209神猫 ミーちゃん、絶対強者の弱点を突く。

 烈王さんはエールを飲みながら、俺の話を聞いている。



「厄介だな。既に闇の兆候が見えてるのは不味い」


「どう、不味いのですか?」


「闇落ちすれば、欲望に忠実になる。ネロは人がどうやって強くなるか知ってるか?」


「魂の器やスキルの熟練度の事ですか?」


「神から聞いたか? まあ、その通りだな。ならば、どうやって育てる?」


「モンスターを倒すですか?」


「モンスターに限らない。生きとし生けるもの全てだ。そして魂の器が大きい者を倒すと成長しやすい」



 ゲームなんかでも同じだね。レベルの低い敵を倒すよりレベルの高い敵を倒した方が経験値が多くもらえるって事だ。



「昔、こんな事があった。ある国が偽勇者を召喚した。偽勇者を強くする為に罪人と戦わせ力を付けさせたが、罪人とはいえ人を殺す事に耐えられなかった偽勇者はどんどん心が病んでいき闇に落ちた。闇に落ちた彼は力を欲するようになり罪人では飽き足らず、その国の兵士達を殺し始める。既に勇者たる力に覚醒していた彼を止められる者などその国には居なかった。その結果、たった三日でその王都の住人が居なくなったと言う出来事があった」



 酷い話だ。烈王さんが言うんだから、本当にあった事なんだろう。


「彼もそうなると?」


「偽勇者が闇に落ちれば、魔王以上の脅威となり得る。何と言っても魔王を倒せる力を有しているんだからな」


「うーん。魔王を倒せる力……勇者って一体何なんですか? 魔王は勇者じゃないと倒せないんですか?」


「なんだ、ネロはわかってないのか? それはだな……」



 烈王さんの話を要約すると、魔王も偽勇者と同類らしくモンスターが召喚するか、魔王を望む思いに何かが手を貸してこの世界に具現化するそうだ。その何かは烈王さんにもわからないらしいしけど、神と同等の力を持ってないと魔王召喚なんて無理らしいと言っている。


 その魔王も魂と肉体の改変がおこなわれる。この世界の人では倒す事はできたとしても魂までは破壊する事が出来ず、時間が経つと復活してしまう。その魂を破壊できるのが、神界を通って魂と肉体の改変がおこなわれた勇者と言う事らしい。



「ん? と言う事は……俺も勇者の端に引っ掛かってるの?」


「み~?」


「引っ掛かってるの? じゃなくて、ど真ん中だな。ある意味、眷属殿が居るお陰で真の勇者と言っても過言ではないな」



 マジですか! 無理むりムリ……俺なんかが魔王の前に行ったら、プッチと潰される。ほぼ確実にね。



「仲間に偽勇者も居るんだから、余裕じゃね? パパッと行って倒して来いよ」


「み~」


「ミ、ミーちゃんまで何言ってるの? 無理に決まってるでしょう!」



 ミーちゃんと烈王さんはニヤニヤ笑ってる。じょ、冗談だったのね……心臓に悪いよ。



「まあ、魔王の事は置いといて、偽勇者の事は本当に厄介だぞ。ネロの所に居る偽勇者をビシバシ鍛えておくんだな。眷属殿の近くに居れば少なからず恩恵も受けられるだろうしな」


「彼女らを闇落ちした者の討伐に利用しようと?」


「他に誰が居る? この世界の人族だけでやるとなると、多大なる被害が出るぞ。魔王が喜ぶだろうな」



 それが狙いなんだろう。どこの魔王か知らないけど、いやらしい手を使う。



「烈王さんは手を貸してくれないんですか?」


「はぁ? 何故、貸さねばならない? 人族が勝手に好きでやってる事、手を貸す義理はないな」


「でも、魔王が力をつけると困りませんか? ヒルデンブルグと盟友関係にもある訳だし」


「まったく困らない。魔王が居ようが居まいが俺には関係無いからな。ヒルデンブルグには飛龍を与えている。十分過ぎる程、手を貸してると思うが」



 絶対強者だから言える事だね……。烈王さんにとっては、人であろうがモンスターであろうが関係ないんだろう。



「人族が苦境に立たされると、お酒飲めなくなりますよ……」


「なっ!?」


「漁をする人も減るし、美味しい物を作る余裕なんてなくなるね……」


「みぃ……」


「ぐっ……」


「神猫商会でも、お酒とか作ろうと思ってたんだけなぁ。この魚に塗ってるお味噌の増産も決まったばかりなのに……」


「みぃ……」


「わ、わかったよ! 手を貸してやるよ。だが、人同士の戦いには手は貸さないからな。それに俺は直接手を貸す事はできない。これは、古来より神との間で取り決められた約束事だからな。上位のドラゴンは中立でなければならないと」


「ありがとうございます。ニヤリ」


「ネロ……お前、良いタマしてなぁ。この俺を強迫するなんて。良い商人になれるぜ、きっとな……。眷属殿も人が悪い」


「み~♪」



 ラルくんは俺の個人的な仲間って事でノーカウント。魔王との戦いの時に何頭かのドラゴンを援軍として派遣してくれる事になった。但し、俺が傍に居る事。それって、俺も魔王と戦えって事だよね……。



「当たり前だろう。誰が魔王に止め刺すんだよ」



 確かに、ごもっともなご指摘……気が重いよ。


 もう一つ条件があって、神猫商会でもう二人ドラゴンの受け入れをお願いされた。それは、こちらとしても願ってもない申し出だね。喜んで引き受けたよ。


 ちなみに、ドラゴンを呼び出す方法は烈王さんからもらった、烈王さんの鱗に呼びかければ良いとの事。究極召喚を手に入れた!



「酒、頼むからな?」


「み~!」





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