229神猫 ミーちゃん、正式にブロッケン山の主になる。

 翌日は大忙し、いつも通りスミレに乗って行くと思っていたらルーカスさんに怒られた。どうやら、馬車で行かなければならないらしい。うちに馬車なんて無いよ? そこはルーカスさん、ちゃんと手配済みだそうです。


 俺の着替えが終わってミーちゃんもおめかしして馬車に乗ろうとすると、ミーちゃんは連れていかない方が良いと言われたけれど、それは頑としてお断りした。王宮で同じ事を言われたら帰るつもりでもいる。当たり前だよね。



「み~」



 御者はベン爺さんが務めて、ルーカスさんも一緒について来るそうだ。なんか大げさ過ぎない?


 王宮に着くといつもの入口ではなく、王宮の正門に馬車がつけられる。ルーカスさんが馬車のドアを開けてくれ、ミーちゃんを抱っこして降りると兵士さん二人と侍女さん二人に付き添われ王宮の一室に案内された。妙に仰々しい。


 その部屋でルーカスさんから昨日習った礼儀作法の復習をしていると、王様付きの執事さんがやって来た。



「お久しぶりでございます。ネロ様」


「えぇーと……今日呼ばれた理由ってなんでしょう?」


「それは後程、陛下よりお話がございます。本日は謁見の間にてのお話になりますので、陛下がお話を許可するまでは、お言葉をお慎みくださいませ」


「ミーちゃんは連れて行っても良いのですよね?」


「み~?」


「はい。王妃様が陛下よりご許可を頂いております。それでは、お時間ですので参りましょう」



 ルーカスさんはここで待機。俺はミーちゃんと執事さんの後について行く。


 大きな扉のある場所に連れて来られ、執事さんの合図で扉が開かれる。中には数人の人がいるけど、玉座には誰も座っていない。



「それでは、どうぞお入りください」



 ルーカスさんから習った通りに部屋の中央まで歩いて行き、片膝をついて畏まる。ミーちゃんは俺の左横でお座りして悠然と玉座を見据えているね。流石、ミーちゃん大物です。


 しばらくじっとしていると奥の扉が開く音がして人が入ってくる気配がする。



「ネロ。おもてを上げよ」



 顔を上げると玉座には王様と王妃様が座っていた。



「此度、お前を呼んだのは他でもない。反乱軍の鎮圧も終わり粗方落ち着いたのでな、論功行賞の件だ」



 うーん。要らないとは言えないんだろうね。お金くれるだけで十分なんだけど……。



「ネロは武勲をたてた訳ではないが、勲功だけで言えば一番であろう。よって、ネロに世襲男爵位を与える」



 はぁ……男爵ですか、それも一代限りじゃなくて世襲なのね。



「授ける領地はブロッケン山並びに王室直轄地であるフォルテを割譲。更に、ヒルデンブルグ大公国よりニクセがネロに賜る事になった。よって今後、ブロッケン山、フォルテ、ニクセをブロッケン男爵領とする」



 へっ? 今なんか凄い事を聞いたような気がするのですが……。



「良いかネロ。これより我がルミエール王国では、今後世襲貴族を作る事は余程の事がない限り無い。もしかすると、ネロがこの国で最後の世襲貴族になるやもしれんぞ。喜べ!」



 と言うか、追々世襲貴族も廃止にするつもりでしょう? 俺が世襲貴族になる意味ってあるんだろうか?



「ブロッケン男爵の役目はブロッケン山の主との友好にある。ブロッケン山は古来より交通の要衝。街道を整備し商業が滞る事が無いようにいたせ。これは王命である」



 王命って言われても……どうすれば良い訳?



「何とか言ったらどうだ。ブロッケン男爵。まさか、断るつもりではなかろうな?」


「断ってもよろしいので?」


「無論、許されぬ」


「ネロ君。諦めなさい。ネロ君を守る為にも必要な事なの」



 守る為? ってなんでしょう?



「ネロ君自身は気付いてないのかもしれないけれど、ネロ君は目立ち過ぎたの、そしてこれからも目立つ事でしょう。良きにつけ悪しきにつけ。そんなネロ君をこれから多くの者が抱き込み利用しようとするわ。そんな事、ネロ君は良しとしないでしょう? でもそうなると、このまま手を打たなければ、ネロ君の命が危なくなるの。そのための授爵なのよ。わかってくれるわよね?」



 俺ってそんなに目立つ事したのかなぁ……自覚は全くないけど。でも、王妃様の言う通りなら不味いね。俺だけの事ならどうにでもなると思うけど、俺の周りに居る大切な人達に何かあってしまうのは不味い。それを防ぐ為にも権力を持ち、ルミエール王国とヒルデンブルグ大公国の後ろ盾を持てと言う事なんだろう。これは、断れない状況らしい……。



「謹んでお受け致します」


「み~」


「ここに新たなる男爵。ブロッケン男爵が誕生した。領民を労わり、善政が敷かれる事を期待する。励めよ」



 俺はまた頭を下げてかしこまる。王様と王妃様が退出して行くのを待って謁見の間から出た。



「おめでとうございます。ブロッケン男爵様」


「はぁ……気が重いです」


「ブロッケン男爵領はルミエール王国とヒルデンブルグ大公国を繋ぐ重要な地、陛下の信頼の厚い者にしか与えられるものではありません。東辺境伯の居ない今、北辺境伯、西辺境伯に次ぐ地位を得たものとお思いください」


「はぁ……益々、気が重いです」


「すぐに、慣れます」



 そんな簡単に慣れるのかな?



「み~?」






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