280神猫 ミーちゃん、お友達の心配をする。

 準備が整ったようで、これから実際に試射するようだ。


 初めにおこなわれたのは、普通の矢が六本並べられたバリスタ。トリガーに結ばれた紐を兵士が引っ張ると、ダーン! と音と共に目にも止まらぬ速さで矢が飛んで行き的に突き刺さる。なんて恐ろしい武器だろう。薄い金属鎧位なら貫通するんじゃないだろうか。


 次に放たれたのは丸い金属の球。厚さ三十セン程の木製の板が粉々に砕けた。これは攻城兵器としての種類になるんだろう。最大でどの位飛ぶのかわからないけど、相手の弓が届かない安全な場所から攻撃できるだろうね。


 最後に試射されたのは槍のような矢。これは的を狙うのではなく上空に向かって放たれた。正直どの位飛んだのかわからないけど、矢が見えなくなるんじゃないかと思う程飛んで行った。百メル以上は飛んだんじゃないだろうか。



「どうじゃ?」


「どうじゃ? と言われましても、凄いの一言ですね」


「み~」


「ただ、一つ言える事は、ロタリンギアはヒルデンブルグ大公国も敵として視野に入っていると言う事でしょうか」


「やはりそう思うか」



 最初の二つは対人兵器と攻城兵器だろうけど、最後のバリスタは対空兵器としか考えられない。この世界で対空兵器を必要とする相手は、全ての国の事を知ってるわけじゃないけど騎竜隊を擁するヒルデンブルグ大公国に他ならない。


 独立国家とはいえルミエール王国の流れを汲む国でルミエール王国の最大の同盟国でもあり、現国王の正妃はヒルデンブルグ大公国の大公の娘でもある。ルミエール王国を相手に喧嘩を売れば、おのずとヒルデンブルグ大公国もついてくると考えるのは必然と言う事だね。



「これは脅威になり得ますか?」


「なる。矢であれば、多少の怪我をすれど致命傷になる事は無いじゃろう。しかし、この矢は別ものじゃ。飛竜の飛んでいる高さまで届く強力な槍の攻撃を受けるようなものじゃな。流石の飛竜とてただでは済まぬじゃろう。なんとも厄介な武器を供与したものじゃな。偽勇者殿は」


「対抗策なんて思いつきませんね」


「そうじゃな。この矢が届かぬ高さまで上がれば、こちらも攻撃ができぬ。難儀よのう」



 例え実際に放ったとして飛竜に当たるかどうかはわからないとしても、十分な抑止力効果はある。対飛竜戦としては非常に有効な兵器であり、頭の痛い事になってしまった。ミーちゃんも困った顔をしている。飛竜にお友達が居るからね。怪我をしてほしくないんだろうね、ミーちゃん優しいから。



「他の二つにしてもじゃ。相手が同じ物を持っている以上こちらも持たねばならぬ。これからのいくさは大きく変わっていくじゃろう」



 次に兵士が持って来たのはクロスボウと複合弓の試作品。大きいものから小型のものまでいろいろ造ったようだ。


 大型のクロスボウは一メル近くある。正直、一人で持つのは苦労しそうだ。そもそも、俺では弦を引く事さえ困難だと思う。しかし、威力は絶大。試射したらプレートメイルを貫通してしまった。まあ、距離が近いからだけどね。実際にはバリスタの方が強力だよ。でも、携帯性、連射性を考えればバリスタより使いやすいね。


 複合弓の方はコンパウンドボウとコンポジットボウが試作されていた。おかしな言い方だけど便宜上そう言う風に言っておく。そして、コンポジットボウの方は引けませんでした……。これ引ける人居るの? って感じです。使う人を選ぶ強弓だね。実際に兵士が使っている所を見せてもらったけど、みんなマッチョの兵士ばかりで細い兵士は一人も居なかった。


 コンパウンドボウの方は俺でも引けた! でも、的に当たらない……。あれ? もしかして、俺って才能が無い? いや、これも全てポンコツ神様が俺の選んだスキルを変えたせいだ。……きっとそうだ。



「みぃ……」



 ミーちゃんがごめんねぇって顔して俺を見てくる。違うんだよ! ミーちゃんは何も悪くないよ。悪いのは、ポンコツ神様だから!



「強力な弓ではあるが、今までの弓に比べ保守が難しいのが難点じゃな」



 確かにメンテは面倒臭そう。滑車やテコの原理を理解してないとメンテの為にバラしたら元に戻らないって事が起きそうだね。


 大公様といつもの執務室に戻る。すぐにお茶が用意されて目の前に置かれるけど、代わりにミーちゃんが拉致される。侍女さん達はモフモフ成分の補給が必要なようだ。



「あれが前線に出てくると思うとゾッとする」


「今まで通りの戦い方をすれば、多くの犠牲が出るでしょう」


「先程も言ったが戦い方が変わると言う事じゃな」


「その戦い方の流れに乗れなかった者は敗れるが必定」


「騎馬隊の優位性が大きく下がった事になろう」


「使い方次第だとは思いますが、投入時期を見定めるのが難しくなったのは確かですね」



 この兵器や武器が前線にすぐに配備されるのはまだ難しい。お金も掛かるし、それを運用する兵を育てなければならない。特にバリスタは強力な反面、使い勝手が悪い、得てして攻城兵器なんてものは目立つので狙われやすいと言う事もある。上手く運用できる優秀な指揮官と熟練した兵が必須になる。



「厳しい戦いになるじゃろう」


「ですが、今回の兵器は防衛戦でこそ最大の効果をあげるものが多いので、被害を受ける側は攻めてくるロタリンギアではないでしょうか?」


「だとしてもじゃ。多くの犠牲が出る事には変わりがないじゃろう」


「攻めてくると思われますか?」


「状況がそう進んでおる。どこからどこまでがロタリンギアの策かわからぬが、余程の策士がおるようじゃのう。あの王がここまで考えるとは思わんからのう」



 この全ての状況が本当に一連した策なら、相当な切れ者だろう。魔王を動かし国をも動かすほどの者。あながち俺の考えた裏で糸を引くのは魔王と言うのは当たらずとも遠からずじゃないだろうか?


 ミーちゃんどう思う? って、ミーちゃん侍女さん達にモフモフされ中だったね。



「み~」





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