187神猫 ミーちゃん、勇者と話をする。

 テントの中には見た感じ高校生位の男女がこちらを驚いた顔で見ているけど、一旦ルーくんの魅了に掛かった兵士に即効性の睡眠薬を嗅がせ眠ってもらう。


 さてと、改めまして。



「はじめまして、根路連太ねじれんたって言います。この子はミーちゃん。こっちはルーくんです」


「み~」


「がう」



 挨拶は大事だよね。



「日本人なのか……」



 真ん中に居た爽やかなイケメン君が絞り出すように声を出した。



「私達以外にも召喚された人がいたって事……」



 黒髪ロングの優等生タイプの綺麗系の女子が独り言を言っている。



「姉さん! 子猫だよ!」


「可愛い~。わんこも居るね!」



 秀才君とショートカットの可愛い系女子は姉弟なのかな?



「日本人ってよりハーフじゃねぇ」



 最後の一人は目付きの良くないヤンキー君。金髪に染めていたんだろうけど、面影しかない……。



「お団子食べます?」


「「食べる!」」



 女子二人が鬼気迫る勢いで迫ってくる。ミーちゃんバッグから携帯コンロを出して、餅を焼き始める。



「君は何者だ? そっちの兵士はどうなった?」


「眠ってもらっただけです。取り敢えず、作っちゃいますね」


「子猫とわんこ、触って良い?」


「本人の承諾を得てください。それから、ルーくんは狼です」


「ふ~ん。触って良い?」


「み~」


「がう」



 姉弟と委員長さんはミーちゃんとルーくんをモフりまくっています。爽やかイケメン君とヤンキー君はそれを面白くなさそうに見ている。ヤンキーって猫とか好きなイメージがあるけどこのヤンキー君は違うのかな? それとも人前では見せたくないタイプ?


 大皿に団子を載せて近くにあった台の上に置き、ついでに飲み物も出してやる。


 全員がその台を囲むように座る。もちろん、俺もね。



「「頂きま~す♪」」



 委員長さんが餡子団子を食べるのを、ミーちゃんがジッと見つめてます。



「子猫ちゃん、食べたいの?」


「み~」


「ちょっとだけだよ」



 手に餡子を少し取りミーちゃんに手を向けると、ミーちゃん嬉しそうにペロペロ委員長さんの手のひらを舐めてます。



「くすぐったい♪」


「あ~、まことずる~い。かおりもした~い」


「お前達、少し静かにしてくれてないか……この人に聞きたい事がいろいろあるだろう。時間を無駄にしたくない」


「「……」」


「俺は遠藤勇えんどういさみ。日本人で今は勇者をしている。率直に聞く。君は何者だ?」


「勇者ですか……残念ながら、あなた達は勇者じゃありませんよ」


「み~」


「ふざけんな! 俺達は勇者として召喚されたんだぞ!」


「ヤンキー君は挨拶と言う言葉を知らないようですね」


「ぷっ。ヤンキー……」


「くっ……」


「失礼しました。私は奥村真おくむらまこと。どうして、私達は勇者ではないと仰るのでしょうか?」



 姉弟もモフるのを止めて俺を見ている。若干二名程睨んでいる方達もいますが……。



「どこから、説明した方が良いんですかねぇ」


「すべて聞かせてください。根路さんの知っている事すべてをお願いします」


「わかりました。それから、根路ではなくこの世界での名前、ネロと呼んでください」



 取り敢えず、この世界に来る方法から説明しようか。神様の力で召喚されこの世界に来る者、この世界の者のスキルの力で召喚され来る者、運悪くこの世界に落ちて来た者について説明する。その時に、必ず天界を通って来て魂と肉体の改変がおこなわれる事も説明する。



「私達はその三つのどれにあたるのでしょうか? それから、その三つの違いはなんですか?」


「あなた達はこの世界の者のスキルの力で召喚された者。三つの違いに関しては簡単に言うと、神の加護を受けているかいないかの違いです。あなた達と運悪くこの世界に来た人とは、経緯が違うだけで同じ部類になります」


「神の加護?」



 どうやら説明されてないようだね。ロタリンギア側としては本当の事は言えないだろうし……。



「そうですね、この世界での保証書みたいな物です。この人は神の加護があるので安全ですよって事です」


「私は宗方香むなかたかおりです。私達はそれを持ってないんですか?」


「僕は宗方歳三むなかたとしぞう。無いとどうなるんでしょう?」


「あなた達は残念ながら持っていません。神様自身があなた達とは関与を否定する神託を出しました。なので、勇者を名乗る事はできないのです。では、世間一般であなた達をどう呼んでいるかですが……偽勇者」


「ふざけんな! 俺達は勇者として召喚されたんだぞ!」



 ヤンキー君は学習能力が無いようだよ。挨拶もしないし同じ事言ってるし。



「神の加護にはある能力があります。だからこそ、この世界の人達は神の加護を受けた者を勇者と呼ぶんです」


「その能力とは?」


「心を守る能力。負の考えを排除し、純真な心を保ち、金、地位、快楽などの欲に溺れる事がなくなる。そんな人ならどこででも信用されますよね」


「み~」


「俺達にはそれが無いと……」


「それが無いとどうなるのでしょうか……?」


「心の弱い者は己の欲望のまま、身につけた力を使うでしょう。人はそれを闇落ちと言います」


「闇落ち……」


「人は欲望に弱い、それを抑えれる者は真の勇者。でも、そんな人居ると思いますか? だから神様は加護を与えるんです」


「私達も闇落ちする……?」


「あなた達は鍛えれば魔王を倒せる力を手に入れられる。だけど、同様に心も鍛えなければ確実に闇落ちもする」


「闇落ちしたらどうなる?」


「あなた達が闇落ちしたら、魔王となんら変わりが無い。今度は闇落ちしたあなた達が討伐対象に変わるだけ……」


「みぃ……」





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