂点となり文明を築き上げていく……幾度となくそのような思いを抱き、その度に苦汁をなめされてきた。


 そして、またしても観測チームからもたらされる凶報。モンスターによるスタンピート。


 しかし、これは起こりべくして起こった災害。魔王を討伐していったが為に、モンスターを統率する者が居なくなり、元は小さな暴走だったが連鎖的に広がりスタンピートとなった。


 スタンピートが同時に各地で起きた事に邪神の介入があったのではないかと調査したが、一切手掛かりを見つけることはできなかった。


 この頃になると、神人の中にある思いが芽生え始める。


 神人がこの星に介入すればする程、邪神はそれに対抗して介入してくるのではないのだろうかと。最初は小さな思いだったが、十体の魔王を討伐した頃には確信となりつつあった。


 魔王を討伐したすぐ後に余りにも都合よくスタンピートが起こり、その中から数体の準魔王クラスが台頭してくる。その準魔王達が争い勝ち残った者が魔王となる。


 主である神の思いに応えようとしてきた神人だが、今の神人は神の姿を見た者はいない。既に第一世代の神人はこの世に無く、今の世代の神人は不老となり次の世代を作る必要がなくなって長い年月が経つ。本来のこの星に降りた理由さえ曖昧になり、死ぬことへの憧れを抱く者さえ現れ始める。


 そう、既に神人は破綻しているのだ。



「破綻ですか……」


「もちろん、我々はそのことに気付いていた。いたが、神人というプライドが認めることができなかったのだよ。我らなら必ず達成できると……」


「みぃ……」


「だが、相手が悪かった。最初からわかっていたはずなのに、神の力に匹敵する邪神の力を認めることができなかった。邪神の力を認め愚かなプライドなど捨て、神に助力を乞うていればこのような結果にはならなかったであろう」


「たらればですね」


「そうだな。愚か者の戯言だ……」



 神への信仰心も薄れ、疲れきった神人は全てを放棄する。神人が動けば邪神も動く。ならば、全てをこの地の者に委ねようと……。


 しかし、それこそが最初にこの星に降り立った神人達が目指したことである。


 神人達は神に神界に戻れるように頼むが、無下にも却下される。既に神人は神人であるが神人ではなくなっていたからである。長い年月を下界で過ごし信仰心が薄れ、魔王との戦いで神人たるべく純真な心に闇を宿したことで、神界へ戻れぬ存在になっていた。



「神は言った。心を鍛えよ。と」


「心を鍛えれば、神界に戻れるのですか?」


「わからぬ……」


「みぃ……」


「ある者は神の勧めで心を鍛える為に異世界へ渡り、ある者は新天地でやり直す事を望みこの星を出て行く」


「あなたは?」


「み~?」


「我々はこの星に残り、この星の行く末を見守る事を望んだのだよ」



 神人は全てを放棄する前に最後にある種族を造る。普人族と呼ばれる種族だ。普人族は神人の持つ力を一つも与えられず、突出した能力を持たない種族。代わりに神人が捨てた繁殖力を授けられた。


 すべてを放棄してこの星に残った神人は流れ迷宮という名の船を造る。この星に住む人族に多少の恩恵を与えながらこの星の行く末を見守り続ける為に。


 これは意趣返しである。神人が邪神に対して行った最後の反抗……。



「意趣返しですか?」


「み~?」


「ハハハハ……何とも滑稽な意趣返しだろう? こんなことしかできなかったのだよ」


「……ですが、その普人族が国を作り、魔王と戦い文明を築き存続させています。すべての普人族が良いとは言いませんが、神人の行ったことに意味はあったと思います」


「そうだろうか……」


「み~!」




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