281神猫 ミーちゃん、目が泳ぐ。

 大公様はルミエール王国と共同で更なる改良を加えたものを造り軍に配備すると言っている。相手と同じものでは意味がないと仰り、改良の余地は十分にあるので相手のものより高性能なものを目指すそうだ。こうやって軍事競争が始まって行くんだね。


 今回、この世界に召喚された者達はこの世界に大きな影響を与える事になる。おそらく、今がこの世界の戦争と言うものの変換点になってしまうと思う。長い間停滞していた技術革新が一気に進む可能性もある。


 それが良い事なのか、悪い事なのかは俺には判断できない。判断できないけど、その片棒を担いだ事は事実、そしてこれからも持っている知識を自重せずに使って行く事も事実。地球のポンコツ神様は俺に世界に影響を与える力は持たせないと言っていたけど、俺プラスαの知識によってこの世界に影響を与えるような事になると予期できていたのだろうか? 神とて万能ではないと言う事なのかな?


 大公様の話も一通り終わり、流れ迷宮の話に移って行く。



「迷宮の中にユンの村があるとな?」


「種族はいろいろですが、結構多くの獣人が居るようです」


「何故、迷宮にそれも流れ迷宮に獣人が住んでいるのであろうな?」


「さあ、何故なんでしょう」


「迷宮の中では不便であろう。ブロッケン領に移住を勧めてはどうじゃ?」


「み~!」



 成程、そう言う選択肢もある訳だね。一応、話をしてみるか。今回の件が終わってからだけどね。


 大公様との歓談を終えて王宮を出ると、外はもう夕暮れ。海に夕日がキラキラと反射して美しい佇まいを見せてくれている。綺麗だねぇ。



「み~」


「ぶるる」



 スミレ姐さんも王宮の馬丁さんに良くしてもらったのか、機嫌が良くなっていた。ちょっと安心。


 ベルーナのうちに戻り、レティさんの報告を聞く。レティさんはルーくんとラルくんをモフモフしながら話してくれた。どうやら、自分で動くのが嫌だったらしく義賊ギルドを使って武器防具を集めたらしい。明日中に届けられるそうです。なんて、横着者……。レティさんに顎で使われる義賊ギルドも可哀そうなので、今度ミストレティシアさんの所にプリンでも届けておこうと思う。


 翌日はレティさんに武器防具の引き取りをお願いして、俺とミーちゃんとスミレ、ルーくんとラルくんで烈王さんに会いに行く。



「シュトラール、元気にやってるか?」


「きゅ~」



 ラルくん一言挨拶しただけで外で待っているルーくんの元にスタスタと戻って行く。お姉さんのクリスさんと会った時と全然違うんですけど? 感動の再開とまではいかなくとも、もう少しスキンシップやコミュニケーションがあると思っていた……。



「あいつも大人になったもんだ……」



 違うと思います。ラルくんが俺の所に来たのつい最近だよ! そんな早く大人になるわけないじゃん! それともこれは次元竜的ジョークなの?



「ハハハ……烈王さん。それ最高に面白いです!」


「み~!」


「何が面白いんだ? 男親の辛さを知らないネロが羨ましぃ……」


「「……」」



 地雷ふんじゃった? ミーちゃん、目が泳いでますよ。



「まあまあ、御一献」


「おぉ、悪いな」



 ガラスの杯に三十年物の蒸留酒である琥珀色の液体をトクトク注いであげる。美しい琥珀色と芳醇な香りが奏でるハーモニー。烈王さんの目の色が段々と変わっていくのがわかる。



「ネロ、そいつはなんだ?」


「口で説明もなんですから、先ずは飲んでください」


「み~」



 烈王さんは杯を掲げて光に透かし、そして香りを楽しむ。杯に軽く口をつけほんの少し口に含ませ、味と香りを楽しんでいるようだ。存分に楽しんだ後、残りを一気に呷る。



「旨い! これはドワーフの御神酒だな。一度だけ飲んだ事がある。よく手に入ったな」


「それはドワーフの造った御神酒じゃないです。これから俺……神猫商会で造っていこうと思っているお酒ですよ」


「み~」


「これはネロが造ったのか?」


「いえ、運よく手に入れた、俺が目指すお酒の完成形です」


「くれ」


「だからまだ造ってないんですよ!」


「でも、持ってるんだろう?」



 心の中でガッツポーズ! 見事に烈王さん喰いつきましたよ! 



「無い訳ではないですけど……」


「俺とネロの仲じゃないか、なぁ?」


「そう言われると断り辛いですねぇ」


「なんか欲しい物はないか? あっ! あれどうだ? 星を落とすAF」



 だから、そんな物騒なAFどこで使えって言うのでしょう?



「一つお願いがあるんですけど……」


「おぉー、任せろ! で、なんだ?」


「時空間スキルの使い方を教えてください」


「……」



 ありゃりゃ。烈王さん真面目な顔になり黙り込んじゃった。少し間があってから烈王さんが話しかけてきた。



「前にも言ったが、時空間スキルは強力過ぎる。そんな力を使えば神に抹殺されるぞ」


「そんな力は使う気はないです。でも何が駄目で何が良いかわからなければ、とっさに使ってしまう可能性があるでしょう? だから、使い方をちゃんと学んでおきたいのです」


「本当だな?」


「烈王さん、前にも言ってましたよね? そこまでの力を使いこなせるようになるには時間が掛かるって。俺は竜じゃないので寿命は短いです。知識を得るだけなら問題ないのでは?」


「うーん。確かにネロの言う通りではあるんだが……」


「さっきのお酒より旨い酒があると言ったらどうします?」


「マ、マジか?」


「マジです」


「み~」


「そ、そうだな。知識を得る事は大事だな。それにネロには眷属殿もついてるしな。問題ないか?」



 ヨッシ! これで移動が便利になるね。俺は、運輸王になる!



「み~?」






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