214神猫 ミーちゃん、お花見がしたいです!
今は帰りの馬車の中。前の席にはミネラルウォーターのペットボトルに刺さった桜の枝を持った宗方姉弟が居る。
ミストレティシアさんに、これは俺達の故郷の木なんですと形見分けにと無理を言ってもらってきた。ミーちゃんのミネラルウォーターから水を吸っているせいか、生き生きとしている。
隣に座ってるレティさんは終始無言だ。
「泣いても良いんですよ?」
「涙は既に枯れた……」
そんな強がりを言うレティさんの肩をそっと抱き寄せる。俺の肩にレティさんの頭が乗るが、涙を見せる気は無いようだ。強い人だね……。
ちょっとキザっぽい事してるって事はわかってるけど、俺自身が人肌が恋しいのかのしれない。心にぽっかり穴が開いたようだ。
ミーちゃんは悲しみ疲れたのか、俺の膝の上で丸くなり眠っている。
考えてみれば、親しい人の死と言うのは始めてだった。向こうでも両親に祖父母共に殺しても死なないような程元気な人達だったからね。お葬式ってのにも出た事がない。俺の周りの人って健康優良児ばかりだったようだ。
うちに戻ると、ルーカスさんとカティアさんが待っていてくれた。レティさんは部屋にすぐ戻って行ってしまい、俺と宗方姉弟はカティアさんが入れてくれたお茶を飲んでから眠りについた。
ほとんど眠れぬまま朝を迎え、ハンターギルドに向かうペロ達と一緒に朝食を食べてから桜の枝を持ってベン爺さんの元へ向かう。
「これを接ぎ木すれば良いのかのう?」
「できますか?」
「見た事の無い花を咲かせておるのう。いくつかの台木を用意した方が良いじゃろうな」
餅は餅屋、彩音さんが残した桜をこの世界でも育て咲かせたい。ベン爺さんは専門家だからお願いしに来たと言う事です。ベン爺さんはすぐに知り合いの造園業者の所に行って、台木を調達して七本の接ぎ木した苗を作ってくれた。
門から屋敷に続く石畳の脇の陽あたりの良い場所を選んで植えていく。元気に育って欲しいので、ミーちゃんのミネラルウォーターを与えておく。効果の程は不明だけど、神水って言うくらいだから悪くはないと思ってる。いつか、お花見ができると良いね。
「み~」
うちに入るけど、何もやる気が起きない。窓際の椅子に座ってミーちゃんを撫でながらぼーっとして外を眺めている。ルーくんとラルくんは元気に外を駆け回っているね。そのルーくんとラルくんが玄関の方に走って行った。誰か来たのかな?
ルーカスさんが手紙を持ってやって来た。シュバルツさんからだ。ウイラー道具店の開店準備が済んだとある。骨董品の件でお話したいので時間を作って欲しいとあった。行ってみようか。
ここからシュバルツさんのお店までは結構な距離があるけど、のんびりとミーちゃんを抱っこして歩いている。ルーくんとラルくんもどこ行くの~って感じでついて来てる。
シュバルツさんのお店につき、まだオープンしていない店のドアを開けて中に入ると若い男女が店の中の掃除をしていたのをやめ驚いた顔で俺を見ている。シュバルツさんの甥御さん達だろう。
「シュバルツさん居ますか?」
「あのう、どちら様でしょうか?」
奥から顔を出したシュバルツさんがこちらに気付き声を掛けてくれた。
「これはこれはミー様にネロさん。それとルーさん。新しいお仲間もいらっしゃるようですね。ようこそお越しくださいました」
「み~」
「がう」
「きゅ~」
「手紙を頂いたのでお伺いしました」
シュバルツさんは場所を移してお茶の用意をしてくれ、甥御さんと姪御さんの紹介をしてくれた。どちらも年の頃は十五前後、マルコさんはまだ幼さを残した優しそうな人、フィオリーナさんはそばかすがあるけど明るそうな可愛らしい人だね。
二人は挨拶が済むと店の掃除に戻っていく。
「いつ店を開ける予定ですか?」
「そうですね。四、五日後と言ったところでしょうか」
「いつ開いても良いような気もしますが?」
ルーくんとラルくんは俺の足元でシュバルツさんが用意してくれた牛乳をペロペロ飲んでいる。ミーちゃんはシュバルツさんの膝の上でなでなでされてます。
「在庫の量がまだ少ない状態で、手配はしているのですがしばらくは品薄で店を開ける事になります」
「成程、それで俺の骨董品が役に立つと言う事ですね」
「はい。以前見せて頂いた品は、どれも収集家の心をくすぐるものばかりでした。是非ともウイラー道具店にその品を卸して頂きたいのです」
シュバルツさんはそう言って、若輩物の自分に対して頭を下げてきた。
「顔を上げてください。元より、シュバルツさんにお願いするつもりでした。と言うより、シュバルツさん以外にお願いできる人はいませんから」
「み~」
「光栄でございます……」
取り敢えず、骨董品を出して並べていく。ルーくんとラルくんが邪魔ですね。壊れ物もあるから元気な二人は不味いかも?
「マルコ、フィオ。少し休憩をあげるから、ルーさんとラルさんを連れて散歩に行っておいで」
「がう」
「きゅ~」
呼ばれた甥御さん二人は嬉しそうに目尻を下げている。ずっとモフモフしたそうにしてたからね。
ルーくんとラルくんが居なくなったので、壊れやすい陶器製などの骨董品も出していく。
「素晴らしいの一言でございます……」
「み~」
シュバルツさん喜んでいると言うより、呆れてる? そんなシュバルツさんは一つ一つ見ていき紙に品と値段らしきものを書いていってる。部屋中に物を出したけど、ミーちゃんバッグに入っている骨董品の五分の一に過ぎない。以前、王妃様が買い上げてくれたから減ったと思っていたけど、まだまだあるね……我ながら良く集めたものだよ。
「み~」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます