188神猫 ミーちゃん、勇者の説得を試みる。

 テントの中は静まり返っている。ヤンキー君でさえ一言も発しない。



「闇落ちしない方法が無い訳ではないです……」


「本当か!」


「普通に生活すれば良いんです。ロタリンギアの手先を辞めれば済みます。そもそも、ロタリンギアと言う国がどんな国か知ってるのですか?」


「み~?」


「勇者を辞めるだと……」


「辞めてどうすんだよ!」


「ロタリンギア王国の人達は良い人達です。みんな良くしてくれます」


「うーん。何も知らないって言うより、教えてもらってない?」


「この世界に慣れるので精一杯で、そこまでの余裕は無かったかな?」



 俺も大概能天気な性格だけど、こいつら阿保だね。気付けよ! って言いたくなるよ。利用されてるって思わないのかな? それだけ良い思いをさせてもらってるってるのかもしれない。もうこの時点で欲に溺れてる……。



「ロタリンギアと言う国は今回この世界の暗黙のルールを破り、周りの国々から信用を失ってる国です。そもそも、なんであなた達がルミエール王国に攻め込んでいるのか、考えればおかしいと気付かないんですか?」


「そのルミエール王国がロタリンギアを攻めると聞いている。だから、その前にこの国の内通者と攻める事になった」


「はぁ……じゃあなんで傭兵部隊に化けてるんですか? 堂々とロタリンギア王国と大手を振れば済むのでは?」


「ロタリンギアはこの国に干渉するつもりは無いと聞いている。手を貸すだけだ」


「それを本気で信じてるんですか?」


「み~?」


「「「「「……」」」」」



 多少なりとも疑問には思っているようだね。安心したよ。盲目的に信じ込んでしまう事が一番怖い。


 まずは、この辺の情勢から教えた方が良いみたい。


 ロタリンギアに魔王オークキングがいる事、ルミエール王国に魔王ゴブリンキングが現れた事。魔王が現れたら、各国に通知して協力し合うのが暗黙のルールである事、ロタリンギアは魔王オークキングの事を公表していない事などを聞かせた。



「オークキングの事は聞いています。その為に我々が呼ばれたのですから」


「オークキングの事は王様から誰にも言うなって言われてる」


「僕らで倒せば済む事なので、民衆を不安にさせない為って言ってたよ」


「ルミエール王国のゴブリンキングの事は聞いていない」


「それが、どう関係すんだよ!」


「今、ルミエール王国には各国からの協力で魔王討伐の兵が集まっています。それでも、勝てるかわからない戦いです。そんなルミエール王国にロタリンギアを攻める余裕があると思いますか? それと今ここに集まっている兵は現政権に不満を持つ貴族連中です」


「ロタリンギアの策略……」


「最初からこの国が狙いって事?」


「じゃあなんで僕たちはここに居るの?」


「「……」」



 気付くのが遅い。言ってた通り余裕が無かったのかも知れないけど、周りの事を調べようと思わなかったのだろうか?



「理由を教えましょうか?」


「わかるのか?」


「あなた達の力の底上げの為です。今のあなた達の実力は兵士に毛の生えた程度なので、今魔王と戦ったらプチッっと潰されます。その為に実戦経験を積ませて強くさせようとしてるんでしょう。戦争ですから人を殺しても文句はないでしょうから。ここで魔王を倒せる力に覚醒して欲しいのですよ。大いに利用する為にね」


「利用する為……」


「あなた達が力を付けロタリンギアの魔王を討伐した所で勇者として各国に通知する。今回、この国を混乱させておき、後に勇者としてルミエール王国の魔王も討伐しこの国を属国化或いは吸収する。勇者を抱える国に歯向かう国はないでしょうから、逆に歯向かえば大義名分として攻め込めるってとこですかね」


「我々は利用されている……?」


「ロタリンギアはあなた達が偽勇者と知って利用し、上手く事が運び不要になり使いづらくなれば、闇落ちする前でも始末しようとするでしょう。今後の憂いをなくす為に」


「不要になれば捨てられる……?」



 捨てられるんじゃなくて、始末されるだよ。さてと、もう一押ししておこう。



「過去にも同じような事例があるので確実とは言いませんが、高確率でそうなると思います。先程も言いましたが闇落ちしない方法は勇者と言う肩書を捨てる事。過去にこの世界に来た異世界人の中にはそうやって、幸せになった人達も居ると聞いていますよ」


「俺は王女と婚約してるんだぞ! そんな事信じられるか!」


「!?」


「えっ」


「嘘……」


「本気かよ……」



 おおっとここで、爽やかイケメン君のまさかのカミングアウト! 他の四人は寝耳に水って感じだね。



「あんたはどうなんだよ?」


「俺?」


「ネロさんは加護を持ってるのですか?」



 持って無いけど、ミーちゃんが居るって言えないよねー。ミーちゃんが神猫って事は絶対に教える事はできない。うーん、どうしようか?



「俺も持ってないよ」


「じゃあ、誰かに召喚されたか、運悪く落ちて来たんですか?」


「日本で善行を行い、そのせいで死んだ時に地球の神様にこの世界に転移させてもらった。体はもうなくなっていたので、神様にこの世界の人っぽく作ってもらったからハーフっぽくなってる」


「なのに加護を持ってないんですか?」


「ちゃんと聞いてた? 俺をこの世界に連れて来たのは地球の神様。この世界の神様じゃないからね」


「じゃあ、ネロさんも偽勇者って事ですか?」


「違うね。地球の神様は俺にこの世界に干渉する力は与えなかったよ。俺は普通の人としてこの世界に来た」


「けっ! クズかよ」


「では、どうしてここに来たんですか?」


「来たくて来た訳じゃない。来た理由は地球の神様にあなた達の説得を頼まれたのと、この世界に居るもう一人の同郷の方にあなた達の説得を頼まれたからだよ」


「他にも居るんですか!」


「居るけど、もう寿命が幾ばくも無いと本人は言ってた。その人は神託って言うスキル持ちでね、この世界の神様があなた達が闇落ちする前に説得しろと言ってきたんだ……。これでも俺は商人でね。事業も上手くいってる。君達さえ良ければうちで働かないか? 他にしたい事があれば援助もする。どうだろう」



 代表、良いよね?



「み~」





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